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第二十五章 実行


第二十五章 実行



「靖之さん。親父が気づいたようすなんだ。」

 夜中に征次の泣くような声の緊急電話でたたき起こされた亀井靖之だ。

「何だ。どうしたんだ。訳を話せ。そうゆっくりと。」

「うん、今朝、親父が銀行へ行くって言うんだ。俺に一緒に行って通訳しろって。金をまとめないで分散するつもりだったらしいんだ。でも俺としたら親父に銀行へ行かれたら最後だもんな。今日は客が来る予定が有るって断って事務所へ行ったンだ。そうしたら事務所の中には誰もいないんだよ。夜まで待ったけど本当に誰も帰ってこなかった。どうしたんだと弁護士の一人に電話をかけたら、引っ越した後だった。靖之さん。俺、どうしよう。親父の事も、事務所の事も何も出来ないよ。」

 征次が電話の向こうで泣き声を交えて言った。

「よし判った。今どこに居るんだ。」

 靖之の言葉に

「今?今はモーターウエイだよ。ブリスベンから帰っている。」

 と征次が答えた。

「よし、それならロビーナまで走れ。そこで駅前の俺の新しい事務所へ来い。知ってるな?」

「はい、確か4階でしたね。」

「そうだ。今から行くから30分後に会おう。こんな時間だから、電気の点いているのは俺の事務所だけだと思うからすぐ判るだろう。」

 靖之が時計を見ながら征次に言った。

「どうしたんだ。事務所に人がいないってのは。」

 ちょうど30分後に事務所の前で会った二人はエレベーターで4階にあがり、靖之が自分のキーでドアを開けながら後ろの征次に聞いた。

「えぇ、別に事務所に用事があって行った訳では無いのですが、家にいる訳にもいかなかったので行ったのです。最初は昼飯にでも出掛けているのかなと思っていたのですが、ちょっと昼寝をして4時頃コーヒーでも頼もうと自分の部屋から内線電話で遥香を呼んだんだ。その時に誰も出ないからどうしたのかと事務所へ出てみたら電気も点いて無くて、誰もいないんです。6時まで待ってたんですが誰も帰って来ないので事務所を閉めてカジノへ行ったんです。勝てなかったので10時にもう一度事務所に帰ってみたけどやっぱり誰もいない。忙しいときなんかはみんな居るんですが。どうしてだろうって考えて吉川君に電話をしてみたらメッセージサービスで、この電話は使われていませんっていうアナウンスだけなんです。」

 征次が応接セットの長椅子に座りながら言った。

「その吉川君って言うのは弁護士だね。他の弁護士の電話番号は知らないのか。」

 靖之が聞いた。

「弁護士もみんな独身ですから、俺が買っているマンションに一緒に住んでいました。あっと、遥香だけは別に自分でアパートを借りていました。でも最近部屋を変わったって言ってたなぁ。」

 征次が答えた。

「ちえ、しょうがないなぁ。それはお前に愛想を尽かして出ていったんだよ。携帯電話番号は判るんだろう。そっちへかけてみたのか。」

「いえ、携帯電話はプライベートもかかってくるからとみんな教えてくれません。」

「参ったなあ。お前はどうしようもねえ奴だなあ。まぁお前の弁護士事務所は開店休業にするしかないな。ところで親父の方はどうなった。」

 靖之はポケットからウインフィールドを出し1本引き抜いて、うまそうに火をつけて深く吸い込んだ煙を吐き出しながら言った。

「うん、今朝10時頃俺が起きたら親父が、今から銀行へ行くからついてこいって言ったんだ。何のために行くんだって聞いたら。一箇所の銀行に大きな金を置いていたら目立つから、分散させるって言うんだ。これはやばいと思ったから俺は今日客が事務所に来るから行けないって断って飯も食わないで家を飛び出したんだ。もし一人で銀行へ行っていたら全部の金を俺が引き出して、俺の口座に入れている事も知られるし、カジノでの負けも判ってしまうし、陳に払った金額や、靖之さんに投資している事も全部わかってしまう。もうばれているかも知れないんだ。」

 征次は言葉の最後の方では力を落として言った。

「そうか、お前は親父が居るから苦労しているんだな。まぁ俺ン所も同じようなもんだ。親父はいつかは先に死ぬ。いっその事、早めに死んでくれた方がよいなんて考える事もあるよな。お前もそう思った事は無いか?」

 亀井靖之がしんみりと征次に言った。

「そりゃぁ俺なんか毎日そう思っているよ。今日でも今、家に帰った時に親父が死んだなんて聞かされたら飛び上がって喜ぶだろうなあ。」

 征次が言った。

「まぁな。お前ならそうだろうよ。」

 亀井靖之がしんみりと考え込んで言葉を吐いた。




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