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第二十章  大船碇禎治逃避計画


第二十章  大船碇禎治逃避計画



「靖之、お前がやっている事は関西の方でも見通されているんだぜ。下手なことをすると金だけじゃ無くて、タマまで取られちまうぜ」

 オーストラリアへ来て、豪勢なネラング川に面したウオーターフロントの別荘で大船碇禎治が息子の靖之に言った。

「へぇ、俺もそんなに有名人になったか。日本に帰ったら親父の跡継ぎで一躍羽ばたけるようになるかもな。」

 靖之が親父の消沈に比べて、逆にはしゃいだ声で言った。

「バカヤロウ。お前が俺の跡目を継ぐ線はもう無いだろうよ。」

「なんでだ。親父には俺しか男の子供はねえんだぜ。跡目は俺って決まっていたんだろう。」

 靖之は親父のか細い返事に、強く言葉を返した。

「まぁな、お前がこっちにいるあいだに色々とした事が有って、そろそろ俺も身を引かなくっちゃならねぇ事になりそうなんだ。下手すると俺のタマを取られる事もあるだろうよ。まぁそうなっちゃ、お前にまで手が伸びるかもしれねぇが。」

 靖之は親父がブツブツと言う言葉を逐一かみ殺して聞いた。

「何だよ。何があったんだよ。」

「まぁな。関西のスパイ野郎が俺のまずいところを見つけやがって、ここへくる前にちょっと脅しをかけて来やがったんだ。今のところは1000万円をやって黙らせているが、これからちょくちょく金をせびりに来るだろう。金の有る内は黙らせる事も出来るだろうが、無くなれば俺のタマは無くなる程の事だ。」

 靖之の言葉に大船碇禎治が答えた。

「なんだよ。親父。何をやったんだ。」

「別に組をどうとか、山脇会に義理を欠いたという訳ではないんだ。まぁ個人的な問題だ。」

 靖之は親父のその言葉を聞いて、あっ、女がからんでいるなと判断して言った。

「よし、判った。それで親父はどうするつもりなんだ。」

「そうよなぁ、金をまとめてこっちへ持ってきて組から逃げ出す事でもするか。」

「なに言ってンだ。そんなことで解決出来るって問題でも無いだろう。そのスパイ野郎を消してしまう訳にはいかねえのか。」

 靖之が言った。

「バカヤロウ。それこそ墓穴を掘るようなもんじゃねえか。」

「そうか親父がそう言うなら・・・じゃ、ここで決めてしまおう。まだそうせっぱ詰まっている様子じゃ無さそうだから、親父は一旦日本へ帰る。そうして出来るだけ組の金をこっちへ送れ。明日銀行に別の口座を幾つか作ってくる。そこへありったけの金を送ってくるんだ。あとはうまい時期を見つけて日本から蒸発しな。親父がどこかを半年ぐらいほっつき歩いてこっちへ来た段階で、俺がうまい隠れ家を用意しておいてやる。」

 大船碇禎治は期待していた靖之の言葉に満足そうにうなずいて言った。

「よし、そうと決まれば今夜はうまいもんでも食いに出るか。」



 江東区にある早川建設本社社長室に帰った早川浩一は専務の北見を呼んだ。

「北見君、公共工事の見通しはそのごどうなっているかね。」

「はい、国はそろそろ期限が切れるので入札参加が許されると思いますが、まだ都の方は堅くて少なくとも復帰できるまでにはあと3ヶ月は待たなくてはならないと思います。」

 北見が答えた。

「そうか、そうすれば営業はとりあえず国関係を重点とした方がいいな。民間の進捗状況はどうかね。」

「民間は社長の関連されている。エムパック社からの受注が順調ですから、昨年度に比べて200パーセントの伸びを示しています。」

「ふむ、エムパック社以外の分はどうかね。」

「そちらの方も最近の建築ブームとマンションの建て替えなどが入り、同じく約200パーセントの伸びです。」

 北見の言葉にうなずきながら

「そうか、国関係の工事が復活すれば恐れる事は無くなったと言う事だな。」

 早川浩一が言った。

「はい、しかし、これまで3ヶ月間の指名停止はかなり資金的な問題点を残しました。下請け関係は一応、民間工事へとかなり振り分けましたが、半数が縁切れ状態です。」

 北見が意見として加えた。

「俺の個人的な話だが、オーストラリアで大学まで卒業して弁護士事務所を始めた息子が、やはりぼんくらまでは直っていなかった。そこでだ、実際、俺ももう歳でもあるし、そろそろ引退して息子の応援をしてやろうと考え出したのだ。会社も沈没を免れた様子だし、いっそのこと俺は会長職へと退くから、君が社長をやってはくれないか。」

 早川の突然の言葉に一瞬ビックリした北見だ。早川に息子が居る以上、自分が社長になれる目は100パーセント無いと諦めていた。それが目の前に手の届く所へと来た。後は手を伸ばして掴むだけだ。しかし、現状で社長を引き継ぐには随分と大きなリスクがある。社長には楽観的な意見を具申したが、実際の所は火の車だった。それでも社長と言うポストには何にも代え難い魅力がある。

「わたしごときの若輩を社長の後継としてお考え下さった事は謹啓に耐えません。もしその様な事になりましたら身命を賭してでも会社に忠誠を置き、建て直しと進展に寄与したいと思います。」

 北見が机に手をついて言った。

「そうかそうか、了承してくれるか。そしたら早速取締役会を開いて貰おうか。それから臨時株主総会だな。俺としたら早い方が良いからな。そうそう退職金も考えて置いてくれよな。」

 早川が最後の言葉は声を細めて言った。

「はっ、それはもう。お任せ下さい。」

 翌日開催された取締役会で早川社長退任、会長職就任の決議がなされ、北見社長が誕生した。席上、早川会長に対して50余年間の功績が讃えられ、退職金8億円の支給が決議された。




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