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第十九章  ダルビー警察署


第十九章  ダルビー警察署



 白骨死体発見後、しばらくの間はダルビー警察署からは何の連絡もなく、香山も小野原も二人の会話の中から事件の話題は消えていた。しかしあの事件以来二人は共同して河川底探索に出掛けるようになっていた。そんなある日、香山の携帯電話で殺人課のジェイソン課長からの言葉を受けた。

「その節は失礼しました。早速ですが、例の白骨死体の身許が未だに判らないのです。ただ当地には無いワイシャツのクリーニングマーク様なものと、背広の生地から外国人、特に東洋人と言う感触を得ているのです。勿論、体型などからでも東洋系人だと考えているので、暇な時で結構ですから署まで起こし頂いてマークなどを見て頂きたいのです。いわば協力をお願いしたいのです。」

 ジェイソン課長の言葉は丁寧そのものだった。

「ジェイソン課長が小野原さんに協力してくれと言ってきましたよ。」

 今日は夕食当番が香山で、メニューは野菜ふんだんの焼き肉だ。テーブルにポータブルコンロを置き、共に肉や野菜を焼いている時にビールをうまそうに呑んで香山が小野原に言った。

「へー、まだ身許すら掴めていなかったんですね。あれからもうかれこれ1ヶ月が過ぎるでしょう。こちらの警察はのんびりだなぁ。じゃ、明日にでも行きますか。」

「でもねぇ、わたしはあんまり行きたくはないのです。最初に殺人犯と思われただけでも気分が悪いのに。また彼の顔を見ると腹が立ってくるような気がするんですわ。」

 香山が気が進まない様な顔で言った。

「それは困りますよ。香山さんが行ってくれなかったら通訳が無いじゃないですか。」

 小野原が肉をほおばりながら言った。

「何を言ってるんです。もう小野原さんに通訳なんか要らないでしょう。」

「いやいや、香山さんは治安判事でもあるし、警察用語を英語で出来るじゃないですか。わたしはまだ生活用語だけですからね。お願いしますよ。」

 小野原は既に捜査に参加する気でいる。やはり警察官根性は死ぬまで抜けそうに無い。

「まぁ毎日が暇人ですから、良いですけれどねぇ。」

「香山さんには言ってませんでしたが、恐竜を勉強している時にわたしは恐竜探偵になってやろうと思ったのです。だからそれが本物の探偵になってもかまわないじゃないですか。ひょっとしたら面白い人生が送れるかも知れませんよ。」

 小野原が誘い水を送った。

「ほう、そうですか。じゃぁ、小野原さんがシャーロックホームズでわたしがワトソンですな。そう考えたら面白そうですな。」

 香山も乗ってきた。


 翌日、早朝から車を走らせ、ダルビーの町中でワレゴハイウエイ添いにある警察署へと入った。

 既にジェイソン課長も出署しており、二人は案内されて警察署の一番奥にある死体安置室へと足を進めた。そこには白骨が元通り組み立てられてステンレスのテーブルの上に寝かせてあった。

「散逸した人骨を元の骨格に組み立てる方法はね、最初に腰の部分の寛骨と中央の仙骨を組み合わせて骨盤をつくり、これを基にして脊椎骨を一番下の第5腰椎から順に上に並べて行くんです。そしてそれに頸椎をつなげ、その第1頸椎の上に頭蓋骨を乗せるでしょう。続いて下肢の組み立てをするのです。骨盤と大腿骨を結合して、その下に頸骨をつける。頸骨の下は足骨を並べるのですが、左右の骨が混じり合っているので一つ一つ見分けながら並べて行き、最後に足首から指先迄の骨を右左確認しながら並べます。そして最後の作業に上肢ですね。腕が終わると手の骨を組み立ててジグソーパズルが完了するのですよ。」

 小野原が香山に説明してくれた。

「なるほど、わたしはジグソーパズルの愛好者ですし、恐竜の組み立てに近いものですから何となく判ります。でも人骨のパズルはやりたくないですなぁ。」

 二人が話している間にジェイソン課長と課員と見られる制服警官が別のテーブル上に白骨死体が所持、着用していたそれぞれの物を並べていた。

「何を話しているのです。」

 ジェイソン課長が香山に尋ねた。

「今、小野原さんがこの骨パズルの組み立て方を教えてくれていたのです。」

 香山が答えた。

「なるほど。じゃ、とりあえず電話で話しましたワイシャツから見てもらいましょうか。」

 と、別のテーブルに向きを変えて指さして言葉を継いだ。

「これなんですが、この赤い糸で字のような記号があるでしょう。貴方は何だと考えますか。」

 香山も小野原も指さされた部分を見て、一目でわかった。実際通訳なんか不要だが香山は小野原に

「このマークを見て何だと思うと聞いていますが、一目でわかりますよね我々には。」

 と言った。

「そうですね。100パーセント日本人ですね。しかも左側の小指の第一関節から先がありません。第二関節の先端に刃物跡が見受けられるので人為的に切断されたものと考えます。日本人でしかも小指が無いとなれば、やくざ。いわゆるジャパニーズマフィヤです。」

 香山に向かって話していた言葉を途中から英語に換えてジェイソン課長に向かって小野原が話した。

「そうですか。やはり我々も日本人では無いかと考えていたのです。早速インターポールを通じて日本の警察庁に依頼をする事にします。」

 ジェイソン課長が言った。

「何でしたら、今から日本の警視庁へ電話を入れてわたしが聞いて見ましょうか。」

 小野原がジェイソン課長に向かって言った。

「おぅ、それは良い。ではこちらの電話を使ってください。」

 ジェイソン課長が1分でも早い方が良いと電話機を指さしたので、小野原は元の古巣の丸の内署へ電話をした。

「元、1課にいた小野原勉です。山本君をお願いします。」

 電話の向こうでは課長が叱咤激励している声が聞こえる。小野原は久し振りに聞くその声を懐かしく聞いていた。1分程で山本が出た。

「珍しいですねぇ。オーストラリアへ行ったと聞いていたのですが、帰って来ているのですか。」

「いやいや、今オーストラリアから電話をしているんだよ。みんな忙しそうだね。電話の後ろからビンビン聞こえてくるよ。」

 小野原が言った。

「えぇ、昨年の暮れから連続殺人事件がありまして一昨日前に同様手口で4人目の被害者が出たのです。だから課長が必死になって叫んでいるのが聞こえるでしょう。」

「なるほどねぇ。忙しいところ申し訳ないんだが、ちょっと調べて貰いたい事が出来たんだ。実はこの電話もクイーンズランド州のダルビー警察からかけているんだが、こちらでの殺人事件の第一発見者に僕がなって今はその捜査に協力する事になってしまったんだ。」

「へー、小野原さんらしいですね。それで何を調べたらいいんですか。」

「うん、ここ1年ぐらい前からオーストラリアに来て行方不明になっている丸暴関係者がいないかを知りたいんだ。」

 小野原が一言一言確実に伝わる様に言った。

「丸暴でも小者は判りませんが、大物が一人おりますよ。」

「なんだと。」

 小野原が叫んだ。

「その名前は判るか。」

「えぇ、そんなにおおきな声で言わなくても判りますよ。名前はね、えーと、大船碇、確か大船碇禎治って名前でしたよ。千葉の大船碇組の組長です。僕の友人が一緒に呑んでいる時に漏らしたのですが、3ヶ月のビザでオーストラリアへ行ったきり帰国しないと言う話でしたよ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

 小野原が受話器を押さえて香山に言った。

「香山さん、そのネームを見てくれませんか。オオフナトと読めませんか。」

「えぇ、言われたらオオフと読めますね。」

 香山が答えた。

「おい、山本君。その君の友達に連絡してその人間がわたしの住んでいるダルビーって所で白骨死体で発見されていると伝えてくれ。今、現在、わたしの目の前でその白骨死体が寝ているんだ。」

 小野原勉がせき込んで山本に言った。

「判りました。すぐ連絡してそちらに折り返し電話をさせます。」

 電話はすぐに切れた。

「この人物の身許が判明しましたよ。名前は大船碇禎治。千葉県のやくざの親分でした。」

 小野原勉が英語でジェイソン課長に伝えた。

「おぅ、さすが日本の警察だ。素晴らしい。ありがとう。」

 ジェイソン課長が小野原の手を両の手で握り頭を下げた。




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