第十八章 弁護士事務所の崩壊
第十八章 弁護士事務所の崩壊
数日後、熊谷弁護士事務所の会議室に3人の弁護士と内田遥香が揃った。
「みんなも内田君から聞いただろうが、熊谷弁護士が客の金に手をつけたと言う事はひいては我々の立場にも響いて来るはずだ。亀川さんは熊谷弁護士のお客さんだからとは言え、ここにこうして働いている我々にも飛び火は必ず来る。そこで僕は今日限りでここを辞めようと考えている。今僕が持っているお客さんは30人程だがこれを総て持ってゴールドコーストの知り合い弁護士事務所へと移籍するつもりだ。撲自身の決意は今言った通りだが、みんなの気持ちも聞かせて貰いたい。」
熊谷弁護士事務所では最高の知識と実力を備えている吉川が言った。
「吉川さんは顔が広いからいいなぁ。僕なんか事務関係だけだったので、他の事務所との繋がりが無いからどうすることも出来ませんよ。」
内山弁護士がつぶやいた。
「何を言っているんだ。もし君がここに残ったら、委任状を君が作ったなんて言い出しかねない人だからな熊谷さんは。そんな扱いを受けてもいいのかい。」
吉川が内山に言った。
「それは困るけど、昨日の今日では就職先も無いし、僕みたいな弁護士のたまごは雇ってくれる所は無いんじゃないかな。こんな事になるなんて考えてもみなかったから蓄えも無いし。」
内山が芯から困ったように言った。
「俺は、吉川君と同じ意見だな。俺も今まで次の就職先なんて考えていなかったから不安は有るが、もし今のままでいたら犯罪者にさせられるかも知れないしな。」
横から河村弁護士が言った。
「よし判った。内山君もすぐに就職先が有れば移りたいと言う事と解釈して良いんだね。」
吉川が内山に返事を求めた。
「そりゃぁ、出来たらそれに越したことはありませんよ。撲はここにいても先輩二人が総ての仕事をするので直接のお客さんを持っていませんしね。もしお二人が出られても知識と経験の無い僕にはあの先生に代わってここを運営する力も有りませんからね。」
内山弁護士が言った。
「よし決まった。既に内田女史には了解を貰っているので。4人揃ってゴールドコーストへ移籍しよう。そうすれば熊谷先生の2人の客は先生に任せて、それ以外のここの客は総てをそちらへと持っていけるからな。歓迎されるぞ。」
吉川が言った。
「なーんだ。そんな話しになっているのですか。吉川さんも人が悪い。」
内山弁護士が言った。
「それにね、それぞれの宿舎が決まるまでは1軒の家まで貸してくれるそうなんだ。ウオーターフロントの家だそうだ。部屋もちゃんと4つ有るそうだぞ。」
吉川が付け足した。
「えーそれは凄い。そんな話ならもっと前でもよかったのに。」
河村も言った。
「じゃぁ、今日でこの事務所は熊谷弁護士だけが残ることになる。それぞれこの用紙にサインをしてくれ。」
吉川が出した書類はそれぞれの名前が打ち込まれた退職届けだった。
「さすが吉川さんだ。用意周到。でもね。熊谷先生がこれを読めるンでしょうか。」
「内山君、何言ってるんだ、そんなこと当たり前じゃないか。」
河村が言った。
「でも、これって英語ですよ。」
内山の言葉に全員が声を合わせて笑った。