表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

第一章  河川底恐竜化石探索


恐竜探索殺人事件

     オーストラリア編 作者 香川景全


______________________________________________________________________________


主な登場人物


小野原勉 主人公:丸の内署を退職。

香山影治 古生物学者:オーストラリアで恐竜探索に余生を傾けている。

熊谷征次 早川浩一の息子:馬鹿。大学を親父の金で卒業。弁護士になる。

亀井靖之 大船碇禎治の息子:大学受験に失敗しゴールドコーストへ流れ,大学在学中

に不動産で儲ける。熊谷征次と出会い。

熊谷初恵 早川浩一の2号:気が強く

早川浩一 早川建設社長。


大船碇禎治大船碇組組長:

ジェイソン課長ダルビー警察署の殺人課刑事


_________________________________________________________________________________



目次



第一章   河川底恐竜化石探索

第二章   1995年6月

第三章   1993年8月

第四章   恐竜との出会い

第五章   川底探索

第六章   1994年2月

第七章   1995年7月

第八章   新事業

第九章   恐竜展

第十章   2004年12月

第十一章   密談

第十二章   弱気

第十三章   早川浩一逃避計画

第十四章   大陸一周旅行

第十五章   大船碇禎治

第十六章   身代わり

第十七章   崩壊

第十八章   弁護士事務所の崩壊

第十九章   ダルビー警察署

第二十章   大船碇禎治逃避計画

第二十一章  密謀

第二十二章  逃避

第二十三章  酒場

第二十四章  逃避行

第二十五章  実行

第二十六章  毛髪

第二十七章  プロローグ




_______________________________________________________________________________



第一章  河川底恐竜化石探索


小野原勉は毎週の日課となっている河川底恐竜探索に出掛けた。2006年の今年は例年になく雨量が少ない。雨期にも雨らしい雨が降らなかった。だから川底と言っても時たま水たまりがある程度なのでハイキング気分で歩ける。

 オーストラリアに定住を決めて以来、取り憑かれた恐竜の探索だった。基地を定めたクイーンズランド州のダルビーという町を中心として色々な場所を探索する内に、一年程前から体力維持と、気分転換を求めて河川底の探索を加えたのだった。


 そもそも小野原勉が住むダルビーの土地自体が110myaと言う古い表層部を持つ土地である。myaと言うのはミリオン・イヤーズ・アゴーの略称で、100万年前の意味だ。いわゆる小野原勉は1億1000万年も前の地上に住んでいる訳だ。河川底は更に表層部から10メートルも下だ。

 化石を一つ見つけクイーンズランド博物館で調べて貰ったら130myaと判断されたことがある。いわゆる毎週の日課として歩く土地は1億3000万年前のジュラ紀に近い白亜紀のものだ。


 河川底探索も、毎日だと飽きるし、変化の無い暮らしの一週間にけじめをつける意味で日曜日とした。朝目覚めるとトーストを焼きながら昼飯用のサンドイッチを作る。今日は天気も良いし風もない。

「今日は、新しいコースを歩いてみようか」

 と、気持ちも新たに、作るサンドイッチにも趣向を凝らし、コーヒーには牛乳をふんだんに入れ、そして大きめのジャーに氷をたくさん詰めて入れた。

 出掛ける前に地図を丹念に確認し、ウイルキー・クリーク(川)の今回探索する予定未踏査部分にしるしを入れ愛車の4WDを走らせた。ウイルソンズ通りと表示されている道に来た。勿論舗装などされていない。たぶんこの道から入り込んだ所が今日の起点になるだろう。ただ道路名からして個人の専用道路では無いかとふと思ったが、何か言われれば引き返せばいいと左折しクリークまで車を走らせた。クリークまではほんの2キロ程の距離だった。道は一旦川底まで降り小さな潜水橋を経て対岸へと続いている。

 小野原は対岸へと車を走らせた。しかし道は潜水橋を渡り対岸へと登り切った段階で行き止まりとなり、農地の入り口柵があるだけだった。空地に車をUターンさせて停め、恐竜探査七つ道具を用意している最中、地元の老夫婦が追いかけてくるように車を走らせて来た。どこへ行くのかと聞かれた。車に貼った恐竜のステッカーを指さし、今から恐竜を探しに川底を歩くのだと説明した。小野原が歩き出すと、彼等は

「天気もいいし頑張ってね」

 と言い、車をUターンさせて元来た方角へと走り去った。やはり個人がつけた専用道路だったのだろう。文句を言われなかったので予定どおりクリークの底面を北上した。


 一言でクリークと言っても川幅は広い所で50メートルもあり、深い所では地表まで10メートル程もある。今日は始めてのコースなので北上は1時間と決めた。

 オーストラリアという所は不思議な所だ、川の中の至る所で有刺鉄線によってせき止められている。ここから入ってはいけないというのかと最初の頃は、その有刺鉄線までで引き返して探索をうち切ったものだった。一度思い切って、近くの農家の人に片言の英語で聞いた。それは人の進入を妨げるものでは無く、周辺牧場の牛がよそ様の土地へと移動しない為の柵だと言うことだった。それ以後は有刺鉄線にシャツを引き裂かれながらも予定どおりのコースを消化して来た。

 始めてのコースは必ず道に迷う。それは河川が幾つも合流してメインのクリークを形成しているからだ。このクリークの場合北行は川の流れに沿って下流への遡行である。しかし、帰路は川の流れに逆らう事になる。いわゆる主流を歩いているつもりがいつの間にか支流を歩いている事が度々ある。一旦支流に迷い込むと気がつくまで1キロも2キロも余分に歩かなければならない。

 雨が降らないので河床は完全に乾燥して大半が砂地になっている。それでも生乾きの所もたまにあり、粘土質の場合は表面が亀の甲状態にクラックが入っている。たまにその状態で石化しているものもあり一瞬亀の化石かと見間違う。いわゆる擬似化石と呼ばれる物だ。

 大木が数カ所倒れ川をせき止めている箇所がある。日本で言うなら注連縄を廻した御神木と言われるほどの大木もあった。

 川底と言っても谷あり山ありで、更に恐竜の探索という崇高な目的があるので眼に景色は映らず、足下と壁面ばかりに眼を走らせる。その所為で今回も帰路に2度も支流へと足を踏み入れてしまった。

 明らかに本流より川幅が広く、100パーセントの確信の元に選んだコースだったが500メートル程進んだ段階で間違いに気づいた。


 約2時間半の踏査だったが普通の道を歩くのに比べ、遙かに疲労の度合いは異なる。しかも成果が無ければ更に疲労度は加わる。今日も成果無しだった。




第二章  1995年6月



 「おい征次。おめえは毎日毎日何をやっているんだ。大学行く気がないんなら予備校なんか止めちまえ。仕事をしろ。馬鹿やろう。起きろ。」

 部屋のとびらを蹴飛ばすようにして入ってきた浩一が、ベッドにゴロゴロしている征次を見つけて言った。

「うるせぇなぁ。親父かよ、寝るときぐらいゆっくり寝させろよなぁ。」

 征次が寝返りを打って顔を壁の方に向け替えた。

「馬鹿やろう。何時だと思っているんだ。もう昼だぞ。とっとと予備校へ行け。」

 浩一がベッドの足を蹴った。

「うるせぇって言ってるだろう。なんで今更てめえが親父面するんだ。ふん、犬か猫みたいにメスに子供だけ産ませておいて、いまさらバカヤロウはねぇだろう。ほっといてくれ。」

征次は言って布団を頭からかぶった。

「てっ、てめぇは何て言いぐさをするんだ。もう今日という今日は勘弁ならねぇ。とっとと起きやがれ。」

 浩一が、言うと同時に蒲団をまくり上げ、征次の肩に手をかけた。

「ほう、どう勘弁ならねぇんだよぅ。」

 征次は親父の手を振りほどきベッドから飛び起きた。既に手は浩一のネクタイをつかんでいる。征次の体格はずんぐりむっくりで、背丈は既に親父より頭一つ分大きく、浩一の細目と違って大きな目でしかも生まれつきそれぞれの眼球が少し違った方向を向くひが目だ。それがこうやって凄んだ時の征次は既にやくざのちんぴらだった。

「めったと顔を見せねぇてめぇが、いっぱしの親父面するんじゃねぇ。」

 ひるんだ浩一の一瞬をついて、征次は部屋から出ていった。


「おい征次はどこへ行った。」

 二階から降りてきた浩一が、応接セットに座ったままの初恵を見下ろして言った。

「知らないわよ。あんな子供、いつまでも監視なんか出来る訳ないでしょう。あんな子供がわたしのお腹から出てきたかと思うだけでイヤになるわ。あんな子はどこへでも行きゃいいのよ。」

 初恵がヒステリックに叫んだ。

「あいつは、俺の会社にまで金をせびりに来たらしいんだ。お前はどんな育て方をしているんだ。」

 浩一が初恵の前に座りながら言った。

「何言ってんのよ。一緒に暮らしているわたしの身にもなってよ。」

 初恵が髪を振り乱しながら立ち上がって叫んだ。

「わかったわかった。いいから座りなさい。」

 浩一が初恵の肩に手を伸ばして押さえ込むようにして座らせ、初恵の気持ちが収まるのを待った。浩一は考えた。どうしてこんな女とこうなったのだろうか。昔は色気もあったし、優しさもあったように思う。今はどうだろう。この夜叉みたいに髪を振り乱している女はいったい俺にとって何なのだ。うまく放り出す方法は無いものだろうか。

「征次が学校も行かないのなら、俺の会社で作業員からでも仕込んでみようと考えたのだが、それも難しそうだな、、、、」

 初恵の気持ちが少し収まった様子を見て浩一が言葉を漏らした。初恵がため息をついている。

「このまえ、あの子がちょっと落ち着いている時に話をしたの。そうしたらあの子、オーストラリアへ行きたいなんて言うのよ。」

「オーストラリアへ行って何をするんだ。」

 浩一がビックリして聞いた。

「ううん、別に何をするっていう訳じゃないの。ただ行って住みたいだけのようよ。」

 初恵も征次の気持ちが判らないと言う感じで返事を返した。

 浩一はしばらくの間、眼をつぶって考えてみた。どうだ、これはいい機会じゃないか。いっそ初恵も一緒にオーストラリアへと放り出すか。遠い国だからそんなに度々帰って来るわけにもいくまい。これは一石二鳥って言う事じゃぁないか。よし。

「そうか、征次がやりたいことなら、いっそやらせてやった方がいいかも知れないぞ。今は会社も景気がいいから、金は出してやれる。この前ゴールドコーストって町に行って来たんだが、あそこはいい町だ。いっそそこで日本料理店でも開くか。お前だって小料理屋をやっていたんだから、向こうでやっても同じ事だろう。征次が手伝うならそれもいいし、学校へ行きたいなら向こうの学校と言う手もあるし。どうだ一度一緒に行ってみるか。」


 浩一の言葉を聞いて、初恵が眼を輝かせた。初恵には気のおけない友人が一人いる。その彼女が昨年、オーストラリアのゴールドコーストへと移住していったのだ。何でも向こうに住んでいる日本人と結婚したそうだった。彼女からゴールドコーストの素晴らしさは耳がタコになるほど聞かされていた。本当は初恵が征次をオーストラリアへと誘ったのだ。でも浩一にはそんな事は言えない。

「でもオーストラリアって遠いんでしょう。わたし心配だわ。」

「何を時代遅れの話をしているんだ。この家から成田まで40分ぐらいで行くし、成田からブリスベンまで8時間ぐらいだぜ。しかも夜中に飛んで行くから飛行機に乗ったとたんに寝てしまえば朝起きたときにはもう着いているんだ。俺なんか運転手に乗せられた車の中で居眠りをして、飛行機の中でぐっすり寝て、目覚めたらオーストラリアだったから、まさか自分が外国にいるなんて気にもならなかったぐらいだ。」

 浩一は初恵がその気になるようにと、気を引くように力を入れて言った。

「そうね、わかったわ。征次ともゆっくり話してみるわね。」


「征次どうする。お父さんがオーストラリアへ行っても良いって言ったよ。」

 それから数日後、夜中まで征次の帰宅を待ち、初恵が征次を応接セットに座らせて言った。

「なぁんだ、また説教を聞かされるのかと思った。そっか、オーストラリアへ行けッてか。やっぱり俺なんかいらない子供なんだな。」

 征次が僻んで、タバコに火を付けながらつぶやいた。

「違うわよ。お父さんはゴールドコーストに日本食のレストランを造るからわたしに行けって言うのよ。だからあなたが手伝うか学校に行くか考えろって言ったのよ。」

 初恵が慌てて征次の考えを否定した。

「どうせ親父の考えることだよ。俺達厄介者は遠くへ島流しにした方が気楽なんだ。」

「馬鹿、何を言うのよ。馬鹿。」

 初恵が征次の顔を叩いた。

「なにするんだ。お前だってそう言ってたじゃないか。」

 征次がほっぺたを押さえて息巻いて言った。

「まぁ、何でもいいじゃない。せっかくお父さんがその気になったのだし。お金を貰って遠くに住むだけでも気楽だからね。あんただって毎回毎回うるさく言われるのはイヤでしょう。」

「どうでもいいけどね。だけどオーストラリアって言葉はどうするんだ。英語だぜ。あんたはABCすら知らないんだろう。俺だって英語が出来れば予備校なんて行かないで大学に入っていたんだから。」

「馬鹿だねぇ、お金が有ったら通訳だって雇えるじゃない。そんなことはどうにでもなるわよ。」

「外国って言ったらビザだっているんだぜ。まして仕事をするなんて言ったら大変だろうよ。」

「そんなことは全部お父さんにやらせれば良いんだから。あんたは一緒に行くかどうかだけを決めれば良いの。いい。」

 イライラしながら初恵が言う。これ以上話をすると又々ヒステリーになると征次は思った。

「わかったよ。俺だってここに居てもする事もないし、親父から少しでも離れられるなら一緒に行くよ。いつから行くんだい。」

「あ〜よかった。お父さんが来週にでもゴールドコーストへ行って店を探して来いなんて言うから。あたし一人じゃ心細かったのよ。月曜日の飛行機にするわね。」

「おいおい、何考えているんだ。外国ならパスポートもいるし、ビザだっているんだぜ。俺はパスポートなんて持ってないし、そんなに早く出来る筈がないだろう。」

 全く何も知らないお袋だと征次は思った。

「ううん、それは全部お父さんがこの前来たときに作っておいてくれるって言ってたから大丈夫よ。とりあえず旅行の用意だけしておいてね。」

 話はこれで終わりのようだ。初恵が立ち上がった。

「わかったよ。じゃぁ10万円くれるか。旅行するのにカバンを買ったりしなければな。」

 慌てて征次が言った。

「いいわよ。じゃぁここに10万円あるから、あなたにあげる。でも無駄遣いしちゃ駄目よ。」

 征次は札束を無造作にポケットに押し込み二階の自分の部屋へと急いだ。





(作者より)

勿論小説ですので全てフィクションです。しかるに登場人物、事象に関しては現存される人々とは全く関係はございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ