寒夜の無音
寒い夜の道は
指先の痛みと重なり
雪と揺れと存在の濃淡を
薄く広げていくのです
持ち歩くことしかできない形は
日頃は仕舞い込んでいても
そこにあったことを
命尽きるまで
思い出させるのでしょう
刺すような寒さを
遮るような暖かい場所が嫌いで
その灯油の香りも
空気を煮立たせる熱も
何処か遠くへ置きたくなるのです
冷たいままで
目立たずに消える氷であれば
透き通ることができると
泥水も凍ることがあることを
一瞬、忘れて
考えてしまうことに
何処かで耐えきれないのでしょう
扉を開けて芯と鳴る
鳴ったように聞こえる夜は
素直な風を喉に貼り付けて呼吸をし
振動しない言葉で
明るい会話をするのです
閉じたり開いたりしても
摩耗はしないものなのに
段々とかすれる存在を
手で探し回るのでしょう
湯気で見えなくなるのは
眼鏡の先に居ないからで
飲み込んだ液体を何かとは
認識していない
たぶん、紅茶だろうなと
薄っすら舌が認識しても
脳は興味が無いみたいだ
強がる日も一人きりにした日も
壊れてしまう事はない過去
一瞬、遠くへ
記憶したのが時間だけであるなら
必ず居た存在になるでしょう
誰も知らない形は
誰かに聞いて欲しい形ではない
誰かが知ったとしても
変わることなど無い
だとしたら
記憶という部屋で
共に過ごす方が
穏やかな風になるでしょう
暑くも寒くも無い部屋で
ゆっくりと話をしよう
音にならない言葉を
感情を振るわせて




