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「50人から60人くらいですか?
捕らえているのは3人です」
天童中尉が答える。
それを耳にした人間たちは怖気が走った。
吸血鬼たちは無表情でいる。
それが気味が悪い。
3人いる吸血鬼の中でひと言も話してない男、リリー幸田がスッと席を立って部屋から出ていった。
「ところで」と前置きしたウィッカー少佐が続ける。
「大臣は知らなかった」とここで言葉を止める。
「一部の自衛隊員が暴走して我々に襲いかかってきた」で終わる。
嫌な空気だけが残った。
「川上幕僚長、どういうことだね?
説明もなにもないって···」
額からツ〜っと汗を流している和久井大臣が押し殺した声を上げた。
確かにそうだ。
説明もなにも、自衛隊内でも川上以下、荒木信長を室長にした対吸血鬼特別作戦室の単独での吸血鬼制圧作戦だった。
川上にしても、まさか防衛大臣と吸血鬼が手を組んでいるとは想像もしてなかった。
今の川上にしてみれば防衛大臣などになにも相談しなくて良かったと思っている。
突入を止められてただろうし、この大臣の正体もわからなかっただろう。
その防衛大臣は川上幕僚長の独断作戦を腹立たしく思っている。
激怒しているのはお互い様ということになる。
「ところで」とまた前置きした後、ウィッカー少佐が続けた。
場所を移ろう、特別な余興をお見せしようと席を立った。
なんのことだかわからないが川上たちは従うしかなかった。
元はかなりの大きさの物流倉庫。
内部は大規模にリフォームしていて、プラス建て増しまでしている。
そのため内部の広さは以前の倍以上になっている。
川上たちはこの建物がなんのためにあるかは知らない。
吸血鬼たちの隠れ家だとだけ認識している。
実際には汚れのない人間を養殖している血液生産工場であるのだが、そんなことを人間たちに教えてやる義理はない。
人間たち5人が連れていかれた部屋は病院の緊急治療室のような造りだ。
川上は実戦こそ経験はないが自衛隊のトップだけあって堂々としている。
肝が据わっているのは2人のSPも同様だ。
少々のことでは場に飲まれることはない。
反対に和久井大臣と森田は場所が変わっただけで情けないほどおどおどしている。
なにが始まるのかはわからない。
抵抗はできない。
全員が丸腰だ。
吸血鬼相手に戦うのは難しい。




