2-8
あっと猪狩は声を上げてしまった。
自分の体が持ち上げられてしまった。
これではっきりした。
あの赤ん坊だ。
姿こそ赤ん坊だが超能力者で間違いない。
捕まった。
逃げようがない。
今度はくそっと漏らした。
それが最後だった。
上半身が右側、下半身が左側にねじ曲げられていく。
抗う術がない。
1周、2周と回るごとに流血と臓物がグッチャグチャと路上に滴り落ちていく。
上半身と下半身が分かれて路上に捨てられた。
最後に猪狩がバケモノと言ったつもりだったが声になってなかった。
「大丈夫?」とつぐみが倒れている月読の真上に移動した。
「いやぁ、ちょっと無理かな···」とか細い声で返した。
何種類の毒に侵されているのかは伺いしれないがひょっとすると毒同士の化学変化まであったのかもしれない?
死ぬことはないと思うが苦しいのはいただけない。
解毒まで時間がかかりそうだ。
それまでは安静にしておくしかない。
と思ってたがまた賑やかになった。
手と足が異常に長い。
見ようによってはクモみたいだ。
頭というか顔はハゲタカみたい。
人間の体ってこんなに変わってしまうんだなといった典型の血獣がいる。
いつ来た?
耳障りな咀嚼音。
ガギ、ゴギっと骨を砕く音。
長い舌で眷属どもの血を舐めていて体を貪り食ってる。
吸血鬼反応と路上に広がった血と強烈な臓物の匂いに誘われて現れたんだろう。
人としての意識は完全に失くなってるようだ。
普通の人間の価値観からするとどうやっても気色悪いバケモノでしかない。
今の月読には手も足も出せない。
つぐみがどう判断するかだ。
闇夜の林道でグッチャグッチャと眷属の遺体が食われてる音だけが不気味だ。
夢中でむさぼり食っている血獣の背中に夜目にも鮮やかな炎がボワアァっと発生した。
火力はどんどん強くなっていって全身に広がっていく。
それを宙に浮かんでいるつぐみが冷静な視線を向けている。
つぐみが炎を発生させたんだろう。
パイロキネシスと呼ばれる能力だ。
なにもない所でも熱源を発生させて炎によって焼き尽くしてしまう能力。
ギーギーとイライラさせられるような唸り声を上げながら血獣は路上を転がり始めた。
そんなことをしても普通の炎じゃないので消せやしない。
時間の経過とともに激しくバタバタしてた血獣の動きも弱々しいものになっていった。
つぐみは宙に浮いたまま無表情に見ている。
そんな姿を一部始終見ていたのはグレゴール・ウォーター博士。
猪狩のことは知っていた。
その猪狩の、おそらく毒を受けても死なない月読。
それとその月読を庇護するために宙に浮いてる赤ん坊。
さらに人間が2人いる。
この連中は何者なんだろうと改めて驚かされた。
研究者としては研究対象にしたいのはやまやまなんだが簡単ではないだろう。
半ば諦めてはいるができる限りは支援もしたいとは思っている。
その理由は、いま目撃してしまった惨劇も含めて面白いと感じているからだ。




