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素顔どころか両目以外は見たことがない。
その目の動きだけでも受付にいるアシスタントのホワイト同様に人間というわけではないのだろう。
吸血鬼とも違う正体不明の人物。
この世の中にはこんな感じの正体がわからない人物がチラホラといる。
「耳にした話では軍関係の少尉だったかしら···
そんな吸血鬼が来日するみたいよ。
もっと厄介なのがその下にいる科学者も一緒にこの国に来るみたい。
かなりクセの強い博士ですって」
ホワイトが部屋に入ってきた。
月読の前に冷たい麦茶が置かれた。
もう夏になるからね。
ホワイトが一礼して部屋から出ていくとマダムがまた口を開いた。
「つい先日の話だけど、吸血鬼の眷属が2人戻ってこないって。
歌舞伎町のあたりってシレーヌって女性吸血鬼が跋扈してる所。
誰かに殺られたのかって激怒してるようだけど···」
マダムの探るような目が睨めつけてくる。
完全に疑ってるな。
それにしても地獄耳。
2日前のことだがもう耳に届いてるってさ。
吸血鬼に対抗できるのは吸血鬼。
人間たちも黙って見てるわけではなかったが、これまでは吸血鬼たちには敵わないでいた。
テクノロジーの進化とともに対吸血鬼組織が誕生したと目の前にいるマダムから教えてもらっている。
実際にはどのような活動をしているのかまではわからない。
月読はマダムに対して「誰が殺ったんだろうね?」とすっとぼけておいたが信じちゃいないだろう。
かなり疑われてるのはその瞳の色が朱に変化しているのでわかってしまう。
え〜信じてないな。
少しの雑談後、大事な紙袋を持って外に出た。
ホワイトから「ありがとうございました」と心がこもってないお言葉をかけてもらった。
外に出ると快晴。
紫外線いっぱいだ。
これなら吸血鬼に襲われる心配はない。
なぜなら吸血鬼の弱点と言われるもののひとつが紫外線だからだ。
体に触れると発火して消滅する。
他にも銀がある。
これも触れたとたんに消滅してしまう。
もうひとつはニンニクがある。
これはニンニクの成分であるアリシンに弱いということがわかっている。
ニンニクの臭いの主成分。
このアリシンがジアリルジスルフィドとアリエルメチルスフィドに分解される。
この分解された成分にも耐えられない。
アリシンに触れた時だけは発火というよりも分解していく。
つまり溶けていく。
吸血鬼がなぜそれらの成分に弱いのかはわかってない。
人間たちもそうだが吸血鬼たちにしても研究はしている。
長い間の研究があってもこれだといった結果はまだ出てない。