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リリーは銀色の瞳を持つ。
吸血鬼の中ではほとんど見ることがない希少なバケモノでもある。
保育器の中にいる赤ん坊は生後1ヶ月ほど。
それぞれの母親は3階と4階にいる。
自分が妊娠、出産したということは理解してるはず。
人工授精による出産だった。
2人の母親は我が子に会うことはないかもしれない。
この2人の赤ん坊は吸血鬼の手によって純血に育てられていく。
学校などに行く未来もない。
それどころか言語も必要ない。
綺麗な血液を吸血鬼たちに提供してくれるだけの存在。
いわゆる人間の世界でいうところのブロイラーと同じ。
一般の人間の血液は、例えば喫煙だったり薬品にまみれてたりして汚れている。
ここで育てられている人間は、これも人間社会でいうところの不純物がない超高級ワインのようなもの。
この血液提供プラントは小規模ながら質の良い血液を提供できている。
3階と4階に男女合わせて22名の人間を管理している。
適度な食事や運動をさせて陽の光にも当てて健康状態を常に良好に保っている。
人間たちの脳はすべて壊しているので自分で考えて行動することはない。
同じように1階でも一方的な排除が行われていた。
まっ暗闇の中、突如としてキンと音が鳴った。
その音は室内からだ。
誰かが何かに触れた?
吉野はそんなことではないかと思っていた。
キン、キンと音が続く。
そしてやっと気づいた。
キンといった金属音が鳴るたびに隊員たちがドサッとくずおれていってる。
何が起こってると吉野だけではなく他の隊員たちも銃口を右に左にと向けてこの奇妙な原因を探していく。
壁を壊して広くなっている室内のあちこちから金属音が聞こえる。
吸血鬼が移動しながら何かをしている。
だがその姿を捉えられない。
えっ?
吉野は胸に痛みを感じた。
あれ?
立ってられない。
急に脳が熱くなった。
床に倒れた?
意識が遠のいていく。
キン、キンとさらに鳴って静かになった。
室内には自衛隊員たちが倒れている姿がある。
全員こと切れている。
銃声はなかった。
撃つ前に生命活動は終了していた。
部屋のまん中あたりに進んできてこの惨状を眺め渡してる者がいる。
この施設の管理責任者でもあり所属しているチーム「第6SS隊」の副隊長も務めている天童華鈴。
元日本人女性の独立眷属。
キン、キンと金属音を鳴らしていたのは華鈴。
今も右手に金づちを持っている。
今回は長さ約15センチの五寸釘を使用していた。
釘を宙に投げて金づちで叩く。
上位眷属が飛ばした釘は自衛隊たちの頭や心臓を貫いている。
プロテクターを胸に、頭にヘルメットを被っていてもマッハの速度で飛んでくる五寸釘を防ぎきれない。
自衛隊員たちが手にしているアサルトライフルよりはるかに強力だ。




