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「そこでぼくはひとつの仮説を立てた。
大昔に人間から枝分かれしたのが吸血鬼じゃないかって。
この地球上で言葉や文化、工業技術なんかを駆使して傲慢に振る舞っているのは人間だけ。
他の生きものは慎ましやかな生活を送っている」
なぜだと思うと問われても月読には答えようがない。
長い間生きてるがそんなこと考えたこともない。
「これに関しては後で補足説明するが···
まぁ、人間にはこれだというような天敵がいない。
だから地球上では増殖している。
戦争なんかによって大量死ということもあるがそれも一時的なものだ。
総じて人間はジワジワと増え続けている」
そうらしいと月読は思う。
たまたまテレビのニュースで見た。
地域によっては人口減の国もあるらしいが世界全体で見ると人口は増えているそうだ。
ただとドクター方円はつけ加えた。
「その数字はどこまで本当のことかはわからないんだよ」とも述べている。
その裏には吸血鬼の存在があるからだと意味深なことまで追加した。
ところがだと急に強い口調になった。
いよいよここからが本題らしい。
「吸血鬼が現れた。
まさに人間にとっては大天敵だ。
いったいいつ頃に現れたかというとはっきりしない。
推測になるが人間が文化を持ち行動範囲なんかが急速に拡大して人口も増え始めたあたりからだと思う。
さっき人間から枝分かれしたと言ったよね。
まさにこのタイミングだったんじゃないかな?
簡単に、乱暴に言ってしまうと血の中に暴走する人間たちを抑制するためのプログラムが予めあったのではないかと思っている。
つまり増えすぎた人間たちを削除しようとするようにセットされていたんだよ。
それが吸血鬼っていう存在ではないか?
そうすることで邪魔な人間たちを減らすことになるんだ」
つまり暴走を始めた人間たちを抑え込むために起動させられたのが吸血鬼って存在だって?
う〜んと月読は唸ってしまった。
当事者としては複雑な思いがある。
増えすぎた傲慢な人間たちを駆逐する存在が吸血鬼。
その吸血鬼を圧倒する存在が自分なのか?
わけがわからなくなってきた。
でも仮説であるにしても大変面白い話だ。
「ところで、君はグレゴール・ウォーター博士の所に行くのかい?
それなら吸血鬼の血の話を聞いてみるといい。
あの人のほうが専門家でもあるわけだからもっと面白い話を聞くことができる」
せっかくここまでやって来たんだが妹のリュシアンの消息はつかめず。
生死さえもわからない。




