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男のニヤニヤが止まった。
月読としては、まぁ、こうなるんだろうなと思ってた。
先に手を出してきたのは男のほうからだ。
速い。
わかっちゃいるが人間の動きじゃない。
ほんの一瞬の差で月読の防御が遅れた。
腹部に一撃が入ってしまった。
続けて右足が上がって蹴り上げられた。
腕も足も一撃に重さがある。
最初の一撃から次の攻撃までが連携している。
それが次々と繰り出されてくる。
反撃の隙を与えないような見事な連続攻撃。
この男、かなりの訓練を積んでいる。
そして実戦経験も豊富なのだろう。
連撃が止まらない。
パワーもありスピードもある。
普通の眷属ではない。
おかしい、なにかが違う。
防御しながらも冷静に分析もしていた。
そして好機がおとずれた。
男の左手首を掴むことができた。
月読の強力な力で逃げられなくしたので近接殴打。
つまり殴り合いになった。
互いに激しい高速の猛打を繰り出す。
時間の経過とともにゼェゼェと息が上がってきて見るからに辛そうになっているのは謎の男のほうだ。
月読はケロッとしている。
初めっからの男の懸命な攻撃も月読には効いちゃいない。
吸血鬼となった月読のバケモノじみた再生能力の高さから殴打程度での被害はまったくない。
隙をついて男は月読の手から離れて距離をとった。
月読としても椅子が多すぎて邪魔で戦いにくさもあった。
意識的に手を離してやった。
月読は追うことはしなかった。
面倒だから次で一気にケリをつけるつもりでいた。
「光」の蓄えはまだまだ十分にある。
切断して終わらせてやると思っていた。
謎の男は奇妙な行動に出た。
なにかを口にした。
大急ぎで飲んでる液体。
血液か?
変化はすぐに現れた。
眷属といえども人の姿でいた。
暗闇での赤い瞳以外は人であった時の姿は保っていた。
最も顕著なのはその顔が変わっていった。
鼻から口が前方にせり出して人ではなくなっていってる。
まさか、これが狼男ってヤツか?
月読は長い間生きてるがこんなのは初めて見たと興味津々でいる。
男の名はアレックス。
人であった時はアメリカ海軍の軍人だった。
長崎県佐世保にある海軍基地に駐留していたこともあって日本語が堪能だ。




