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普通の食事を採るのは月読だけ。
つぐみなんかはミルクの代わりに人間の血液を哺乳瓶で飲んでいる。
ちよが目覚めたのは夜になってから。
左手はすっかり元通り。
眠りについて余計な体力を使わずに再生だけに専念することで復活も早くなる。
それと同時に体力の回復も十分できる。
まさに「寝る子は復活」の典型だね。
ちよは吸血鬼化したことに満足している。
超人的な力を得たこともあるが飢えることがなくなった。
それに外傷を負うこともあるがそれも一時的なことですぐ元通りになる。
病気などもいっさいなくなった。
唯一の不満は子供の姿のまま変化しないこと。
それで便利なこともあるが不便なこともある。
「つぐみはまだ寝てる?」
ちよが両手を力いっぱい上げて伸びをしながら尋ねた。
きっと他の2人に尋ねたんだろう。
「熟睡中。
10日くらいは寝てるんじゃないか?
つぐみに関してはまったくわからない。
これといった法則のようなものもなさそうだし···」
口を開いたのは月読。
240年弱ほども一緒にいるがつぐみのことは本当によくわからない。
わかっているのは吸血鬼の眷属の中でも特殊で特別な突然変異ということだけだ。
「あっ、そろそろじゃないの?」
ちよが思い出したようだ。
つぐみを除く3人には特殊なローテーションがある。
他の吸血鬼では見られない現象だ。
そのハンディキャップがあるから強い吸血鬼でいられる。
言い方を変えれば強弱のメリハリがある吸血鬼であると。
そのために「ハーフムーンの吸血鬼」と言われたりもする。
他の吸血鬼たち、とりわけカッツェ委員会の一部の吸血鬼は月読たちの特別な体質を研究したいと願っている。
吸血鬼の弱点を克服している月読たちを捕らえて体の隅々まで調べてみたいと思ってる者がいる。
月読たちの存在を知っている者は少数しかいない。
他の吸血鬼たちには口が裂けても極秘にしている。
月読たちの秘密を解き明かして独占したいからだ。
弱点がなくなれば吸血鬼たちの中で王となる存在になれる。
それに伴って人間たちも完全に支配下における。
絶対的な権力を手中に収めたいと強く願ってる者がいる。
こういうことは吸血鬼の世界でも人間界でも共通の欲望としてある。




