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おまけ召喚 第二部 狙われた杖の宝  作者: 草野 瀬津璃
第八幕 不死鳥らは暗躍す
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四十八章 魔除けの雪だるま 1



 少年には父親がいなかった。

 四年前に病気で死んだからだ。

 だから、今では父親の遺した宿を切り盛りする母親と二人で暮らしている。父の死は物心がついたばかりの頃の出来事だったから、父親の顔はほとんど記憶になく、母親の話から父親の姿を想像した。

 父親がいなくても寂しくなかったが、父親というものには憧れた。

 母親の話に出てくる父親。母方の祖父母も父方の祖父母ももうなく、同じ村の友達の親を見て、どういうものなのか更に思いを馳せる。

 少年は父親が欲しかったけれど、だからといって、あいつと母親が結婚して欲しいとは思わなかった。

(あの害虫。絶対に追い払う!)

 少年は小さな子どもであったけれど、男なので自然と母親を守ろうと躍起になっていた。

 そういうわけで、両目をメラメラと闘志に燃やしながら、せっせと雪だるまを作る。

 この地方に伝わる、魔除けの雪人形。

 少年が慕っている隣家の男と、気合いの入った三段重ねの雪だるまを作り上げ、少年は不敵に微笑んだ。


    *


 その日の夕方、アカデミアタウンを囲む外壁がすぐそこに見えるボルド村で、移動劇団スカイフローラは足を止めた。

 アカデミアタウンには大所帯が滞在するスペースは設けられていないらしく、スカイフローラのような劇団はもとより、楽団や隊商なども村に滞在するらしい。その点、ボルド村の人間達は外の人間に寛容なんだそうだ。

 積雪の多い地方だ。村であるにも関わらず、テントでは凍える為、大所帯用の宿舎が村の端に建っている。もちろん使用料はとられるが、ウィングクロスの宿舎並に割安だ。ただ、大所帯用は十人以上でないと使えない。

 三角形の屋根が特徴的な、横に長い建物を見上げる流衣。屋根はすっかり雪に埋もれていて、屋根の色までは分からない。

 この宿舎でスカイフローラの団員は二週間を過ごすのだそうだ。ここでの二週間は十二日なので、十日間を稽古と劇の設営にあて、一日公演し、一日を片付けにあててまた旅に出るのだとか。

 流衣はきょろきょろと辺りを見回し、馬車から荷物を下ろす指示をしている団長のクレメンスを見つけた。

「団長さん!」

 流衣が声をかけると、クレメンスは振り返る。強面な顔に、気さくそうな笑みが浮かんだ。

「おや、ルイ君。どうかしたかね?」

 流衣は頷き、同行させて貰ったことの礼を言った。

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。そちらの御仁のお陰で、だいぶ旅が楽になったからね」

 流衣の斜め後ろに立っているオルクスを見ながら、クレメンスは言う。オルクスは無言のまま僅かに会釈する。

「君はこれからどうするんだい?」

「今日はこの村の宿に泊まるつもりです。もう夕方なので」

 西日で赤く染まっている空を見て、流衣はクレメンスに視線を戻す。クレメンスは鷹揚に頷く。

「ああ、そうした方がいい。壁を越えれば貴人の巣窟だ。面倒なことに巻き込まれるなら、昼間の方がマシだろう」

「……え、そんなに怖い所なんですか?」

 流衣の顔が引きつる。

「魔法学校に通っている貴族の令息令嬢殿は、平日は夕方しか魔法学校の寄宿舎からは出てこないが、地の曜日には大半の人間が街に出てくるんだよ。その時に、ときどき厄介ごとに巻き込まれたりすることもあるんだ。浪費家や乱暴者というのは、どこの一族にも一人くらいはいるものだからね。その矯正も兼ねて、寄宿舎に放り込まれている貴族もいるということさ」

 劇団の団長をする前は、王都で学者をしていたというクレメンスは訳知り顔で呟いた。

「鼻の高い身なりの良い貴族を見かけたら、物陰にでも隠れてやり過ごすことをオススメするよ。随分楽になる」

「はい、そうします」

 まるで熊に出くわしたら死んだフリをしろと言うような口調でクレメンスは言い、真剣に受け止めた流衣は大きく頷く。

 クレメンスは苦笑する。

「驚かせてすまないな。だが、覚えておいた方がいいことだからね」

「いえ、助かります。それじゃ、これで。団長さんも気を付けて」

 流衣がぺこりと頭を下げると、クレメンスは好々爺の笑みを浮かべて見送ってくれた。去り際にジェシカ達にも声をかけ、ときどき宿舎に顔を出すように言われてから、劇団を離れる。

「人の()い連中ですね」

 背中越しにちらりと劇団を振り返り、オルクスが言うのに流衣は首肯する。

「そうだね。良い人達だよね」

「ただのお人好しかと思いましたが、注意するべきところはしているようで見直しました。あの団長殿、なかなかのやり手なのでしょう」

「まあ、劇団の纏め役だもんねえ。でも、学者をしてたのに、どうして劇団をしようと思ったんだろう。不思議だなあ」

 転々と旅するのは厳しい仕事だと思うが、クレメンスはとても楽しそうだ。

「さて。人の考えることは時に突飛で、魔物であるわてには理解出来ません」

 オルクスの返しに流衣は小さく笑いながら、ふと村の南側奥にある小さな山に目をとめる。流衣達が通ってきた山は北から南へと湾曲するように横たわっていて、その間に傍らに沿うようにして、こんもりとした山がある。こんな雪の降るような時期にも関わらず、山は黄色い木が鬱蒼(うっそう)と生い茂り、そこに薄っすらと雪化粧が施されて、不思議と温かみを感じさせた。

「あれ見てよ、オルクス。こんな時期に葉が生い茂ってるなんて、変な山だなあ」

 流衣がオルクスを見上げると、オルクスは神妙な顔でじっと山を見つめていた。流衣は僅かに首を傾ける。

「どうかした?」

「あの山は、恐らく神の庭です。あそこだけ木々が生い茂っているのは、一つの結界になっているからです。ここからでは分かりませんが、結界内に入れば神々しい気配が満ちていると思います」

 流衣は更に黄色い山を凝視する。

 ――あれが神の庭。流衣がラーザイナ・フィールドに来た時にいた黄昏の遺跡のように、遺跡になっているのが普通なのかと勝手に思い込んでいたが、ああして生きている場所もあるのだ。

 それを口にすると、オルクスは少し考えてから口を開く。

「遺跡になっている所は、人間に忘れ去られた場所ですから、人間が聖地と崇めたり神殿が建っている場所もあります。わては神様にいつも付き添っているわけではありませんし、ツィールカ様以外の神様が降臨された場所は分かりません。ですから全ての庭を把握しているわけではないのです。自然と溶け込んでいるものがほとんどですが、あんな風に他と違うことで分かる庭もあります」

「神様は今は託宣でしか力を貸してくれないって前にアルが言ってたけど、いつから地上に降りなくなったの?」

 オルクスは難しい顔をして、腕を組む。

「わての感覚が正しければ、千年前を過ぎた頃からだったような……。天界と人間界では時間の感覚が違います故、はっきりとは申せません」

「そうなの?」

「ええ。天界には寿命が存在しない分、変化がほとんどありません。いつも同じ景色なんです。そのせいか時間の移ろいが人間界より遥かにゆっくりと感じられます。少し眠っていたらいつの間にか百年過ぎていた、ということもありましたね。恥ずかしながら」

「そ、そうなんだ……」

 気恥かしそうに笑うオルクスだが、言っていることは色々とスケールが大きすぎてピンとこない。

 まるで浦島太郎みたいだ。流衣は目を白黒させ、ふと眉を寄せる。ということは、あれか。たった数分寝ているだけな気がしていたのに起きたら一年が経過していたのは、もしかして女神レシアンテの花園とやらにいたせいなんじゃ……。

 あの美しい女神の優しい笑みを思い出し、慌てて首を振る。あんな神様を疑うのは間違ってる。

 そう自分自身に言い聞かせる辺り、流衣は女神レシアンテが引き止めすぎたと言っていたことなどすっかり忘れていた。

「わてから見ますと、人間というのは急ぎ足で通り過ぎていくようで、目が回ります。ついこの前まで赤子だったのが、気が付けば老人になっていたりしますから。でも、人間界を歩いてみると、それが面白いですね」

 だから神様方も暇を持て余して、託宣という名目で人間界に暇つぶしをされますからねえ。

 のほほんと呟くオルクス。

(暇つぶしって……。そんなこと、この世界の人が聞いたらショック受けちゃうよ……)

 神様の光臨や託宣を喜んで、あちこちに神殿があるくらい信心深いのに、ただの暇つぶしではあまりにも可哀想だ。

「うわ……っと、なんだ、雪だるまか」

 考え事をしていたせいで急に人影が前に現れたように見えて驚いたが、よくよく見ると雪だるまだった。三段重ねで、流衣よりも背が高い。頭にはバケツではなく木製の(たらい)が乗っていて、木の葉と木の実で顔が描かれている。

「お兄さん、物知りだね」

「うわ! なっ、誰かいたの!?」

 油断していた所に声をかけられて飛びあがる。

 雪だるまの左脇に、暖かそうな毛皮の耳当て付き帽子と、同じく毛皮をあしらったコートに身を包んだ少年が三角座りで座っていた。年の頃は十歳かそこらといった子どもだ。

 薄い色合いの金髪とガラスのような翠色の目をした少年は、しれっとした態度で手袋をはめた右手を上げて挨拶した。

「そこで何してるの……?」

 流衣の問いに、少年は言う。

「座ってるんだよ。見れば分かるでしょ」

 生意気な口をきいて、少年はぴょんと勢いをつけて立ち上がる。その拍子に、帽子や肩に積もった雪が地面に落ちた。

「この雪だるま、僕とおじさんで作ったんだ。良い出来だろ?」

「うん、よく出来てる」

 流衣が素直に頷いた横からオルクスが口を出す。

魔除(まよ)けの雪人形とは、何か避けたいものでもおありなのですか?」

「へ、魔除け!?」

 流衣はぎょっとオルクスを見上げる。雪だるまにそんな意味があったなんて初耳だ。

「お兄さん、知らないの? 雪だるまは、昔、異界からやって来た勇者様が広めた魔除けなんだよ。門前から通行人を監視するんだって」

「…………」

 監視って。そんなものが置いてあるなんて、不気味だとは思わないのだろうか。

 流衣は怪訝に思いつつ、どう広まったらそんな話になるのだろうと更に疑惑を深める。

 少年は緩く笑みを唇に乗せる。

「ここに置いてるのは、ただの害虫よけだよ」

「――害虫……?」

 きょとんとする流衣を尻目に、少年は親愛をこめて雪だるまの丸いボディーを叩く。そして、くるりと振り返る。

「ところで、お兄さんはお客さん?」

「え?」

 少年に言われて始めて、流衣は『宿屋ホワイトベルへようこそ』と書かれた看板が、玄関脇の壁に貼り付けられているのに気付く。歩きながら考え事をしているうちに、目的地に辿りついていたようだ。

「あ、うん。一泊泊まりたいんだ。君、ここの宿の子?」

 流衣の問いに、少年は頷く。

「ナゼルだよ、お兄さん達は?」

「僕はルイ・オリベで、こっちは」

「オルクスです」

 それぞれ名乗ると、ナゼルは玄関の方に向かう。

静謐(せいひつ)の季節は、少人数のお客さんは少ないんだ。そういうお客さんは、皆、壁の中の宿に行っちゃうから」

「そうなんだ」

 流衣は相槌を打ち、壁の中というのがアカデミアタウンのことだろうと推測する。

「でも、珍しく貴族のお客さんが二組来てるから、お兄さん達、気を付けてね。たぶん分かってると思うけど」

 ナゼルは小さな声で注意して、玄関の左側に停車している馬車二台の方を見、それから玄関の扉を開けて中に案内した。



「母さん、お客さんだよ」

 ナゼルが受付らしきカウンターの向こうにある部屋に声をかけると、しばらくしてエプロン姿の女性がパタパタと靴を鳴らして現れた。ナゼルと同じ薄い色合いの髪をひっつめに纏め、淡い緑色の裾の長いワンピースを着ていて、優しそうな雰囲気によく似合っている。顔立ちは平凡だが、翠色の目はぱっちりしていて、二十代後半ほどなのに可愛らしく見えた。

「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?」

 人の良い笑顔を浮かべて問うてくる女性に頷きを返す。

「部屋代は朝食と夕食がついて、一泊、お一人様銅貨三十枚となっております。朝食は朝七時から九時、夕食は六時から九時となっていますので、時間内に一階の食堂においでください」

 流衣は二人分の料金を支払って、鍵を受け取る。そこで、すでにナゼルは奥の部屋に姿を消しているのに気付き、何も言わずに二階の部屋に向かう。

 なんだか子どもの割には大人びた雰囲気をした子だったなあと思いながら、階段を上った。

 部屋に入ると、オルクスが急に謝ってきた。

「坊ちゃん、申し訳ありません! 鳥に戻るのを忘れていました!」

 どうやら部屋に入って初めて気付いたようだ。

「あ。ほんとだね」

 流衣もすっかり忘れていた。

「そろそろ魔力切れるんじゃない?」

「ええ、そうですけど。って何してるんですか?」

 流衣がオルクスの手を掴んで魔力を分け与えると、オルクスがぎょっと目を丸くする。

「もうお金払ったし、きっと食事出てくるから、食事も一緒したかったんだけど……。でも、そっか。迷惑なら断ってくるよ」

「あわわ、待って下さい坊ちゃん。食べます、食べますから!」

 迷惑だと自己完結し、落胆して肩を落としながら部屋を出て行こうとする流衣を、オルクスは慌てて呼び止める。

「坊ちゃん、そんなにお一人で食事するのが嫌なんですか? わてにはよく分からない感覚なのですが……」

 療養生活中、オルクスが人の姿をとっていたので二人分の食事が用意されていて、仕方なくオルクスも同席して食事していたのだ。人の姿だと、オウムでいる時よりも誰かと食べているという感じがして食事がすすむ気がしていた。それで流衣が少々機嫌が良かったのを、オルクスは一人で食事するのが嫌なのだと結論づけていたのかもしれない。

「やっぱり迷惑だよね。ごめんね」

 流衣は再び扉の方を向く。

「迷惑ではありませんってばっ。魔物は弱肉強食なので、誰かと食料を分け合うことはしないので、分からないだけです!」

 必死に言い募る姿が、オウムがバサバサと羽ばたいている姿と重なって見える。流衣は思わず吹き出し、笑いながら答える。

「一人の方が良いって人もいるけど、僕は大人数で食事する方が好きかな。誰かと食べた方がおいしい気がする」

 オルクスはやはり納得がいかなさそうに怪訝に眉を寄せる。

「そうですか? 群れて生きているとそうなるのでしょうか……」

 そういえば、群れで生きている動物も餌を分け合いますね。オルクスはぶつぶつと呟きながら、思索にふけりだす。

 とりあえず、一人で食事という事態は免れると流衣は満足し、左側の壁際に置いてあるベッドに荷物を置いて、荷を広げ出す。そして溜まっていた洗濯物を片付けた頃、ちょうど夕飯時になったので部屋を出た。



 階下にあるという食堂に顔を出した流衣は、ぎくりと足を止めた。

「ですから、フォスター様。夫の遺してくれたこの宿を、私は守りたいのです。ですから何度も言うように、あなた様の気持ちを受け入れることは出来ません」

「私は諦めんぞ、シフォーネ。君が私を受け入れてくれるまで、何度でも来る」

 宿のおかみさんの両手を握りしめ、小太りな男が熱っぽく語っている。四十代くらいの男は青地の上質な布に銀糸(ぎんし)で刺繍を施した上着と、ビラビラの紺色のタイをしていた。側に従者らしき青年が控えていることといい、貴族なのかもしれない。

(やっばい、気まずい現場に来ちゃった……)

 硬直している流衣に、オルクスが小さく、だが微妙に弾んだ声で言う。

「坊ちゃん、わて、こういうのを何て言うか知ってますよ。“修羅場”ですよね!」

「微妙に違うと思う……」

 修羅場というのは、もう少し険悪なムードのことだろう。

 これは告白現場というのが正しいと思う。というより、口説かれている? おかみさんはとても迷惑そうだ。困ったように苦笑しているが、相手が貴族なのでやんわりとした態度にしか出られないようである。

「あの輩に脈はなさそうですね。いい加減気付けば良さそうなものですが」

 ひそひそと呟くオルクス。とても楽しそうだ。

「オルクス、行こう。お邪魔みたいだから」

 これ以上、出歯亀(でばがめ)めいた実況中継を聞くのも心臓に悪いので、流衣はオルクスの袖を引いた。

 そうして振り返ったところで、恐ろしく冷めた目をしたナゼルが立っているのに気付く。

「……また来たんだ、害虫」

 ナゼルはぼそりと低く呟く。

「――え?」

 流衣は目を瞬く。

 そして、すぐに理解する。

 つまり、害虫というのは、母親につく悪い虫という意味か? いったい誰からそんな単語を教えて貰ったんだろう。十歳かそこらの子どもが知っているものなのだろうか。

 ナゼルはくるりと踵を返し、そのまま宿を出て行った。かと思えば、すぐに誰かを伴って帰って来る。

 ナゼルに手を引かれてやって来た三十代半ばほどの男は、灰色の髪と目をしていて体格が良く、右手に金属製の杖を持っていた。どうやら魔法使いのようだ。

 男は流衣達の側をすり抜けて食堂に入って行き、貴族らしき男に話しかけ、おかみさんを引き離し、その上、おかみさんに言い寄っていた男を宿から追い出してしまった。

 貴族の男はちっと舌打ちして、従者を従えて出て行った。

「全く、懲りない男だ。宿に立ち入り禁止を言い渡したばっかりだっていうのに。シフォーネさん、今度来たら、迷わず王国警備隊を呼びなさい」

 灰色の髪の男は忌々しげに出口を見て、それから少し真面目な顔をしておかみさん――シフォーネに忠告する。

「そんなの意味ないよ、おじさん。あの人達が貴族相手にこっちの味方になるわけない」

 ナゼルの言い分に、男は首を振る。

「大丈夫、アカデミアタウンの王国警備隊は貴族の相手には慣れてる。心配いらない」

 男は穏やかな表情を浮かべ、ナゼルの頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。まるで子どもがいらない心配をするなというように。ナゼルはちょっと照れたように顔をしかめた。そうしていると子どもらしく見える。

「セトさん、本当にごめんなさい。いつも迷惑ばっかりおかけして……」

 シフォーネはぺこぺこと頭を下げる。そして頭を上げたが、浮かない顔をしていた。

「隣人だからって、こんなに助けて下さらなくてもよろしいんですよ? 頼りきりで、私、申し訳ないわ」

 あからさまに落ち込んでいるシフォーネに、男は慌てた様子で付け加える。

「ああ、言い方が悪かった。そんなに落ち込まないでくれ。私は好きでお節介しているだけなんだから、気にしないで欲しい」

 急いで取り成している男を見て、流衣は今度こそ食堂を出る。どうやら丸くおさまったみたいだから、落ち着いた頃にまた来ようと思った。



 


 書き方を少し短編風にしてみました。挿話的な雰囲気で、第一部の感じに近くしてみた感じです。


>>2010.1.9.

 加筆修正。天界の十分が人間界の一年という表現を書き変えました。

 感覚的なところを表現したかったのですが、上手く表現しきれてなかったようなので。     


>>2011.9.11.一部修正。

 オルクスの台詞で、神様が地上に降りなくなったのは千年前に変更。

 百年前って書いてましたが、それだと前の回でのアルモニカの言っていたことと誤差が出るので。なんで気付かなかったか不思議ですが。

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