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三十一章 狂った歯車 ―side : Rosalie― Ⅰ


*第六幕 あらすじ*


 反乱により混乱する王都。杖連盟に出かけたままの流衣を探し、リドとディルもまた城下へ向かう。一方の流衣はアルモニカとともに行動していたが、追っ手が追いついてきて……!?(※少々バイオレンス表現が多い幕なので、ご注意を)



「陛下、大変です!」

 バタバタと騒々しい足音がしたかと思えば、伝令役(でんれいやく)(おぼ)しき近衛騎士団の団員が執務室の扉を開け放った。

「なんだ、騒々しい」

 執務室の主であるロザリーは、書類から顔を上げ、軽く睨んだ。

 伝令役はハッとして謝ってから、報告をする。

「ご無礼をして申し訳ございません! ですが、とうとう、動きがありました。最悪の状況です!」

 動きというのが、内乱の噂のことを指しているということにロザリーはすぐに気が付いた。瞬時に真剣な顔になり、問う。

「なにが最悪なんだ? 手短に、要点だけ話せ」

「はっ。反乱軍を掲げた者達が王都のあちこちに火をかけ、魔物を放ちました!」

「魔物だと!? どういうことだっ?」

「どうやら奴ら、ネルソフと手を組んだようです。祭りで人の多い通りに魔物を放した為、民衆は混乱し、死傷者が多数出ているとのこと。王都内の王国警備隊詰所(つめしょ)の隊員が総出で対処し、我ら近衛騎士団も三分の一を残し対処しております」

 ロザリーは忌々しそうに舌打ちする。

「祭りの最中に騒ぎを起こすとは、いったい何を考えている!? 民衆を敵に回すことくらい、すぐに分かるだろうに」

「同時に、こちらへの不満も爆発しやすい状況ですよ」

 冷静な声が混じり、ロザリーは戸口に顔を向けた。宰相のマギィが立っていた。

「ああ、私だって腹が立っている。そりゃあ民も怒るだろうさ」

 ぐつぐつと腹が煮えくりかえっている。どうして止めきれなかったのか。情報収集にぬかりはないし、警備の強化もしてきたのに。

 ロザリーはスカイブルーの目に物騒な光をたたえながら、しかし大きく息を吸い込んで気を静める。ひやりとした目を伝令役に向けると、伝令役は眼光に射すくめられて背筋を正した。

「避難先はどうなっている?」

「いっ、今のところは神殿の方に向かわせております」

「……そうか」

 ロザリーは少し口を閉じ、王都の地図を頭に思い浮かべる。

 王都の一番奥、北の部分には王城などの敷地がある。西の一帯はラーザイナ魔法使い連盟の本部が占め、中央部には神殿がある。王城までのメインストリートには商店街や市場になっており、東と南は住宅街や宿、ウィング・クロスの本部がある。そして、王城とラーザイナ魔法使い連盟本部、神殿の敷地を除き、王国警備隊の詰所が点在していた。

「……神殿が避難場所というのは、立地的にまずいですね。火事になれば真っ先に退路を断たれます。かといって住宅街は危険でしょう。杖連盟の敷地内がベストなのですが……」

 ここでマギィは言葉を濁す。伝令役が渋い顔をしているので、何か問題があるのだと気付いたのだ。ロザリーはちらりと伝令役を見る。

「何か問題が?」

「はっ。真っ先に襲撃されたのが杖連盟の本部なのです」

 伝令役の返事にマギィはなるほどと頷き、ロザリーに言う。

「今、そちらに向かわせるのは逆効果でしょう」

「…………」

 ロザリーは眉をしかめ、深く思慮する。

 張り詰めた空気の中、伝令役は緊張した面持ちで口を閉ざす。マギィもまた、じっと目を閉じて考え込む。マギィには一つ案があったが、それを口にしたくはなかった。

 やがて、ロザリーは深い息をついた。

「城門を開けよ」

「……え?」

 伝令役は、言っている内容を呑み込めず、ぽかんと聞き返す。

「城門を開け、城の庭を民に解放しろと言っている」

「なっ、そんなことをされては、御身(おんみ)に危険が……!」

 ロザリーは握りしめた右手でテーブルの盤面を叩く。ドン! と激しい音が執務室内に響く。

「そんなことは分かっている! 何も城に入れろと言っているのではない。王都の門から脱出出来た者はいい。が、火に遮られ行き場を失くした民は、どちらにせよここに押しかけ、騒動になるのは目に見えている。それならば、多少のリスクに目をつむって、彼らを導く方がずっといい」

 マギィも静かに頷いた。

「ええ、得策とは言えませんが、それしかないでしょう。しかし、城内には入れないよう、団長に告げなさい。必要ならば、兵舎の施設の利用を認めます。兵士はその間、城の空室を利用するように。侍女頭、侍従長にも伝えておきます」

「それから」

 マギィが言い終えたところで、ロザリーが口を開く。

「王都内で暴れている反乱軍及びネルソフは可能ならば捕縛するように伝えろ。貴重な情報源だ」

 ロザリーの赤い唇が弧をえがく。それはさながら、狼の獰猛な笑みのようだ。

 伝令役は背筋に冷たいものを覚えながら、ビシッと右手を(こぶし)にし、左胸の前に構える。

「了解致しました! それでは失礼致します!」

 そしてはっきりと言い放ち、きびきびとした動作で執務室を出て行った。



 伝令役が出ていくのを見送り、マギィが執務室の扉を閉めると、ロザリーは不敵な笑みを浮かべた。

「さて、と。まず間違いなく、叔父上の狙いは城門を開けさせることだろう。ふふ、私に直接対決を申し込むような肝のある男とは思っていなかったが、少々考えを改めた方が良いようだな」

 予想が外れたのは少し愉快な気分だった。こんな状況で不謹慎であるのに、だ。

 マギィはそんな女王を見て、肩を竦めている。

「流石に落ち込むかと思いましたが、予想が外れましたね」

「落ち込んでいるとも。ただ、それよりも怒りの方が勝っているだけの話だ」

 ロザリーは静かに微笑む。しかし目は爛爛(らんらん)と輝き、獲物を見据えたようにじっと外を睨みつけた。まるでそこに敵がいるとでも言わんばかりに。

「……マギィ、女王ではなく私自身として頼みがある」

「なんでしょう? きける範囲でお願いしますよ。魔王の首を取ってこいとかは無しです」

「お前、私をいったい何だと思ってる? どこの我儘姫だ? だが、そうだな。我儘だな、これは。難しい頼みかもしれない」

 ロザリーが柄にもなく神妙な顔をするので、マギィは少し不安を覚えた。いつも堂々としている王であるのに、今、マギィの目の前にいるのは紛れもなく一人の女性だ。

「もし私が叔父上に負けて、命を落とすことがあったら……」

 マギィは眉をひそめた。

「不吉なことを口にしないで下さい」

 静かな、けれど怒りを含んだ声で口を挟む。それに対し、ロザリーは苦笑する。

「いいから、最後まで聞け」

「…………」

「あなたは私を忘れて欲しい。そして生き延びると約束してくれ」

 あまりにも想定外の頼みに、マギィは言葉を失った。

 忘れるな、となら言いそうな気はしていたのに、忘れろと言われるとは思いもしなかった。

「なんだ、そんなに予想外か? ふふん、私は忘れるなと言うほどがめつくも女々しくもない」

 そう呟くロザリーは、そのままどこかに消えてしまいそうに見えた。咄嗟に彼女の左手を掴んでしまうと、驚いたのか空色の目が丸くなり、次に不思議そうな顔になった。

「……どうした?」

「どうした、じゃありません。すみませんが、その頼みはきけませんよ。あなたみたいな強烈な女性を忘れる程、私の頭は悪くありませんからね」

「強烈ってお前な」

 口をへの字に曲げるロザリー。

「それに、前にも言ったでしょう。家臣を信用しろと」

「今は君主としての話ではないぞ」

「……では、婚約者として言います。貴女のことは私が守ります。絶対に、死なせたりなどしません」

 掴んだままの左手をぎゅっと両手で握りこみ、はっきりと告げる。

 ロザリーの目が驚きに見張られ、それから、ゆっくりと緩んだ。

「ありがとう。それを聞けただけで、私は幸せ者だな」

 無理に押し切って婚約したようなものだったから、もしかしたら一生そんな言葉は聞けないと思っていた。

 気が付いたら両の目から涙が滑り落ち、重なっている手の上に落ちた。

 ――そうだ、まだ覚悟を決める時ではない。私にはあの人を止め、民を救う義務がある。

 ロザリーは小さい頃のことを思い出した。

 父の弟であるロザリーの叔父、アルスベル・シモンズ・エダ公爵は、優しくて快活な叔父(おじ)だった。ときどき会う、優しい親戚。そういう位置にいたのに。

 何故、こんなことになってしまったのだろう。

 どこで歯車が狂ってしまったのか、ロザリーには未だに理解出来なかった。



>>蛇足的後書き


 入れるかものっっすごく悩みましたが、例えサブとはいえ、内乱編でこの人達を出さなかったら駄目でしょうと思い、入れました。

 そして仄かにラブ。恋愛表現はこの辺が精いっぱいなんです。

 というかほぼゼロで宣言してるので、勘弁して下さい; ほんのりです、ほんのり。

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