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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

水道水

ある年の夏、同棲する彼女を乗せて山の方へドライビングに出た。

その山はあまり人が来ない場所なのか、僕ら以外の車を見かけることはなかった。


1時間ほど車を走らせていると、大きな池が見えてきた。


「降りて近くまで行ってみようか」

「うん...」


彼女の元気がない。それもそうだ。

実は数か月前に僕は浮気をしてしまった。相手は職場の同期で仲の良かった子だ。


言い訳をすると、今まであまりモテて来なかった僕にも彼女以外に「好きです」と言ってくれる子がいたのだ。そんなことを言われてしまっては魔が差してしまうのも仕方がないだろう。

男性諸君ならわかってくれるよね?


浮気がバレた理由は、土曜出勤と噓をついて同期の子と会っていたのを彼女に知られてしまったのだ。

すぐさま彼女に問い詰められた僕は素直に白状した。弁明せずすぐさま謝罪した僕はえらい。


それから彼女はあまり口を聞いてくれなくなった。普通ならあの場で別れを告げられてもおかしくないのに、なぜそうしないのだろうか。お互い辛いだけなのに...。


今回ドライブに行ったのは元気のない彼女を励まそうと思ったからだ。


目の前に広がる大きな池。貯水池だろうか。池の周りは木の柵で囲われていた。

その柵に彼女が寄りかかると、僕に告げたのだ。


「もう別れよう...」

「え、なんで?いきなりどうしたの?」

「分かってると思うけど、あの時浮気されて私はすごく傷ついた。すぐにでも別れたいと思った。だけど、あなたと過ごして幸せで楽しかったこともあった。それを思い出すと決断できなかったの。もしかしたら許していつも通り元に戻れると信じて。でもね無理だった。もうあなたと一緒にいられない」


彼女を励ますつもりがこんな展開になるとは。青天の霹靂とはまさにこういう時に使うのだろう。

予想だにしない出来事に僕は動揺を隠せなかった。


それからなんとか説得を試みたが、彼女の気持ちが変わることはなかった。


もうダメか....。



彼女と別れた僕は家に帰るとコップに水道水を注ぐと、そのまま一気に飲み干した。

ずっと水分を摂っておらず喉がカラカラだったのだ。

しかし飲んで後悔した。夏の水道水はとにかくぬるい。そして鉄の味がするのだ。

お口直しに冷蔵庫で冷やしていたビールを堪能することにした。美味い。


彼女と別れて二ヶ月ほどが経った。

暑さも落ち着いてきて過ごしやすい季節となった。

そのころになると僕も元気を取り戻し、普段通りの生活をしていた。


しかし困ることが一つあった。

水道水が使えないのだ。いや、水は問題なく流れるのだが、口にすると鉄の味が酷く吐いてしまうのだ。

キッチンの水道だけでなく、お風呂や洗面所からも同様だった。


ネットで調べてみると、どうやら水道管が錆びているのが原因らしい。それなら水道管を新しくすればいいのでは?と思ったが、それをするにはかなりお金がかかる。それに僕の住む家は賃貸のアパート。当然、オーナーの許可が必要になる。


ある日、仕事が終わって帰路についてるとたまたま同じアパートに住むご近所さんに出会った。

そこで、僕はその方も被害にあっていないか聞いてみることにした。


「水道?いや、うちは問題なく使えてるけど」


部屋によって違うのだろうか。困ってる僕にその方は親切に教えてくれた。


「水道管の交換は難しくても手軽にできる対策として浄水器を買うといいよ。どこでも売ってるから探してごらん」


ご近所さんのアドバイス通り浄水器をすぐさま購入すると、早速蛇口にはめ込んだ。

しかし残念ながら改善することはなかった。


それからまた月日は経ち、季節は冬。

外の寒さもあり、水道水はかなり冷たいのに相変わらず鉄の味がする。


さすがに我慢できなくなった僕は引っ越しをすることを決めた。

とはいえ、仕事が忙しくなかなか物件探しができずにいた。


彼女と別れてちょうど一年が経過した。

食器を洗おうと蛇口を捻ると、そこから薄茶色?とにかく濁った水が出てきたのだ。

新しい浄水器に替えたが効果はなかった。


そこから数日、ようやく引っ越しをすることができた。

後で知ったことだが、以前彼女と訪れたあの池はやはり貯水池で、それが浄水場できれいになって僕らの町に供給されていた。


今はもう別の町へ移ったので、水道水に苦しまれることはなくなったし新しい彼女と仲睦まじく幸せに暮らしている。


元カノと別れて二年目の夏。

喉が渇いた僕は水を飲もうと蛇口を捻った。

鉄の臭いがする薄茶色の水が出てきた。


ピンポーン。

誰かが家にやって来た。


ドアを開けると、そこには警察がいた。


「○○さんですよね?ちょっとお聞きしたいのですが」



あ、もうバレたか。

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