Act.One 2人の誓い ともに歩む Vol.9【はらはらと、君のほほに、つたうなみだ】
私、新くんとも大学教科の必修、選択科目規定分すべて履修済。卒業論文は合格。後は卒業式を待つだけに。
進路について、私は当初の目標、地方公務員上級に、採用決定です。
新くんは、教員採用試験の1次の小論文、筆記試験、2次の口述試験、場面指導を含む個人面接を2回と順調に手応えはあったよ!と互いの報告会のあと、その後合否については報告がなく。
連絡が途絶え、そして、会えることもなく時間、日々が過ぎ。
卒業式当日になり、新くんの姿はありませんでした。
最後まで約束の場所に待ち続けたのに。
卒業式に出席する気にならず、何が起こっているのか、理由をつかむすべもなく、心はわけもなく焦り、精神は憔悴崩壊寸前。
自宅へ大学時代最後の帰途、晴れやかに!のはずが、足取りは重く、無言で父母の店の引戸を引くと。
母と、見知らぬ落ち着いた雰囲気の、凛とした品格を持ち合わせ、誰かに似た面立ちで、どこかで聞いた声の女性が会話をなさっていました。
「あなたが美歩さんね。おかえりなさい」
「私は押忍身新治の、従姉で、田村砂樹と申します」
「この度は、御卒業、地方上級職の採用決定、おめでとうございます」
「新治の突然の出来事に大変御迷惑をおかけしました」
頭を深々と下げ、なるほど、新くんをcopyした、お身内の方は、私が知りたい事情を伝えたく、お越しになったのでした。
進路については、新くん、東三州の県立高校の採用内定を辞退をしていたのです。
理由は、新くんが進路について、地元の西尾州ではなく、遠距離の東三州に赴任地を希望したことに、家の方が大激怒に。それは、本家でさえ抑える事ができない凄まじさだったそうです。
事態の収拾に、新くんが取った大きな決断が、
「そこまで反対するなら、教員には今後一切、関わらない」
「東三州で行動を起こすことに意味があり、それ以外ではなんの存在理由を持たない」
新くんは精神的に非常な危険状態に陥り、従姉様が、必死に説得、説き伏せ、今は落ち着きを取り戻して。
美歩に、約束を守ることができなかった負い目で、卒業式に出席することは……。
新くんの従姉様。
「今から豊橋の石油店に行きます。美歩さんもご一緒にいかがかしら?」
列車で新くんの従姉様と、移動の車中、
「新治から美歩さんのこと、聞いてるわよ」
そして、私の知らない新くんのhistoryを話して下さいました。
新くんは、3歳で実母と離別、
従姉様とは、ほぼ隣近所なので御祖母様が母がわりに。
美歩の祖母と上手に会話しているのも、頷けます。
従姉様、
「新治は、本当の家庭という名の味を知らないの」
「私達ががんばっても限界があってね」
「でも最近、これから先々の何かを見つけたみたいな気がして」
「それがあなた、美歩さんだったのね」
豊橋に到着し、2人で石油店に。従姉様は、経営者様に面会し、新くんへのいままでのあたたかい対応、将来への厚意に、深い感謝の気持を伝えられ、その期待に添えず無にした事への謝罪し涙流しながら許しをこうお姿を、私はうしろで見つめ、忘れる事ができない日となりました。
豊橋駅から蒲郡へ帰途の際、従姉様から。
「必ず新治から美歩さんに、連絡させるから、少し時間をちょうだいね」
「進路は、私の義父から義父勤務先のholdingsで預かる申し出があり心配しないで。名古屋だけど」
名古屋に向かう新幹線ホームで従姉様のお見送り。
「美歩さんにお会いしてよかった!」
「新治の話の通り、ステキなお人ね」
「2人で必ず私の実家の本家によって!お抹茶を点て、とびっきりの御茶菓子を用意するから。約束よ」
従姉様が新幹線に乗り込み、deckにお立ちになったと同時に、扉が閉まり発車、姿が見えなくなるまで、ずっと頭を下げたまま、お顔をあげることはありませんでした。
新くんの従姉様、ありがとうございました。
蒲郡の自宅に戻るまでの道程、私は、とめどなく流れる涙をぬぐうことなく、今日という日と、新くんとともに歩んだ4年間を、振り返っていました。
でも、でも、
くやしくて。
出会った頃は、私、父ともにまず家のことを優先し、私と新くんの将来の接点は、絶対にないと思っていました。
新くんも、ありえないという確信はあったみたい。
でも、年齢を重ねるごとに、諦めから希望に。希望から行動に。前を向いて進もう!いつしかそれが目標に。
決して容易い目標ではなく、必死にがむしゃらに努力している姿を最後まで見続け応援し、やがて父に伝わり、信念を曲げないはずが、2人の将来のためなら、先の事は後からでも、どうにでもなる。に変わってくれて。
それなのに。
新くんの家の方は、
自身の我を通したいばかりに、非常識な行動を取り、威圧すれば黙って従うだろう、という考え方、
自身の思い通りにした後のくしゃくしゃの状況、混乱の収拾や関係者への謝罪などの後片付けは、従姉様への他人任せ。新くんを悪者にして知らぬ顔で、我関せず。
理不尽過ぎる!
私は自宅に戻り、
母の胸の中でずっと泣きあかしていました。
新くんは1人で……なんだよなあ。
がんばってよ!大丈夫!今でも私がついている!
新くんの味方だからね。