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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたの好きな人

作者:

 ウォルターは物静かな少年である。

 茶色の髪に茶色の瞳。そこそこ整った顔に平均的な身長。

 ジール家の三男として生まれた彼は、口数少なく表情も乏しい少年だった。

 そんな彼がある日、王国の有力貴族ヤーデ家に挨拶に向かうことになった。

 世話係の女性に手を引かれて屋敷の中を歩くウォルター。

 扉を抜け、階段を上り、長い廊下の前で女性は手を離した。


「この先はお一人で……」


 そう言って廊下の先の大きな扉を指し示す。

 表情を変えずに普段のように歩を進め、部屋の前にたどり着く。

 ノブに手をかけゆっくりと扉を開いた。

 薄暗い室内には色々なものが散らばっている。

 床に転がる本、所々ちぎれたぬいぐるみ、途中から折れている本棚、壁にめり込んでいるベッド。

 そして、部屋の中央には一人の少女が膝をかかえて座り込んでいる。

 ウォルターは表情を変えずにいつも通りに歩を進め、少女の前にたどり着いた。

 誰かの気配に気づいた少女は顔を上げる。

 波打つ黄金のような髪、夜の湖のように暗く透き通る青い瞳がウォルターをとらえた。

 薄い血色の唇が開き、どこか沈んだ声がする。


「誰……?」

「僕はウォルター。君は?」

「私は……ソフィア。あなたはここにいて平気なの?」

「平気」


 少女はウォルターから目をそらし、壁に視線を向ける。


「へんな人……」


 そのまま少女は動かない。

 ウォルターはその横顔を見つめている。

 流れるような金色の髪、吸い込まれそうな青の瞳、淡い赤い唇。


 綺麗だな。

 そう、思った。



 ウォルターは有能な少年である。

 ウォルターとソフィアは両家の話し合いで、将来婚約することとなった。

 ヤーデ家は遠い昔、精霊と交わったという言い伝えがあった。

 そのためか、ごくまれに先祖返りしたような巨大な魔力をもった子が産まれるという。

 大きな魔力を持った子供は、その大きすぎる魔力を制御できずに暴走させる。

 暴走した魔力は周囲を破壊し、生物に干渉してダメージを与える。

 ウォルターは生まれつき魔力に強い耐性を持っていた。

 有力貴族のヤーデ家に取り入るため、ウォルターの両親はその息子を売り込む。

 そして魔力暴走中のソフィアと対面させ、その能力が本物であると証明。

 無愛想なジール家の三男は高く売れた。



 ウォルターは真面目な少年である。

 毎日、ヤーデ家に通い、ソフィアと会う。


「ソフィア様、魔力制御の訓練の時間です」

「……うん」


 二人は本を読み、書かれている内容を実践していく。



 ウォルターは堅物な少年である。

 毎日、ヤーデ家に通い、ソフィアと会う。


「ソフィア様、魔力制御の訓練の時間です」

「……やだ」

「何故ですか」

「退屈」

「魔力が暴走したら大変です」

「ウォルターがいるし……」


 不意打ちに崩れそうになる表情筋を制御したウォルターは、咳ばらいを一つして口を開く。


「僕ではソフィア様の魔力を抑えられません」

「じゃあ、ウォルターも魔力制御の訓練しようよ」


 薄い青の瞳がウォルターを映している。


「……善処します」



 ウォルターは善処する少年である。

 魔力暴走したソフィアを抑えるために封印術を学び、暴走時の被害を抑えるために防御魔法を習得していった。

 講師を務める老魔法使いは心配そうに口を開く。


「他の魔法はどうなさるので」

「その余裕はありません」

「ですが……」

「いいのです」


 努力を重ねたウォルターは、年若い身で高位の防御魔法と封印術を会得した。



 ウォルターは我慢強い少年である。

 ソフィアは成長すると共に魔力暴走の範囲と威力が増大していった。

 ソフィアの魔力はウォルターの魔法耐性を上回り始める。

 幾度目かの魔力暴走。ウォルターは被害を抑えることに成功するが、その全身に激痛が走り膝をつく。

 訓練された表情筋を無表情で固め、何事もなかったかのように立ち上がる。


「……ソフィア様、大丈夫ですか」

「私は大丈夫。ウォルター、あなたは?」

「問題ありません」

「本当に?」

「本当です」


 深い青の瞳がウォルターをとらえている。


「相変わらず、嘘か本当かよく分かんない人ね」

「別に嘘では……」

「でもね、嘘ついてる時の癖見つけちゃった」


 ソフィアはウォルターに近づいてその胸に手をおいた。


「ソフィア様?」

「じっとしてて」


 ソフィアの手から、温かいものが流れてくる。


「これは……?」

「回復魔法……最近練習してるの」


 全身の痛みが消えていく。

 ――もう少しだけ、このままで。

 そんなことを思う。



 ウォルターは誠実な青年である。

 口約束だった婚約は、両家立会いの下、正式な書面となった。

 それなりに豪華な婚約パーティが開かれ、様々な人が招かれ、二人はお披露目という名の絵画のように人目にさらされる。

 途中、ソフィアは夜風に当たると言って中庭に行き、ウォルターは少し遅れて静かにその後を歩いて行った。

 青白い月に照らされて青ざめた中庭に、ソフィアが一人立っている。


「ソフィア様」


 ウォルターの声にソフィアが振り返った。

 黒い空に青白い月が浮かぶ下で、透き通るような青い瞳がウォルターを見ている。


「前から言いたかったんだけど」

「はい」

「様をつけるのやめて」

「は……」

「あと敬語もやめて」


 何も言えなくなったウォルターが固まっていると、その様子を見たソフィアが楽しそうに笑う。


「私達、家族になるんでしょ?」

「それは、まあ……」


 慣れない言葉を探しながら話すウォルターはどこかぎこちない。


「と言っても、ずっと一緒だったし。もう家族みたいなものよね」

「まあ、確かに……」

「父様や母様よりもずっと長く一緒にいるし」

「それは、まあ……」

「兄がいたらこんな感じなのかなって」


 ウォルターは黙っている。


「どうしたの?」

「あまり外にいると体が冷えま……冷えるからそろそろ帰りま……帰ろうソフィアさ、ん」

「さんもやめて」

「はい」

「敬語もやめて」


 難しい顔をして口を閉じたウォルターに、ソフィアが微笑みかける。


「頑張ってね、ウォルター」



 ウォルターは冷静な青年である。

 ヤーデ家は代々人より優れた魔力を持つものが生まれてきた。

 そんな魔力を持った魔法使い達は、戦いにおいて比類のない活躍してヤーデ家の名をあげていった。

 ソフィアもまた、成長してからはそんな魔法使いの一人として戦いの場に赴く。傍らにはいつもウォルターがいた。


 正式な婚約の後、ノール家の領地に地獄の門が現れた。

 門からは亡者があふれ、高位の悪魔がこの世界に侵入しようとしているという。

 ノール家の領地はウォルターのいるジール家の隣にあり、その家の次男とウォルターは以前から交流があった。

 二人は悪魔討伐の軍に参加して戦場に向かう。

 本隊が亡者を食い止めている間に、二人は地獄の門と内側からそれを広げようとしている悪魔が見える小高い丘にたどり着いた。


「ソフィア、でかいのをお願い。俺は隙を見て悪魔を封印する」

「封印ってこの前の?」

「君が暴走した時に使ったやつだよ」

「あれ不愉快なんだけど」

「……今回は君に使うわけじゃないから。暴走しないよう気を付けてね」

「面倒臭いから全力でいってやるわ」

「話きいてた?」


 ソフィアが全力で放った魔法は、亡者を一掃し、悪魔をふっとばし、地形ごと地獄の門を消し飛ばした。


「よし、封印お願い!」

「お疲れさま。帰ろうか」



 ウォルターは面倒見のいい青年である。

 二人は地形が少し変化した領地を治めているノール家の屋敷を訪れた。


「ウォルター兄様!」


 銀色のくせ毛を揺らしながら走ってくるのは、ノール家の次男。

 灰色の瞳がウォルターをとらえると、少年の面影が残る顔が笑顔に変わる。


「お久しぶりです!」

「ああ、久しぶり、セシル」


 ウォルターを見ていた灰色の瞳が、隣の女性に向けられる。


「兄様、こちらの方はもしかして」

「俺の婚約者のソフィアだよ」

「初めましてセシル。ヤーデ侯ジョルジュの娘、ソフィアよ」


 セシルは微笑みかけるソフィアを上目で見ながら緊張した様子を見せる。


「は、はい、ノール伯フリンの息子セシルです」


 どこかぎこちない微笑み。

 ウォルターは緊張しているのだろう、と思った。



 ウォルターは鈍くはない男である。

 あれから三人で会うことが増えた。


「ソフィア姉様、悪魔ってどんなのですか?」

「吹っ飛ばされる時の顔がすごい変でね」


 ソフィアとセシルは仲良くなった。まるで最初から姉弟だったかのように。

 元々口数の少ないウォルターは、二人が話すのを聞くことが多くなった。

 セシルと話しているソフィアの笑顔。

 ウォルターの見たことのない笑顔だった。



 ウォルターは嘘つきである。

 セシルに会った後、ソフィアと二人で帰宅の途につく。

 ソフィアは楽しそうに笑っている。


「セシルって面白い人よね」

「そうだね」


 ソフィアは笑顔をウォルターに向けた。


「セシルに会うと胸が高まるのよね。ウォルターだとそんなことないのに」

「そうなんだ」


 ウォルターは表情のない顔を前に向けている。


「やっぱりウォルターは私にとって兄みたいなのよね」

「そうか」


 ソフィアも顔を前に向ける。


「ウォルターも私の事妹みたいって思ってるでしょ?」


 少しだけ足を前に動かした後、ウォルターは少しだけ息を吸い込んで。


「ソフィアのことは妹だと思ってるよ」


 言えた。普通に言えた。

 よどみなく、噛むこともなく。

 何度も練習していた言葉を言えた。


「やっぱりね!」


 ウォルターに向けた笑顔。

 もうすぐ黄昏の空に金色の髪がきらきらとゆらめいて。

 やっぱり綺麗だな。

 そう、思った。



 ウォルターは意気地のない男である。

 セシルに恋したソフィアと夫婦になる想像をしようとしてできない自分に失望した。

 自分が思ったより弱かったことに失望した。


 ウォルターは弱い男である。

 婚約解消を親に頼んだが一蹴された。

 ヤーデ家に行って、自分ではなくセシルとソフィアの婚約を薦めた。

 セシルと出会ってからソフィアの暴走が起きていない事を伝えた。

 とりつくしまもなく拒否。

 さらにセシルの危険地帯への追放が決定する。

 ウォルターは自分の短慮を責めた。


 ウォルターは短慮な男である。

 二人を遠くに逃がす計画を立てた。

 そして――


 三人は今、北部の国境近くにいる。

 北部の国境には、黒い鱗の巨大な竜がいて、近づくものに襲い掛かるという。

 それはつまり北の国境を越えて逃げれば、追跡が困難ということを意味していた。

 フードのついたマントを身に着けた三人は、馬車から降りて静かに歩き出す。

 無言で歩く三人。そのうち一人の足が止まった。


「……ウォルター兄様?」

「ここから先は二人だけで行ってくれ」

「何を言っているの?」


 ソフィアの顔から眼をそらしたウォルターは二人に背を向ける。


「俺は残って後始末をする」

「兄様!」


 セシルが背中を向けたウォルターに駆け寄る。


「いいんだ。これからは二人で」

「僕は兄様と離れたくない!」


 ――ん?


「兄様と一緒じゃないと嫌です!」


 ――んん?


「兄様、愛してます!」


 抱きついてきた。

 背後を見ると、ソフィアが見たことのない顔をしている。


「……どういう、ことなの?」

「どういう、ことなんだろうな」


 セシルはなんか抱き着いたまま深呼吸している。


「そういう、ことなの?」

「いや状況を整理させて」


 ソフィアの瞳が深い青に染まっていく。


「ずっとだましてたの?」

「待って待って待って」

「ゆるさない!!」


 魔力暴走開始。

 ウォルターが咄嗟に展開した障壁は、800層が一瞬で消滅。残り200層。

 一気に騒がしくなった周囲に、セシルが背中から顔を離してソフィアの方を見た。


「……姉様、どうされたんですか?」

「魔力が暴走して……ん?」


 二人の上に大きな黒い影。

 地響きと共に大地に降り立つのは、黒い鱗の巨大な竜。


(ここを我の領域と知っての狼藉か、人間)


 声ではなく、頭の中に意志が響いた。

 ウォルターは竜に向かって声を張り上げる。


「こんな時に……竜よ、鎮まり給え!」

(許さぬ。大地の贄と痛ッ)


 竜はびくんとはねた後、痛みの原因である魔力暴走中のソフィアを見た。


(……ちょっとタンマ)

「タンマ!?」


 フランクな言葉にウォルターはびっくりした。


(えっ、何あの出力。もしかして我死ぬの? いやだあああ!)

「竜よ鎮まり給え!」


 なかなか鎮まらない竜。

 そうこうしているうちにソフィアの周りに魔法陣が複数展開される。


「あの、兄様、あれは?」

「過剰魔力排出用の魔法陣だ。まずいな、ここら一帯が更地になる」


 魔法陣の一つから白銀に輝く魔力の束が放出、その先にあった山が綺麗に消し飛んだ。


(我の棲み家が!)


 ここにホームレスドラゴン誕生。明日から野宿。

 無差別連射しているソフィアの魔法陣が、二人と一体の方向に展開された。


(あっ)

「あ」

「あ」


 全てを消し飛ばす白銀の輝きが収束していく。


(ちくしょおおお! 馬車とつがいになりたかったー!)

「兄様と一緒なら悔いはありませんー!」

「だあああ! 虚空の果て、最初の歯車! 巡り巡りてそこに留まれ!」


 魔力の束は大地をえぐりながら通り過ぎていく。

 あとに残されたのは、竜を覆うほど大きな薄く光る半球の壁。

 内部でウォルターは息を荒げて膝をついている。

 頭を抱えて地面に伏せていた竜は起き上がり周囲を見た。


(円環の盾……人間が使えるのか)

「……使えないと、死ぬ、ので」


 荒い呼吸のウォルターを見ていたセシルは、口を結んで立ち上がる。


「違うでしょう、兄様」


 ウォルターはセシルを見上げる。


「何を……」

「ソフィア姉様のためですよね?」

「違う、これは俺の役目だから」

「じゃあ何故そんな役目を引き受けたのですか」

「それは家の、ために」

「家のためにこんな無茶な魔法を使うのですか」

「それは……」

「兄様!」


 セシルの言葉にウォルターは下を向いた。


「それは……ソフィアのことが」


 小さく、絞り出すような声がする。


「好き、だから」


 いつの間にかウォルターの正面にセシルが立っている。


「それをソフィア姉様に言いましたか」

「いや……」


 セシルは顔をそむけたウォルターの頬を両手でつかむと、自分の方に向けた。


「いいですか兄様、そういうのは言葉にしないと伝わらないのです! 好きです兄様!」

「待て待て待て」


 近づいてくるセシルの顔を両手で押し返すウォルター。


(我の縄張りが原型留めてないんだけど。何してんのお主ら)


 周辺の地形はダイナミックな変化を繰り返し、地図を編集する人へのサプライズを提供している。

 ウォルターは一つ息を吐くと立ち上がり、どこかすっきりとした表情でソフィアを見た。


「とりあえず、ソフィアを止める」

「可能なのですか……?」

「手段はあるけど、魔力が足りないかな」


 セシルは地面に手を置いた。そこから魔法陣が展開する。


「魔力譲渡の魔法陣です。僕の魔力を使ってください」

(我も手を貸そう。死にたくない)

「あっ、じゃあ竜から多めにもらって」

「わかりました」

(えっ? ぐああああ!)


 突然魔力を搾り取られた竜は、泡をふいてぶっ倒れた。

 セシルは青ざめた顔で座りこんでいる。


「よし」


 ウォルターの短い言葉と共に、周囲の薄く光る壁は光の粒となって散っていった。

 右手をソフィアに向ける。


「戦の神、スールの名において動きを禁ずる!」


 ソフィアを赤い三角錐が覆う。即座にひびが全体に広がる。


「月の神、ミーシャの名において力を禁ずる!」


 赤い三角錐をさらに白い立方体が覆う。やはりひびが入る。


「大神アーテの名において!」


 ウォルターが右手を握りしめる。


「存在を禁ずる!」


 立方体を黄色の球体が覆う。

 魔力と意識を失ったウォルターはゆっくりと崩れ落ちて。

 世界は静けさを取り戻した。



「兄様、これからどうするんです?」

「北に行く」


 二人は疲れた顔で地面に座り込んでいる。


「姉様は?」

「このままで」

「大丈夫なんですか?」

「明日くらいには封印破って、多分怒りながら追いかけてくる」

(三柱神の封印が一日で? 魔王か何か?)


 竜の言葉を無視してウォルターは口を開く。


「だから時間と距離を稼いでおきたい」

「何故です?」

「ソフィアは魔力切れは無いけど体力切れはあるから、そこを狙って捕まえて」


 ウォルターは少しだけ笑う。


「色々と、話をしたい」

「いいですね」


 セシルは少しだけ寂しそうに笑った。

 二人は立ち上がり、北に向かって歩き出す。


(我も行こう)

「なんで」

(ここに我だけいたら死ぬ気がする)


 竜は二人に頭を差し出した。


(我の頭に乗る栄誉を与えよう)

「どうします? 兄様」

「まあ、いいんじゃないかな」


 二人と一体は北に向かって歩き出す。

 セシルは鼻息荒く話し出した。


「兄様、僕はソフィア姉様に負けませんよ!」

「何の勝負なんだよ」

「分かりました。本当は兄様に産んでもらうつもりでしたが僕が産みます!」

「どっちも産めないんだよ」

(北の方に、誰でも子供を産めるようになる方法があるらしいぞ)

「本当ですか!」

「余計な事言わない!」


 こうして希望を胸に二人と一体は北へと旅立つ。

 次の日普通に復活したソフィアは残留魔力をたどって北へ飛び去った。



 そして二年が経過した。

 三人が妊娠して戻って来たので、関係者全員ひっくり返った。

 みんなであわあわしながら調査を開始。

 お腹の大きなウォルターは一応妊婦という事で、母親から尋問を受けることになった。


「何そのお腹」

「えーと、セシルとの子供……です」

「? どっちも男だよね」

「そういう方法があって……」

「じゃあセシルのお腹にいるのはお前の子?」

「その……ソフィア様の子供で」

「? ???? ??」


 大混乱。


「えっ、じゃ、じゃあソフィア様のお腹には?」

「それは……俺の子供で……」

「そ、そう。それなら普通だね。うん、いいよね普通」


 誰も彼も理解が追いつかず、処分はあいまいなままで決着した。



 ウォルターは開き直った男である。

 出産予定日が一番近いウォルターは、自室で椅子に座り窓から外を見ている。

 風景の中に、ソフィアとセシルが笑いながら歩いてくるのが見えた。


「あなたの好きな人は、わたしを好きな人、か」


 ウォルターは椅子から立ち上がり、窓に近づく。


「どうなってるんだろうな、まったく」


 窓の外の二人がウォルターに気づいて手を振った。

 ウォルターも手を振る。

 自分がいつの間にか笑っていることにウォルターは気が付いた。

 みんなでいつまでも笑っていられたら、いいな。


 そう、思った。

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三人とドラゴンさんに幸あれ。
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