3 生活
ゴブリンの朝は早い。俺は体内時計でいつも5時ピッタリに起きるのだが、俺が目を擦っている時にはすでにゴブリンたちは朝食を作っていた。
ラテンに挨拶しに行くため調理室に入るとそこには5人のラテン含めるゴブリンたちがせっせと汗を流しながら作業を行なっていた。
「トオルさんおはようございます!」
昨夜ラテンに色々聞いている時に名前を教えたのだが、どうやら覚えてくれているらしい。
「ああおはよう」
昨日でラテンとはかなり距離が縮まり、他のゴブリンたちとの距離もなかなかに縮まった。
今大鍋でお玉を豪快に振るっているのはゴウ。ムキムキな見た目通りの性格をしている。
「おおトオルじゃねえか!お前朝早くないか!?」
「いやお前の方こそ。これでも俺は朝には自信あったんだけどな…」
「まあこれが俺たちの習慣だからな」
昨夜の話をしている途中、この島のゴブリンはこの洞窟内にいる12人だけだそうだ。一人一人がかなり知恵があり面白い。その中でおそらく一番バカなのがこのゴウだ。ゴウは力技ではゴブリンの中で一番だが知恵でいうとラテンが一番だ。
「魔法で火を付けているのか?」
この島にはガスなどがない。一瞬薪などを集めて地道に火を付けているのか?とも思ったが異世界といえば”魔法”だろう。
「ああそうだ。だがな、元々俺たちゴブリンは魔法なんか使えなかったんだ。けどご先祖様たちが他の種族に教えてもらったから今できるようになってるらしい!な、ラテン!」
「料理中にそんな大声出せないでください。唾が入ります」
キツイなラテン。昨日も思ったがゴウのこと嫌いなのか?
「ラテンさんとゴウさんは双子なんですよ?」
「…え?」
そう後ろから声をかけてきたのは女ゴブリンのリン。頭に華やかな紫色をした花を添えている。
「そうなのか?…いやでも顔とか性格とか真反対だし…」
「魔物は常識を覆す生き物なのです。小さいことは気にしないように」
「はあ…」
なんかよく分からない忠告をされた。まあでも納得だ。俺がいた世界の常識をこちらの世界に持ち込んではいけないな。けどこの2人が双子って流石に無理があるんじゃないか?あ、いかんいかん常識は覆されるもの常識は覆されるものッと。
それよりこのままじゃ俺はただの居候になってしまう。それではダメだ。せめて得意な料理でもしないと。
「何か俺に手伝えることはあるか?」
「そうですね…では料理の方をーーー」
「ブドウ取ってきてくれ!」
「ど、どっちをすればいい?」
ラテンとゴウは俺のことなどお構いなしにお互いに睨み合いながら喧嘩をしている。そんな中ポツンと立っている俺に気づいたリンが俺に好きな方をお選びくださいと細やかな言葉を受けた。
俺はできれば料理にしたかったが、あの2人の空気には入れないので仕方なくブドウ採取とする。幸い丘と川の中心らへんにブドウの木?みたいなものがあったのでそこに向かう。
昨日まで警戒していた道中だが、襲われる危険性はないので鼻歌を囁きながら歩く。
いや〜朝の散歩は気持ちいいな。…と、黄昏ているところで可愛い魔物に出会った。水色の体をぷにぷにと動かしていて水色の体を掘り起こしてできたような目がある。それは紛れもない”スライム”。
スライムは草むらの中に落ちているリンゴを美味しく食べている。食べている…のか?いやあれはどちらかというと飲み込んでいるような。。まあ小さいことは気にするな、とにかく食べている。
すると、スライムと目があった俺は試しに挨拶をする。だが、スライムは挨拶を交わさなく、代わりに目で挨拶をしていた。
なるほど、初めゴブリンが喋った時この島の魔物は全て喋るのかと思ったがそれは間違いだったようだ。でも話は通じるみたいなのである程度は知識がある。
俺はスライムをそっと両手で持ち上げ、ある指示を出した。こんな1人の男の指示を文句も言わずに動いたスライムは数分後、水色の体を膨らませて帰ってきた。
俺が吐き出してくれ。と命令するとスライムから無数のブドウが吐き出された。
スライムには本当にこんな特性があったのか。
俺はスライムに幾つか質問すると、ある程度わかってきた。まずスライムは腹は減らない。じゃあなぜご飯を食べてるの?と聞いたところ、味覚はあるらしい。ちなみに腹が減らないので腹も膨らまないらしい。
あまり群れでは行動しなくほとんどの行動は1人。たまに食料の奪い合いで仲間と喧嘩になる。…え?その時は僕が勝ったって?はいはいおめでとうさん。
あと基本ボーッとしてるので何か仕事を与えてくれたら嬉しいらしい。だからさっき俺の命令を躊躇もなく受け取ったのか。あと腹に物を入れるのには限度があるとのこと。
…質問をしている最中に分かったが俺は魔物の思考がある程度分かる。なんでか分からないけど分かるんだ。
と、スライムの詳細はそんなところだ。
スライムを地面に置き、洞窟に戻ろうとしたらスライムの目から水色の涙が溢れていた。
「分かったよ」
と、仕方なく洞窟へ持っていくことにした。
俺が洞窟に帰ると、みんなはもうすでにご飯を食べ終えていた。どうやらスライムと戯れた時間が相当長かったらしい。俺はラテンにブドウを渡すと、スライムをここに住ましていいか?とお願いする。
ラテンは快く受け入れてくれてスライムはこの洞窟の一員となった。
ブドウの量がかなり多かったようでラテンにとても褒められた。ゴウからの豪快な平手打ちを背中で受け止め、俺はあることをしに行くため、洞窟をまた後にする。
一応1人は心細いためスライムを連れて行く…いや付いてくる。
俺はスライムとできるだけ森の中心へと脚を運ぶことにした。というのも今から俺がすることは他の魔物からの挨拶だ。魔物といっても近所人。ただの近所挨拶と思えば心が楽になる。
魔物の場所が全く分からないのでとにかく島の中でも安全な中心へ行くとラテンに伝えたところ。
”この島は広すぎるので中心などいけないと思います”とあっさり否定された。
昨夜で分かったことなのだが、どうやらこの島はまるで一つの大陸というほど大きいそうだ。それをたった一匹で守っているという古代龍ドラギネスに対しては尊敬してもしきれない。
実はゴブリンたちも”この森”から出たことないのだそうだ。正確に言うと広すぎて出たくても出れない。
ゴブリンたちも噂程度しか知らないようなのだがこの島は火山や氷山、ましてや聖水が流れる滝などが存在するとのこと。いつかは行ってみたいな。
そんなこんなで割とマジで2時間ほど歩いたが景色一つと変わらない。心が折れそうだ。しかも動物は数体いるが、魔物はスライムしか見当たらないしな…え?なに?ここら辺はスライムしかいない?
そうなのか?…でももう少し進めば他の種族とも会えるかもしれない?…なるほど。ありがとうスライム。
スライムに感謝を述べつつ淡々と険しい森を進む。
森の木が少し変わってきた気がする。洞窟付近ではブドウが実っている紫色の木とりんごが実っている赤色の木の割合がほとんどだった。しかしここはある一つの果物の木が半分以上の割合を占めている。それはピンクの木、桃の木だ。
『『ガジュ!!』』
うんうまい。外の皮が柔らかすぎず硬すぎない。そして中は口から桃汁が溢れるほどジュージー。
これはうまいな。
スライムにも食べさせると美味しそうな表情をしている。
よし、もうちょっと食べるか。
と、木の枝に付いている桃を取ろうとした時、あの咆哮が聞こえた。
『『『ゴオオオオオ!!!!!』』』
その咆哮の正体は古代龍ドラギネスだ。
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