2 ゴブリン
「ゴ、ゴブリン!?」
まずいまずい。どうすればいい。ゴブリン一体なら何とかなると思うがここにいるのは十数体の群れ。しかも逃げ場が少ない洞窟だ。どうする俺。
頭が混乱しているとこで俺は全速力で逃げることを決めた。
「待ってください!」
すると、ゴブリンの中の一体からそんな声が聞こえる。
「待って…ください?…それ俺に言ってるのか?」
あまりにも意外な言葉に俺は不信感を覚える。しかし、改めてゴブリンの顔を見ると穏やかな顔だった。穏やかと言うよりかは人間に近い顔をしている。
意外な顔に疑問を感じるがそれよりもゴブリンの言葉が分かるのがもっと疑問に感じる。
もしかしてこの世界は一つの言葉しかないのか?
俺は警戒心を心の奥に留めつつゴブリンにそっと近づいて話を聞く。
「私たちはあなた様を襲いません。なので逃げないでください」
ゴブリンはこんな魔物なのか?俺が知っているゴブリンはずる賢く、お金を盗む魔物だ。しかし今目の前にいるゴブリンはまるでその反対、ずる賢くもなく、ましてやお金を盗むなんて想像できない。
「…そうか。。いや別にもう逃げないが俺が悪かった。勝手に君たちの敷地に入って」
ひとまず冷静に対処しよう。
「いいえ大丈夫です!それよりもうすぐ夜です。あなた様は夜を凌ぐ拠点を探してここに来たんじゃないですか?」
「そうだ。なぜ分かった?」
「ここにはたくさんの魔物が夜のうちに来ますから。でも人間は初めてです。この島にも人間はいたんですね」
この地域には俺以外人間はいないんだな。。ちょっと寂しい。
ていうか
「ここって島なのか?」
「はい。ここは世界の中心に位置する島です。そしてこの島は他の地方とは違い少し特殊なんです」
「特殊?」
「はい。実はこの島、私たち魔物は敵対心がないのです」
敵対心がない?それはどういうことだ?
「敵対心がないというのは、この島ではあらゆる魔物が生存しています。普通魔物と魔物は弱肉強食によって狩る側と狩られる側が存在するのですが、この島の魔物は生まれた時から敵対心がないのです。これは天性の導きとかじゃなく、私たち魔物のご先祖様が導いてくれたからです」
なるほど。つまりこの島では昔の魔物が頑張ったおかげで魔物同士対立しない風習ができたと…ん?待てよ。じゃああのドラゴンは何に咆哮してたんだ?俺はてっきり獲物を見つけたからだと思っていたが。
「一つ聞きたいんだが、この島にはドラゴンがいるだろ?そいつはどういう存在なんだ?」
「ドラゴン…”古代龍ドラギネス”ですか。ドラギネスは言わばこの島の守護神みたいなものです。今朝の咆哮はおそらく海の魔物か人間がこの島に来たから追い出したのでしょう。この島は貴重な果物や資源がたくさんありますから他方からは制圧しようと考える者が多いのです。その制圧者を倒しているのがドラギネスです。ドラギネスの咆哮は決して悪いものではなく警告なのです」
…俺は凄い場所に転生してしまったようだ。魔物同士が争わずドラゴンが守ってくれる平和な島…果たして俺が居ていいのだろうか?
「そういえばあなた様はどうやってこの島にいらっしゃったのですか?まさかドラギネスを破ったのですか?」
「いや違うよ。ただ単に目を覚ましたらここに来ただけさ」
「そうですか、珍しいこともあるのですね」
さて、これからどうするか。この島は安全ということだしこの洞窟を出てもいい。だがまだ俺はこの島、この世界について何も知らない。この機会に色々と聞こう。
「実は俺この世界について何も知らないんだ。教えてくれ。だから…」
「ぜひ歓迎します!」
「ありがとう」
この男ゴブリンの名前はラテン。いい名前だ。俺はラテンにゴブリンたちを紹介させてもらった後、ご飯を頂いた。ご飯は魚が主流で、肉などもある。肉というが決して魔物の肉ではなく、動物の肉だそうだ。そして葉っぱで出汁をとった汁物。暖かくて美味しい。洞窟の中は4つの部屋に分かれていて、今俺がいる一番大きな部屋がリビング。奥の部屋が調理室。右の部屋が寝室で、左の部屋が倉庫らしい。
しかしこの洞窟は天然のようには見えない、おそらくゴブリンたちが作ったのだろう。凄いな、正直魔物にここまで知恵があるとは思わなかった。普通に会話もできるし難しい言葉も使っている。
この知恵は全魔物共通なのだろうか?それともこの島の魔物だけだろうか?
「そういえばこの世界の言葉は一つしかないのか?」
「いえ、主に二つあります。人間たちが喋る言葉と私たち魔物が共通して喋る言葉の二つです。あとはまあ民族とかが喋る極数の言語です」
なるほど。魔物は種族関係なく喋れるのか。英語とかイタリア語とかなくて良かった。しかしなぜ俺は魔物の言語が分かるのだろう?まあ分からないことを求めても仕方ないか。
俺はこの島と外の世界についての情報を得ようとしたが、ラテンはこの島の世界しか知らないため外の情報はないそうだ。
この島は世界の中心にあり外の世界で大変重宝されている。国同士がこの島を制圧しようと試みるがドラギネスによっていまだに制圧されていない。この島の食べ物や植物はとても美味しくて珍しい。島はかなり大きく、島の最端には大きな山脈があるそうだ。
そして俺がここら辺で魔物を見つけられなかったのはここは最端に近いからだ。もし誰かにこの島の侵入を許したらここは最初に制圧される危険性がある。
この島の魔物は多種多様で、一つ一つ説明できないため自分の目で確かめてのこと。そして出来るだけ交流をした方がいいと言われた。
あとこの島の土地は異様に果物や食べ物が実るのが早いらしい。原因は分からないのだそうだ。
「私たちが知っている情報はそれぐらいです。少なくて申し訳ありません」
「いやいや十分だよ。それに大体のことは分かった」
外の世界に出たいという気持ちはあるが、慣れるまで当分はここに住みたいな。そして明日からはできるだけ魔物との交流をしたい。
「夜だけここに泊まりたいんだがいいか?」
「はい。夜はいくらここの魔物は温厚といえど夜行性のものが暴れる可能性がありますからね」
その後俺は、ゴブリンたちが作ってくれた木の藁のベッドで寝た。寝心地は決して良い物ではなかったが案外気持ち良く寝れた。
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