1 異世界転生
……どこだ?ここ。。湖の底?
薄れゆく意識を感じながら少しでも五感を研ぎ澄ませていた。
全く。俺の人生は何だったんだ。今頃後悔しても遅いけど。
俺の人生は休息という時間がないに等しかった。
学校から帰宅すればすぐに塾。塾の後はそろばん。そしてすぐにご飯を食べ寝る。
朝の5時に起き、県外の学校へと登校。
はあ。しんどかった。
けどまあもういい。どうせ死ぬんだしな。特別誰かに情などない。…あ、いや最後に俺が知っている中で最も頑張った人にお礼を言おうか。
『『よくやったぞ。俺』』
気難しいが最後ぐらいは自分を褒めさせてくれ。
その言葉を最後に俺は死んだ。
はずだった。
「ピヨピヨピヨ」
鳥の囀りがする。そして風の凪を感じる。おかしい。俺は死んだんじゃないのか?
まさかと思い、閉じた瞼を開けるようとするとキッパリと目が開き、目の前の光景を見た。
「夢…なのか?それとも…天国なのか?」
そう思うぐらいに目の前の景色は綺麗で穏やかだ。
雲一つとない空。見渡す限りの森。そして今の俺は森全体を見渡せれる丘の頂上にいる。
「・・・・・・・・」
風を感じる。清々しいな。一生このままがいい。
何のいざこざがあってここに来たかは分からないが、とにかく今は何も考えたくない。ただこの空間を思う存分味わいたい。
綺麗だな……と感慨に浸っているところで俺はあることに気づく。
「木の葉の色が色々とおかしい」
まず紅葉色があるのは分かる。オレンジと赤色だな。そして…青色?紫色?…ピンク色?とにかく今までに見たことない色が多色ある。
やっぱりここは天国だな。
そう確信したところでその考えが突き破られる。
『『ゴオオオオオオ!!』』
鼓膜が破れそうなほどに叫んだ”それ”は少し奥の森から出てきて、頭角を表した。
それは飛んでいる。鳥じゃない。サイズがおかしすぎる。
デカすぎるのだそれは。あまりにも。
例えるならあれだあれ。あの…神話とかで出てくる奴。そう、『ドラゴン』だ。
『『ゴオオオ!』』
もう一度叫ぶと周りの小さな鳥たちは四方八方へと散りばった。
幸いドラゴンは俺の方向に来ていない。
「…天国なのか?」
いやこんな綺麗な自然なんだ。天国に決まってる。。いやドラゴンだぞ?おかしいだろ。
色々考えたところで俺はある一つの答えを新たに出した。
ドラゴン…神話以外と考えるとここは、、異世界か?
異世界に来た実感など全くないが信じざる終えない。
「異世界…か。。じゃあ俺は転生したってこと?」
こんな俺でも一応異世界転生やら輪廻転生やらというものは知っている。普通そういうのには神様が関わっているんじゃないのか?まあ別にそんなことはいい。
とにかく今は死んでないことに感謝しよう。そしてあの呪縛から解き放たれたことにも。
いるかも分からない神に手を合わせ、ありがとうと言う。
これが意味のあるものかは分からないがせめてもの感謝だ。
しかし腹が減ったな。何か食べるものを探すか。
森といえばキノコとか猪とかが食べれると思うが、キノコはまだしも、猪とかは俺じゃあ敵わないぞ。
まあ勝てる策が見つかるまで当分は肉無し生活になりそうだな。
そして水だ。幸いにもここから近くに川が流れている。まずはそこへ行くか。
緩やかな丘を下りたところ、木の葉の色が赤色をした木の幹にりんごに酷似している食べ物を見つけた。
毒という危険性がありながらも俺は好奇心で一口かじる。
「うん!うまい!」
しっかりとしたりんごだ。しかもスーパーで買うりんごよりはるかにうまい。
少しそこら辺を探索していると、このりんごならざるものが十数個落ちていた。木の枝を見てみるとそこには何個ものりんごが実っている。
「マジかよ…あ、忘れてた水だ」
丁度喉の渇きが目立ってきたことでもう一度川を目指すことに。
無事何事もなく川に着くと、手で水をすくいゴクゴクと飲む。
「クハッ!!最高だ!」
今までで一番ではなくともトップ3には入るほど今飲んだ水は美味かった。
この水は透明度が凄く、木の葉の一枚も落ちていない。それもそのはず、辺りは木などなく石だらけだからだ。
「異世界の川は別に普通なんだな…」
さっきのドラゴンの咆哮が異世界と定着してしまったので何の驚きもない。
そこから数分、川辺でゆったりとしていると、魚が勢いよく流れているのを見つけた。まるで何かに追われているように。
俺は嫌な予感がし、川から少し離れると案の定変な生き物が川を渡ってくる。
そいつはまるで海の底から迷い込んだほどのサイズがあり、背中には大きいヒレがついている。
そしてとち狂ったのかなぜか水面から跳ねてきて俺の方に跳んできた。
俺は焦りつつも冷静に避け、そいつは地上でピチピチと跳ねている。
2本の八重歯が異様に発達しているそいつは全てを噛みちぎりそうだ。
もしかして俺を食べようとしてたのか?とんでもないな。
しばらくして跳ねなくなると周りにあった尖った石で魚を捌こうとする。しかし鱗が固く、捌こうにも捌けない。
おかしいな。サイズは大きいマグロほどだが、この尖った石でも捌けないか。
硬さを直接確かめたいため手で触ると手先に痛みが生じた。
鱗をよく見ると小さな棘が幾千万本生えている。
捌けないと判断した俺は、せめてもの思いで川に投げ捨てた。誰かに食べてもらうことを願おう。
今の時刻は分からないが体感的には正午を過ぎた気分。この時間帯になるといつもの俺は平日は学校、休日は勉強していた。しかし、ここは異世界。今の俺は自由だ。
普通の人ならこんなサバイバル生活より圧倒的に今の生活のほうが良いと思うが俺の場合は違う。こんなサバイバルは俺にとって休息に過ぎない。ので、今の俺の気分は人生で一番ハッピーかもしれない。
勉強や習い事に追われない時間…なんて最高なんだ。
りんごをがっつきながら俺はそう感じた。と同時にある問題が頭をよぎった。
「”家”がない」
俺にとって元々家など安心できる場などではなかったが、ないよりかはマシだった。そしてこの大森林。ましてや異世界、夜は日中など比べ物にならないほど危険なのかもしれない。いや危険だ。
何たってさっきのドラゴンみたいな奴もいるかもしれない。もしかしたら夜行性かもしれない。
そう思った俺は急いで拠点を建てようと決意した。しかし拠点などどうやって建てれば良いのやら。
木で建てる?石で竈門型にする?バカだ。何度も言うがここは異世界。すぐにそんなボロっちい拠点なんか潰される。であれば手段は一つ。
”地下に拠点を設ける”ことだ。
ここら辺に洞窟の一つや二つあるだろう。よし、決まったら早速探そう。
洞窟を探している間にりんご以外の食べ物がたくさんあった。ぶとうやオレンジ、いちごなどがある。このフルーツたちはすべて木で実っている。何ともおかしい話だ。
移動している最中に俺は動物?いや異世界だから魔物か。まあとにかく危険な生き物に見つからないよう慎重に移動したのだが、生き物は1人たりともいなかった。おそらく今朝のドラゴンの咆哮で逃げたのだろう。
そして意外とあっさり洞窟は見つかった。
「あれ洞窟って暗いんじゃね?」
不覚にもそう思い至ってしまった。なんで俺は探す前にこんな簡単な事が分からなかったのかと自分を責める。
しかし、いざ洞窟内に入ってみるとそこには松明が壁一面に広がっており、奥には何やら生き物がいるようだった。
それは緑色の体をしていて全体的に小柄な魔物。俺でも知っているこいつらは”ゴブリン”だ。
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