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「それは……あれだけ出しておけば、周りが付き合ってるんじゃないかって疑うだろうし……」
「疑われたらまずくないか?」
「夫婦チャンネルに切り替えればいいだけ」
「色々すっ飛ばすな。ほら、着いたぞ」
澪奈の家の玄関まで行き、荷物をすべてインベントリから引き出す。
中に入ると、
「あっ、茅野くん。泊まってく?」
澪奈の母親が奥からやってきて、遅れて澪奈の父親もやってくる。
「配信見ていたよ。今度は茅野くんもやるんだってな」
「……ええ、チャンネル的にもそのほうがいいと思いまして」
「はは、頑張ってくれ。くれぐれも怪我しないようにな」
「そうね。将来の旦那さんに何かあったら大変だもんね」
「うん大変」
この母娘は本当に冗談の性質が似ている。
父親も苦笑しつつ、頷いている。
「そうだ。何かあったら大変なんだ。怪我しそうになったら全力で逃げなさい」
「……はい、ありがとうございます」
まあ、なんにせよ皆心配してくれているのは分かっている。
それだけは気をつけないとな。
月曜日になり、俺は連絡を取っていた雑誌の記者へと会いに行く。
待ち合わせ場所は俺のアパート近くの駅前のカフェだ。
中に入ると、すでに待ち合わせの男性がいて笑顔とともに手を振ってくる。
「どうも、久しぶりです茅野さん」
「久しぶりですね、橋本さん」
お互い軽い微笑と挨拶をかわし、席につく。
コーヒーだけを注文し、橋本さんが口を開いた。
「そういえば、うちの知り合いの雑誌見ましたよね?」
橋本さんの苦笑に合わせての問いかけ。
おそらくは、『スピードフォーク』について書かれたあの雑誌のことだろう。
「隅から隅まで、とはいきませんが、多少関係しているところは見ましたね。うちにも結構メールとかくるんで」
「それはすみませんでした。一応俺も確認したのですが、上が二人の名前を入れたほうがいいというものですから……直接的な被害は出ていませんか?」
「そうですね。むしろこちらについては否定してくれていましたし、ありがとうございます」
「いえいえ」
俺も二人には頑張ってほしいと思っているのも本心だったので、二人が不利になるようなことは何も伝えていない。
ただまあ……俺が離れたことで花梨と麻美がマークされるようになったのは事実だろう。
「まあ、といっても二人を見張っていればすぐでしたけどね。周りにも色々自慢話していたので、わりとすぐに情報が出てきたといいますか……」
……それには苦笑を返すしかない。
花梨と麻美は脇の甘い部分があるからな……。
「そうですか」
「そういえば、澪奈さんはどうですか? 進展ありました?」
「進展も何も、俺と澪奈の間にはマネージャー以上の関係ないんですけど……」
橋本さんまでそんなことを言ってくるものだから驚いてしまう。
「ていうか、お二人が付き合ってくれたらすぐに記事にするんですけどねー。よく澪奈さんが言ってきますよ? 記事書いていいよーって」
「……それ真に受けないでくださいね?」
「はは、もちろんです。書くときはご家族の取材を得て、ご家族からの了承もあるって分かってからにしますよ! 茅野さんのご迷惑にならないように!」
「安心してください。そうならないようにしますから」
「つまり、澪奈さんが卒業してから、ですね?」
「違いますが?」
橋本さんの相変わらずのテンションに苦笑していると、少し真剣な表情になる。
「あと、やはり記者たちも澪奈さんと茅野さんについては結構嗅ぎまわっている人も多くいるから、気を付けてください」
「それはまあ、大丈夫です。澪奈も人の視線とかには人一倍敏感ですからね」
「そうですか。情報としては澪奈さんの学校は特定済みですの記者が多いです。茅野さんの自宅もです。もしかしたら今後、リア凸とかも増えるかもしれませんから注意してください」
「……そうですか。『スピードフォーク』って今はどのくらいまで情報を掴んでいるんですか?」
「枕した相手にまで突撃しているので、もうほとんどすべてですね……。『スピードフォーク』がそこまで大きくない事務所ということもあり、忖度する会社も少ないので……今週当たりでさらに動きがあると思いますよ。そのために、先にあのくらいの情報を挙げたんですからね」
先に情報を小出しし、世間の注目を集めたところで本命を出す。
……相手があまり有名じゃない場合に使うそうで、『スピードフォーク』に対してはそういう認識のようだ。
確かに、ここ最近では『スピードフォーク』の話題がテレビで取り上げられることも増えている。
小さな事務所ではあるが、何人かはドラマの端役に出るような人もいたのだから、一度火が付けばいいネタになるようだ。
『ライダーズ』のメンバーはどちらかというと下のほうのグループだったが、『スピードフォーク』という名前をセットすれば今は世間で注目を集めることになる。
「そうですか……ありがとうございます」
「ま、そういうわけで。うちとしても今話題のカップルMeiQuberの活動拠点である、迷宮についてインタビューしたいってわけなんですけど、いいですか?」
「普通のMeiQuberrですからね? とりあえず、家を見たいのであれば案内はしますが」
「お願いします! それじゃあ行きましょうか!」
橋本さんにそう伝え、俺たちはカフェで支払いをして家へと向かう。
橋本さんとともに自宅へと入ると、彼は満足げに頷いている。
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