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「生放送、終わった……っ」
澪奈が伸びとともにそういった。
時刻は二十一時二十分。なんだかんだスパチャを読み上げるのに時間がかかり、この時間となった。
疲れた様子ではあったが、澪奈は笑顔だし満足そうだ。
「色々と考えないといけないことはあるけど、ひとまずお疲れ様」
「うん、ありがとう。でも、結局まだ迷宮は残ったまま。そういえば、声がしたって言っていたけど、マネージャーには何か聞こえてたの?」
澪奈も、俺の発言に深く触れなかったのは、触れないほうがいいと察したからなのだろう。
「……ああ。俺が初めて迷宮に入ったときと同じ声が聞こえたんだ。……なんだったんだろうな?」
「その声、私には聞こえてないから何も言えない……」
「やっぱり、聞こえてなかったんだな」
謎の声の主、については検討してもどうしようもないか。
……ただ、間違いなく俺に【商人】の力を与えたものと共通なのは確かだ。
さっきの声からも悪い印象は感じなかったし、それはひとまず置いておこう。
「まあ、考えても分からないことは仕方ないな。とりあえず明日の予定をどうするかってところだよな」
「うん。だらだらと生放送してもちょっと問題だし、明日は午前中に迷宮の探索をして、頃合い見て生放送にしよう」
「そうだな。って、まあ今日はもういったん仕事は終わりにしよう! 澪奈、ほらそろそろ帰らなくていいのか?」
「今日はお泊り。シャワー借りていい?」
「……忘れてなかったか。ああ、使っていいぞ。ほら、着替えセット」
俺がインベントリから澪奈の着替えが入ったカバンを取り出す。
澪奈がそれを受け取り、キッチンのほうの廊下へと運ぶ。
「マネージャーも、迷宮での戦闘で汗とかかいた?」
「そうだな」
「それじゃあ、シャワー浴びたい? 先に入る? 背中流してあげるけど」
「大人二人も入れるほどうちの風呂場に余裕ないぞ?」
「大丈夫、密着すれば」
「それは常識的に大丈夫じゃないから」
「むぅ……残念」
澪奈が風呂場へと向かい、まもなくシャワーの流れる音がした。
俺は部屋の片づけを行いながら、マットレスをしいていく。
澪奈の分だ。購入したばかりなので、俺のものよりもしっかりしている。
俺のなんて、買ったときの半分くらいのサイズになってしまっているからな。
澪奈の布団を用意した後、なるべく澪奈から離れるようにして俺の布団も敷く。
……これで、まあ大丈夫か? 本当のことを言うのなら、敷居でも作りたいところだがそれは現実的に不可能だ。
俺もシャワー以外の寝る準備をしていると、まもなく澪奈が風呂場から出てきた。
ただ、風呂と廊下が直通であり、そこに部屋があるわけではない。一応、澪奈が泊まるということで、着替えのスペースが必要だと思い、廊下の端と端に突っ張り棒をして、のれんのようなカーテンをつけてある。
その緊急的に作ったカーテン一枚を隔てて、澪奈が着替えを行っている。
……いやいや、意識するな俺。
平常心、平常心、と思っていると、
「わ!?」
澪奈のほうから悲鳴が上がった。
ちらと視線を向けると、ズボンに足をかけた際に澪奈がよろけてしまったようで、こちらに倒れてくる。
上半身裸の、ズボンを中途半端に履いている澪奈が慌てた様子で手をばたつかせていて、俺はすかさず彼女を助けるために飛びついた。
腕を必死に伸ばし、その体を抱きとめる。
「だ、大丈夫か!?」
「う、うん……ありが…………!」
澪奈はそこで、顔を真っ赤にする。
俺も、そこで自分の手が触れる柔らかな感触に気づいた。
……彼女を抱きとめた際の左手が、彼女の左胸をつかんでいて……。
普段なんだかんだ過激な発言を連発する澪奈は、耳まで真っ赤にして顔を伏せている。
そんな澪奈から俺は慌てて手を離した。
「わ、悪い! 悪気があったわけじゃないから!」
「……分かってる、から」
澪奈は顔を真っ赤にしたまま、いそいそとカーテンの奥へと向かう。
……とりあえず怪我がなくてよかった。
そんなことを思いながら、先ほどの感触を脳から追い出そうと、俺は部屋に戻り、精神統一を行う。
すぐに澪奈が戻ってきたが、いまだ顔は真っ赤だ。
「シャワー、浴びてくるな」
「……うん」
澪奈はすっかり静かになっている。
俺が何か言うとセクハラになりそうなので、俺も何も言えずにシャワーを浴びる。
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