36
そんな声が聞こえた。
……たぶん、このタイミングということは【鼓舞】だろう。
ショップで確認してみると、【鼓舞】が追加されている。150万ゴールド。こちらもすぐに買える代物じゃないなぁ……。
澪奈のほうに近づくと、彼女は疲れたような表情とともに額の汗を軽くぬぐい、ピースを作った。
「なんとか、なった」
……ちょっと過剰に動きすぎたせいで、かなり疲れているようだ。
倒れたゴブリンリーダーが、素材をドロップする。
素材と魔石と、装備か。装備は後で詳細を確認するとして、ひとまずは……この後について調べないと。
ゴブリンリーダーがこの迷宮のラスボスだったのか、中ボスだったのか。
……その時、迷宮ががたがたと揺れ始めた。
「な、なに?」
その揺れに驚いたように澪奈も声を上げ、コメントも伸びていく。
〈迷宮揺れてる?〉
〈そんなの聞いたことないぞ?〉
……だよな? 俺も決して迷宮のすべてを知っているわけではないが、こんな現象は初めて聞く。
攻略の終えた迷宮は魔物が出現しなくなり、数日が経って消滅する……というだけのはずだ。
そして――
【摩訶不思議のダンジョンの再構築を行います。――ダンジョン利用者の能力から最適のダンジョンの再構築を実行。再入場をお願いします】
その声が聞こえた瞬間。
「きゃ!?」
「うお!?」
俺たちは迷宮の外へと弾き飛ばされた。
見れば、六畳間の俺の部屋だ。派手に飛ばされた俺が地面に尻もちをうち、その上から澪奈が降ってきた。
「あぎゃっ!?」
「ごめん……大丈夫?」
「と、とりあえずは……」
澪奈に押しつぶされる形で、俺はすぐにカメラを迷宮のほうへと向ける。
〈澪奈ちゃんに潰された!?〉
〈そこ変われマネージャー!〉
〈なんというご褒美! ずりー!〉
〈潰してください ¥10000〉
……いや、今はそれよりもこの迷宮に注目してほしいんだけど。
「……攻略、されてない?」
澪奈が言うように迷宮は黒い渦のままだ。通常、攻略されている迷宮は白い渦となり、やがて完全に消滅する。
「マネージャー。さっきのって、迷宮攻略したときのものに似てたと思うけど」
「……そうですね。でも、さっき外に出される前に声が聞こえませんでした?」
「……声? 聞こえてない」
「……」
どういうことだ?
さっきの声は俺にだけ聞こえたのか?
……だとしたら、これに関しては深堀りしないほうがいいかもしれない。
コメント欄からの質問が増える前に、次の話題を振ろう。
「……一度、中の様子を見てみましょうか?」
「……うん。コメント欄も、もし知っていたら教えてください」
〈この現象、今調べてるけどまったくヒットしない〉
〈なんかこの配信見ていた有名冒険者もおかしいって言ってるぞ?〉
〈イレギュラー発生のおかげか、視聴者どんどん増えてるな〉
……本当だ。見ればいつの間にか5000人まで増えている。
コメント欄を見ると、どうやらそこそこ有名な冒険者が俺たちの配信を見ていたらしく、その人がTwotterで呟いたのが理由のようだ。
さっきの迷宮の変化を見て、コメント欄も困惑しているし、情報が何もない。
……不安ではあったが、俺と澪奈は並ぶようにして迷宮の内部へと踏み込むと、そこには青空が広がっていた。
それまでの洞窟のような迷宮ではなく、まったく新しい別の迷宮だ。
遠くには山が見え、洞窟のようなものもある。周囲には森林や草原などもあり……これまでよりも開けた空間がそこにはあった。
「さっきとまったく違う」
澪奈が驚いたようにぽつりと声を漏らす。
それは澪奈だけでなくコメント欄もだった。
〈何これ?〉
〈さっきまでの迷宮とまるで違う?〉
〈まったく同じ場所にまた別の迷宮ができたってこと?〉
コメント欄がさらに伸びていく。このイレギュラーは、誰も知らなかったからこそ、議論するようにコメント同士で会話が行われていく。
……さすがに、この状況は想定していなかった。
澪奈にスマホを渡しながら……俺は先ほど聞いた声を思い出していた。
【摩訶不思議のダンジョンの再構築を行います】
……ああ、きっとそれが原因だろう。
でも、一体なぜ?
明確に迷宮を管理している者がいて、その者が俺たちに合わせて新しい迷宮を作った……のか?。
その理由までは、分からないが。
「……とりあえず、ピース」
混乱の極みに達したのか、澪奈が自撮り風にスマホを傾け、ピースをしていた。
そして、このイレギュラーのおかげもああってか……視聴者は10000人を超えていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




