29
〈澪奈ちゃんの頬が引くついてて草〉
〈マネージャーさん……強く生きてくれ〉
〈ていうか、澪奈ちゃんもそんな感じなの!? 大丈夫!?〉
コメント欄に誤解されてしまったかもしれない。
俺は慌てて、それを否定する。
「澪奈さんは違いますから安心してください! 学生なので、だいたいの活動は休日に合わせてます。それも九時、十八時になるようにしていますよ」
そこだけは誤解がないように伝えておかないといけない。
ていうか、わりと俺と澪奈への質問が半々くらいあるのだが……? あれ、このチャンネル澪奈のものだよな?
マネージャーの仕事に結構興味を持っている人がいるからだろうか。
俺が受け入れられていることに驚きながら、返事をするとまたコメントが増えていく。
〈休日ってことは、マネージャーの仕事って土日もあるんですか?〉
……思っていたよりも質問が多いよな。
マネージャーといっても事務所ごとにどこまで行うかは違うので、参考になるかどうかは少し不安だ。
「ありますね。ていうか、やっぱり土日のほうが多いので休みは……平日にとりますね」
〈月の休みってどのくらいですか?〉
「……まあ、片手で数えられるくらい……あったらいいですかね?」
〈マネージャーさん。強く生きてください〉
〈マネージャーさんはゆっくり休むといい〉
「ありがとうございます。ほら、澪奈さん。あまりこちらに集中してないで、魔物出てきましたよ!」
このままだと誰の配信か分からなくなりそうだったので、ちょうど出現してくれたゴブリンに感謝だ。
俺が澪奈に声をかけると、澪奈がすっと視線を向ける。
「それじゃあ、ちょっと戦ってくる」
「はい、お願いします」
俺もカメラマンとして澪奈のベストショットを見せられるよう、彼女に付き添う。
コメント欄も緊張した様子で流れていく。
そして、澪奈は練習した太ももからの拳銃抜きを披露する。
〈おっ!?〉
〈みえ……!?〉
それから、ハンドガンを乱射して、ゴブリンを仕留めた。
……一階層くらいのゴブリンなら余裕だよな。
「ふう……あれ、もしかして見えちゃってた?」
コメント欄の様子を見て、澪奈が焦るようにこちらを見てくる。
コメント欄が嘘のコメントで溢れていたので、いつも冷静な澪奈が珍しく焦っていた。
……これは、澪奈の素顔を見せるチャンスでもあるな。
俺はさも見えていたかのような雰囲気を醸し出すと、澪奈が顔を赤くする。
「ま、マネージャー……? だ、大丈夫だったよね?」
「……いや、まあ……それは。ええ、大丈夫でした」
「じゃあ、そんな意味深な顔しないで……っ。焦った……」
澪奈がほっと息を吐くと、コメント欄が澪奈の様子にコメントしていく。
〈なんだか澪奈ちゃんが自然な気がする〉
〈こんな澪奈ちゃんの反応初めて見たかも〉
〈澪奈ちゃん、可愛い〉
「ほら、澪奈さん。コメントされてますよ」
俺がからかうように言うと、むすっと澪奈が頬を膨らませながら歩き出す。
「……ありがとうございます。次からは拳銃持ったままで戦うから」
むすーっと頬を膨らませて歩いていく澪奈は、しかし、その様子がまた可愛いとコメントされていっていた。
気づけば、視聴者は1000人ほどまで増えていた。
……予想以上の伸びだ。
俺としては、今までの経験から500人ほどまで行けばいいと思っていたんだけど。
基本は澪奈か俺がコメントの質問への回答を行い、移動しながら魔物が出れば、澪奈が捌いていくという感じだ。
俺はカメラマンとして、澪奈をとにかく映し続けていたのだが、
〈そういえば、二人で今は迷宮に入っているんですよね? 大丈夫ですか?〉
〈確かにマネージャーさんって特に護衛とかつけてないんですよね?〉
〈めっちゃ危なくない? 前よりブラックな環境になってない?〉
「それは大丈夫です。俺もそこそこ戦えるので」
ある程度進んでいったところで、そんなコメントが出てきた。
……俺は黒子に徹しようと思っているのだが、澪奈がちょこちょこ俺に話を振ってくるせいで、中々完全には消えられない。
今いる視聴者たちは気にしていないようだが、それでも俺はいつ炎上するのかとヒヤヒヤしている。
スマホを眺めていた澪奈がこちらにやってきて、手を差し出してきた。
「マネージャー、心配されてるし……皆に一度戦ってる姿見せたらどう?」
「……それは、確かにそうですね」
一瞬え? と思ったが、今後も俺と澪奈の二人きりでの撮影環境が続く。
俺がそれなりに戦えると分かれば、澪奈の心配をしているファンも減るだろう。
差し出された澪奈にスマホを差し出すと、彼女は自撮りのような感じでカメラを自分側に向けている。
「というわけで、ちょっとだけ私がカメラマンになります。ってこれだと、私のアップしか映ってない……こんな感じでどうですか?」
澪奈は自分のスマホと見比べながら、自分が映るように調整している。
……こういう場で顔を晒すのは初めてなんだよな。といっても、調べればいくらでも出てくるとは思うが。
コメント欄で一体どんな風に言われているのか……。
ちょっと気にしながら、俺は腰に下げていた剣に手をかける。
念のため、インベントリはうつさないようにしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!




