007 戦闘
「愛って何なんだろうか(遠い目)。」
くそったれめ。愛って言うのは決してこんなものじゃないだろう。愛って言うのなら優しく包み込むとか、情熱的に燃え上がるとかそう言うのだろ。なのに、なのになんだこれは。何故殺されそうになってるのだ。ほんと不思議だなぁ。
「あらあら、よく避けるわね。」
「避けな、死ぬでしょーが。」
「まだそんなこと言って。全く、早く私の愛を受け入れればいいものを。」
このお嬢様と結構仲良くなれたんじゃないだろうか。時間が経つにつれてお嬢様もだんだんため口が多くなっていって、今ではこんな感じだ。何ならもう友達レベルかもしれない。ほら、よく言うだろ。喧嘩の後は夕陽の下で友情が芽生えるって。そう言うのかもしれないなぁ。
現実逃避もそこまでにして、どうにか状況を変えないとジリ貧だな。たぶん亡霊は生前の能力の一部しか出し切れていないと思う。そうじゃなければもうとっくの昔に殺されている。しかし、そうじゃないということは肉体性能(そもそも、肉体なのか?)、能力性能、狂器適性すべてが生前から落ちているとしか思えない。
まぁ、愛によってと言ってたからなぁ。殺された相手に早々に屈する奴らでもないか。“被虐体質”は怪しいところだが。この能力自体は有名で攻撃性能は低いのは分かり切っているから、どうでもいいけどな。
「見逃してくれないかなぁ、なんて。」
「ダメね。」
「だめかぁ。もし見逃してくれたら愛が深まるって言ってもか?」
「そうね~。一考の余地があるかもしれないわね。」
「おおっ。」
これは期待できるかもな。そこを攻めればこのままお話で済むかもしれない。しかし、どうだろう。相手もちょっと壊れているからなぁ。そんなけじゃ無理かも。でも、この方面で説得出来れば見逃すまで行かなくても少しぐらい猶予も伸びるだろ。
「けど、ダメ~。私、あなただけは今すぐ手に入れたいの。絶対に。私にも何でか分からないけどね。どうしても、どうしても欲しくなっちゃった。」
「情熱的だね~。困っちゃうなぁ。」
「ウフフ。あなたは特別愛してあげるわよ?」
「魅力的だが、お断りだね。」
こりゃダメだ~。この方面の説得じゃ無理だな。どうにかして突破口を見出さなければ。それか時間が経つのを待つかだな。しかし、もう戦闘開始から結構な時間が経つんだよなぁ。それなのにまだ国軍が来ないし。どうしたものか。俺には攻撃できる手段がないからなぁ。
「あら、そう。残念。私もそろそろ本気を出さなければかしら。」
「いや、待ってよ。これ以上はきついんだが。」
「待ってあ~げない。とっておきよ。“痛傷征服者”、“人形職人”。」
「えぐいって。さらに物量を増やすなんてな。」
真面目にかなりきついぞ。どうしたものか。“人形職人”か。名前からしてかなり厄介なんだよなぁ。能力としては人形の制作と操作。これだろうな。製作は材料が必要だろうし、時間もいるだろう。
人形自体の能力はかなり低いものになるだろうけど、問題は数だ。人形は亡霊が抱えている熊のぬいぐるみの一体だけだが、そこらの岩とかからも創り出せるだろう。制限数はあるだろうがそれでも歓迎すべきことではない。岩でできた拳とか絶対痛いし。
そして、問題は“痛傷征服者”。能力が全く読めない。だがとっておきというくらいだ。尋常じゃない能力なんだろう。とっておきと言うにしては“人形職人“は弱いしな。
「ウフフ。あなたへの愛よ。」
「勘弁してください。もう少し軽い感じのでいいのに。」
「愛するのは全力で、でしょ。」
「はぁ、否定はしないけど。方法がなぁ。」
本当に勘弁してほしいんだがなぁ。ていうか初めてあのくそ野郎3人に感謝してるわ。あいつらがいなかったら多分ここまで避けれてないしなぁ。そういうところだけは本当に感謝だな。
んー、だけど“接続”って未来予知系じゃないのか?相手の動き何て全く読めないんだけど。あの3人は単純に慣れてパターンを覚えただけか?そうすると“接続”ってなんなんだろうな。
「やっぱり愛が足りないのかしら?」
「いえ、十分です。」
「そう。足りないって言われたらどうしようかと。」
そんなこと考えてる場合じゃないか。一応攻撃は受けていないけど、ちょっとヤバめなんだよな。そろそろ攻撃を受けてもおかしくない。攻撃を受けるとやばいだろうなぁ。たぶんそのまま押しきられて負ける。どうにかしなくちゃ。
「何かしら?」
「えっ?」
女の子が空から降ってきた。これで小説の世界ならお姫様抱っこしてから、何かが始まるんだろうけど、自分で地面に降り立っちゃってるんだよな。まぁ、この世界の住人は大概強いからなぁ。自分でどうにかするよなぁ。
「邪魔者が入ったみたいね。」
「“愛憎霊装”。」
それにしても噂とは違っておどろおどろしい感じではないな。何ならちっこいから可愛らしい印象を得るんだが。外見からは分からないけど、やばいんかなぁ。まぁやばいんだろうなぁ。同い年のやばい奴って、やばさが際立って見えるから嫌だなぁ。
赤黒いドレスに金のティアラ。その顔には何の表情も浮かんでおらず、無が広がるのみ。でもその目は確かな狂気を感じられ、そこが引き立っている。見た目だけならどっかのお姫様みたいに見えなくともないんだけどなぁ。
そのドレスが何かの血で出来てるんだろうし、それに血の片手剣と腕にバックラーが装着されていることを考えると十分におかしいな。
「あなたのお友達かしら?」
「いいや。知らない奴。だけど噂は聞いたことあるから。」
「なるほどね。」
うーん。やっぱり変な欲求さえなければまともなんだよな。それになんというか見た目は好みなんだよな。これで普通だったらなぁ。惜しいよ。本当に惜しいよ玲子嬢。
「名前は?」
「人に名前を聞く前に自分が名乗るべきじゃないかしら?」
「天城凪海。」
「私は“深愛亡霊”、来巻玲子よ。以後お見知りおきを。」
「来巻玲子。NO,4732。“深愛亡霊”。来巻家の次女。殺害厳禁、撃退のみ。功労ポイントなし。……厄介。」
「国軍が圧力掛けられてんじゃん。やばっ。そんな相手だったのか。」
この女、指名手配されてやがる。それもブラックリストとかの方に。手出し厳禁だけど犯罪者だから止めないといけない。そんな矛盾による産物。お偉いさんの娘ってだけでやばいのに、狂器に狂ってるなんてな。世も末だ。
「ウフフ。そうなの。お父様が勝手にやったのだけどね。私としては獲物が勝手にやってきてくれた方が嬉しいのだけど。しょうがないわよね。お父様にも立場があるのだし。」
「困った娘だね。」
「撃退開始。」
「この娘もか。人が話してる途中に。」
そうして二人の戦いは始まった。ということでもう帰っていいか?駄目だよなぁ。まだ、こっち狙ってきてるし。最悪だな。