005 スカウト制度
「あー、疲れた。」
「何を言っているのですか?今日は何もしていないでしょう。」
「英二はそう言うけどさ。学校へ行くってだけでも疲れるものだろ。」
「えー、そぉ?学校って楽しいじゃん。」
学校を楽しいなんて正気の沙汰じゃないな。陽菜は元気で明るい奴だからな。何事も楽しいのだろうな。羨ましい限りだ。こっちは登校するだけで億劫なんだよ。
「陽菜の言う通りだよ。こうして僕らが会えたんだしね。」
「ま、それはよかったけどな。それはそれとして疲れると思うんだがな。」
「おっさん。」
おっさん。おっさんかぁ。そんなおっさんみたいだったか?一応ぴちぴちの高校一年生なんだが。それに例のあの三人を相手にするのに疲れないわけないしな。仕方ない。そう、仕方ないんだ。
「おっさんって。同い年なんだが?」
「すぐ疲れるのって、おっさんだからでしょ。」
「沙耶さん。きついっす。」
それはそれとして凹むけど。なんだよ、おっさんて。
「あははは。おっさんって。」
「陽一も笑うなよ。」
「だってさ。おっさんだよ。まだ高校生なのに、さ。あははは。おっかし。」
なんか今日は笑われてばかりだな。けっ、楽しそうで何よりだ。
「笑うなよな。ま、いいけどさ。それより頼もうぜ。」
「はいはーい。私、パスタ食べたーい。陽一は何がいい?」
「そうだね。メニューを頂戴。」
「もー、ここに何回も来てるでしょー。大体メニュー覚えてるでしょ?」
陽菜って地味に優秀なんだよな。見た目通りに運動能力はすごいし、頭もいい。一度見たものや聞いたことはほとんど忘れないらしい。それでも絶対記憶能力とやらよりは全然に劣っているものらしいけど。
まぁ、一般人からしたらどちらにせよすごいものだけどな。他にも家事全般もできてって、なんか弱点がない感じだな。
「全然。陽菜は記憶力とかすごいからね。」
「んー。そうかなー。まぁ、いいさー。これメニューね。」
「ありがと。」
「んー、僕はそうだね。ハンバーグにするよ。朝陽、はい。」
「俺は陽一と同じので。」
「そう。なら、英二と沙耶は?」
「私も二人と同じので。」
「陽菜と一緒の。」
みんな似たようなものを頼んでるな。男女でちょうど別れた形か。なんか優柔不断なのだろうか。真面目に選んだのは陽一と陽菜くらいじゃないか。その後は一緒のでとかで済ませているし。
まぁ、他人のことを言えないし、いいんだけどね。何でもよかったし。
「あとは、ドリンクだけど。ドリンクは飲み放題でいいよね。」
「ああ。いいんじゃないか。」
「じゃあー、定員さんを呼ぼー。」
「そういえばさ。さっき言っていた、スカウト制度とかってのは何なんだ?」
「おや?朝陽がそういうことを聞いてくるなんて、珍しいこともあったものですね。」
珍しいなんて失礼な話だよな。その通りだけどさ。あたかも、いつも真面目な話を聞いていないみたいじゃないか。その通りだけど。
「何となくな、気になって。別におかしな話でもないだろ。」
「そうですけどね。朝陽がってことにですね。」
「あははは。朝陽、言われてる。」
「うっさいな。いいだろ別に。」
陽一だってそういう話は好きじゃないくせにな。よく他人のことを言えたものだ。反対の立場だったら俺がやっていただろうけど、他人にやられるのはいやなものだ。
「朝陽がそういうことに興味持つというのはいいことです。」
「いいから、早く説明。」
「スカウト制度のことですね。」
「ああ。」
「簡単ですよ。高校の生徒に対して外部の会社などから来た役員が勧誘する。それだけです。」
授業とか大人が見に来るってことか?嫌なんだが。それも赤の他人に見られるわけだろ。最悪じゃないか。事前に来るってことは伝えられるなら、その日は休みたいぐらいだな。
「会社の方から、入社をしないかって誘うんだな。」
「そうです。野球のドラフトのようなものと捉えればいいでしょう。あくまで会社の方からの勧誘ですから、断ることもできます。」
「へー、断ることもできるんだー。」
「はい。それに勧誘に応じたからといってすぐ入社ということではなく、仮雇用のようなインターンシップのような扱いになるみたいです。」
仮雇用だとかインターンシップだとかどういうことだってばよ。取り合えずは給料発生しないの?企業に籍を置かないの?なんだかよく分からんな。
「どういことだ?正社員にはなれないってこと?」
「はい。原則なれないみたいです。あくまで仮の体験期間というようなもので、本決定というのは高校卒業後らしいです。」
高校は義務教育だからか。よほどの例外でもない限り高校を辞めることもできないし。なんだかな。いいのか悪いのか。どうなんだろう。
「給料とかはどうなっているんだ?」
「払われる場合と払われない場合のどちらもがあるみたいです。それは会社との契約によるものらしいので、どうなるかは契約を結ぼうという段階で交渉することになるのでしょう。」
高校公認のアルバイトか?職業斡旋のようなものかも?いやだな。常に就職のことを考えて生活しなくちゃならないってわけだろ。プレッシャーがすごそうだ。
「はぁ。なるほどね。この中の五人から勧誘とかされるかもしれないな。」
「どうでしょうね。この制度自体、優秀な狂器を持つものを独占しておこうという会社の企みのものですからね。よほど優れた能力でもない限り選ばれないでしょう。それに優れていても衝動によっては相手から願い下げだと思われても仕方ないですから。」
「なんか何時にも増して悲観的だな。」
「そんなことはないです。冷静な分析の結果です。」
それにしては変に悲観的で、感情的な眼をしていたがな。英二は狂器を隠したいわけだし、そうなってもおかしくはないか。よほど自分の狂器が嫌いなんだろうな。
「まぁまぁ、選ばれたらラッキー程度に思っておこうよ。」
「うんうん。陽一の言う通りだぞー。いいこと言うなー。」
「ありがと。」
「イチャイチャすんなし。」
陽一と陽菜が笑いあって見つめあっていやがる。この中で二人だけが恋人同士だからって、羨ましい気がしないでもない。ただなぁやはり衝動が、欲求がネックなところだな。それさえなければ彼女の一人や、二人くらい。
「朝陽も彼女作ればって。」
「無理。」
「なぜに、沙耶に言われなければ?それに、沙耶の方が無理でしょ。」
「私はいい。元から作る気無いから。」
そんな感じはする。沙耶はクールだからな。クールというよりも人間不信っぽく感じるのだが、まあ気のせいだろう。そうじゃなきゃ、このグループにはいないだろうし。
「そうかい。だってさ、英二。」
「なぜ、こっちに振るのです。」
「はぁ~、まあいいや。」
自覚、無いんだろうな。それとも俺の勘違いかもな。英二が、沙耶を好きなんてな。まぁ、これから楽しみにしておくとするか。
「いや、なんです?」
「なんでも。」
「そうですか。」
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