004 入学式
入学式といっても何も語ることなどなかった。無駄に長い校長の話があって、それに生活指導の先生から学校生活の注意事項がある。俺たち生徒からしたらどちらもが面倒でしかないものだ。
だいたい入学式など寝ているやつや話を聞いていない奴が大半を占めている。それに聞いていたとしても、その話を数十分でも記憶に留めておけばいい方だろう。つまらない話は耳から耳へ、音として通り過ぎているに過ぎない。
「詰まらん入学式だったな。」
「朝陽はそれ、毎回言ってるような気がするね。」
陽一に呆れたように笑われるとなんか自分の感覚がおかしいかのように思えるが、絶対にこちらの感覚のほうが正しいだろう。自分にとってどうでもいい話を長時間される苦痛を歓迎する奴なんて、どこにもいやしないはずだ。
「仕方ないだろ。実際つまらないんだしさ。陽一は面白かったのか?入学式。」
「いや、別に面白かったっていうわけでもないけど。」
「だろ。誰も長い校長の話なんて求めてはいやしないのさ。」
「まぁ、そうかもね。でもいくつか興味深い制度、体制については、触れていたけどね。」
制度?体制?いつから陽一はかしこぶるようになったんだ?それは英二の役目だろ?後から陽一と同じことを言われそうだな。なんだか未来が見えた気分だ。
「なんかあったか?」
「例えばスカウト制度であったり、学校の運営の方の体制の話だったり、あとはそうだね。学校の運営と関わる話だけど、委員会制度とかは興味深ったかな。」
「単語を聞くだけじゃあわけわからないな。頭がこんがらがりそうだ。」
そんな話に興味深いなんて思えるなんて、本当に同じ人間なのだろうか。時々陽一のことが分からなくなる。学校の運営の話なんて、一学生にはどうでもいいことでしかないはずなんだが。
まぁ、だからといってそのことを否定する気はないが、そんな単語を並べられても頭が痛くなるだけなので勘弁してほしいものだ。と思うのは仕方のないことだろう。
「そうだよね。まぁ、一番関係あるのは軍閥関係の委員会かな。警備隊とか、風紀委員もここに入るのかな。とりあえず生徒を取り締まるのに攻撃的な狂器を扱うことが許されている委員会のこと。これは僕らも関係あるんじゃないかな。」
「あー、確かにな。それじゃあ悪さは出来ないな。俺たちじゃ太刀打ちできないからな。」
「そう言うこと。そう多くかかわってくることでもないだろうし、気にしなくても大丈夫だろうけどね。それにこっちの味方に引き込めれば、大きな力になってくれると思うよ。」
今更その話をされてもなという感じだ。今朝、もうやらかしてしまっているんだが。まぁ、多分大丈夫だろう。警備隊もそこまで暇じゃないだろう。今度からは気を付けないとな。
「味方にできればな。まぁ、とりあえず今は学校になれるところからか。」
「そうだね。」
「席についてー。今日はこれで終わりだからー、この話が終わったら下校になりますー。くれぐれもケガがないように気を付けてくださいねー。皆さんの身を守るのは皆さん自身なんですからー。」
案外、厳しいことを言う。自分の身は自分で守る。それは正しいことなのだが、相手がどんな狂器を持っているか分からないと対処も難しいだろうに。まぁ、学校からしてもすべてを対応することなど出来ないのだろうが。
「それと下校の前に皆さんに一つ決めてもらいたいことがありますー。それが終わったら帰れるのでー、早く帰りたい場合は早く決めることをお勧めしますー。ではー、決めてほしいのは学級委員を男女一名ずつですー。では立候補、推薦どちらでも構わないのでー、挙手お願いしますー。」
「はい。私がやります。」
「陽田英二君ですねー。他にはいませんかー?」
「はい。」
「夕陽沙耶さんですかー。この二人で決定でいいですかー。」
この二人がいると話が早くて助かるな。この二人がいないと話がグダグダになって時間が過ぎるばかり、なんてこともよくあることだから。中学からは二人が立候補してくれるおかげで時間がかからなくて助かる。
「皆さん良さそうなのでー、二人で決定ということになりますー。では今日一日お疲れ様でしたー。明日からは学級委員のお二人に挨拶とかは任せたいと思うのでー、二人はよろしくお願いしますねー。ではー、解散。さようならー。」
「なぁ、陽一。ふと思ったんだが佐伯先生の狂器って何なんだろうな。」
「占う?」
「二人ともダメですよ。基本的に人の能力を暴くことは禁止されていますから。」
英二ならそう言うと思った。やはり英二は真面目だな。その真面目さが命取りにならなければいいが。時には道理や他人への配慮など忘れて、自分のため。それだけで行動してみればいいのにな。
「英二はそういうけどさ、知らなければ対処のしようがないだろ。」
「まぁその通りなのですが、だからと言ってですね。」
「陽一、めっ、だよ。」
めっ、とか言って陽一に片目を瞑りながら、人差し指を突き指すのはその彼女の陽菜だ。って言うか、そんな仕草を現実でする奴なんていたんだな。びっくりする。驚きすぎて、説明口調になってしまったぐらいだ。
また、なんか変な漫画か何かに影響されたんだろうな。
「陽菜が言うなら。朝陽にはごめんだけど占いは中止だね。」
「ま、危険じゃないならいいさ。本当に危険なら陽菜が止めないだろうからな。」
「任せといてー。そういう嗅覚は他より鋭いからさー。」
「流石陽菜。天才。」
「えへへー。沙耶―。」
そう言って陽菜は沙耶に引っ付いた。見慣れた光景だがこれに陽一はどう思っているんだろうな。ま、どうも思わんか。毎回のことだしそれに女同士だしな。陽菜も陽菜で、陽一に下手惚れだろうし。
「なんなんでしょうね。この差は。」
「ま、英二気にするな。彼女の言葉と親友の言葉だとどっちが重いかっていう話さ。」
「そうですけどね。釈然としません。」
そんな風に言って肩を落とす英二の姿はなんとも哀愁が漂っており、正直な話笑えて来るのだからやめてほしいものだ。陽一に振られたわけでもあるまいし。真面目な顔して肩を落としてると、くくく。おもろ。
おもろいけど、このままじゃ可哀そうだからな。話を変えてやるか。久しぶりに俺もどっか皆で、飯でも食いに行きたいからな。
「今日、昼飯どっか寄っていくか?」
「僕は大丈夫だけど。」
「私もー。」
「陽菜も行くなら、行く。」
「私も、大丈夫です。」
「久しぶりの五人だね。」
「うん。陽一とはよく行くけど、五人は中々ないもんねー。」
「ああ。で、どこへ行く?」
「ファミレスでいいんじゃない?」
「私はパスタが食べたい気分。」
「私は何でもいいです。」
「なら、ファミレスに行くか。」
こうやって何か五人で食べに行くというのも久しぶりだが、これからはクラスが同じだし、何かと同じところに行く機会もあるだろう。今年は本当についているな。良い一年になると確信できる。
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