009 番外・昨日、死んだはずの僕へ。
これは走馬灯だろうか。
かつてに記憶たちが僕の頭に奥から掘り起こされる。
ゆらゆらと小雪が降っている朝のこと。僕は君と語らい、君に美しさに見惚れていた。
「雪に女神のようだ。」
「ふふふ、急にどうしたの?」
彼女は僕の言葉に含み笑いをもらすと、口元に手を覆う。隠しきれない口元は確かに緩んでいて、彼女のこの状況を楽しんでいるようだ。
それが僕にとっては何よりも嬉しくて、僕に彼女に釣られるように、笑みを浮かべてしまっていた。
「ぼ、僕と付き合ってください。」
どうしてか、僕は彼女の顔を思い出せない。この時の彼女はどんな顔をしていたっけ。
普段は燦々と光輝く太陽のような、そんな彼女の笑みが今では黒い影に包まれるように、僕に彼女の輪郭を捉えさせない。
真夏の太陽に日差しが、皮肉のように僕たちを照らしていて、小さな手で太陽に光を懸命に遮っていた。
「ねぇ、○○くんは、どうしてこんなに良くしてくれるの?」
日差しに照らされた彼女の顔はやっぱり分からない。それに彼女は誰を読んでいるのだろう。
音は聞こえるのに、それを認識できない。自分の感覚を弄られているような不快感。
小さな手を僕は懸命に伸ばしても、彼女の心は秋空のように捕まえられず、手は宙を掻き切ってしまう。
「待って……誰だっけ?」
肌寒くなってくるこの時期に、僕はコートに包まれている。でも、そんなコートでもなぜか凍えるような空気が僕の全身を覆っている。
寒い寒い寒い。でも、寒くない。
寒いと感じる心とは裏腹に僕の身体は寒さも、熱の感じない。
でも、僕は彼女という確かな熱を追っていたはず。
「待って……」
「○○。」
「どこに行くんだい?」
そう問いかけた僕の疑問に彼女は答えない。
ただ、寂しげに笑って、僕の前からその姿をかき消した。後に残ったのは桜の花びら一つ。
さーと穏やかな風が流れ、僕の周りに桜の花々が舞い上がる。踊るようにぶつかり合い、離れ合う花々はどれほど見ていても飽きないけれど、それでも僕は彼女を求めていた。
「どこどこ。」
彼女に姿が見当たらない。何も感じない。冷たい太陽の光、温度のない風。
全てが僕という存在を突き放しているようでふと僕は視線を下げる。
「どういう……!!」
しわくちゃにしわがれた皮膚は僕のものとは思えない。でも、意識は確かに僕のものだ。
ふとあたりを見渡すと、知っているのに、知らない景色が散りばめられている。
スーパーがあった場所にはただ大きな駐車場が。畑があったところはコンビニが。無常な時に流れを表しているようで、これが現実ではないかと、僕は恐怖する。
「あぁ、誰?誰なんだ?君は誰なんだ?」
名前も知らない彼女を追い求めて、僕は街を歩き回る。
ふらりと身体が揺れて、地面に倒れる。道ゆく人は誰も僕を助けてくれない。
一人立ち上がる。もう通行人は僕のことをかけらも見ていない。
「お爺ちゃん。」
え?どうしてだろう。この声は知っている。
「また、いなくなっちゃたの?」
「お、おお、君は……?」
でも知らない顔だ。名前も知らない。普通な顔をする少女は見覚えがあるはずなのに、でも僕は何も覚えていない。
そう、彼女のことだって。
「うっううう。」
頭がひび割れそうだ。何も考えられなくなる。何も分からなくなる。
けれど、彼女のことだけはどうしてか忘れたくないと思う。でも、忘れてしまっている。
「あっ、っく。」
分からない。分からない。だけど、僕はこの時死んだのだ。彼女のことを覚えていない僕は、僕ではないのだから。
そして、そんな日々を僕はずっと続けている。
昨日、死んだはずの僕へ。僕は何度死ねば彼女を思い出すのだろう。どれだけ回想すれば彼女の輪郭を見出せるのだろう。
それだけの時間を使えば、僕たちは再開できるのだろう。
明日、死ぬはずの僕へ。僕はまた死に損ないました。彼女に会うことは叶いませんでした。きっと明日は叶いますように。
僕が死ぬその時まで。祈り続けよう。
お題:『昨日、死んだはずの僕へ。』
【必須条件(制約)】
1. 時間軸の融解: 冒頭、中盤、結末で「季節」または「主人公の年齢」がバラバラに矛盾していること。(なのに、なぜか話がつながっているように見せること)
2. 五感の裏切り: 「熱い氷」や「甘い悲鳴」のように、感覚が反転した描写を1つ以上入れること。
3. 最低限のマナー: 最後に、物理法則や倫理を超越した**「納得感のあるオチ」**で着地させること。
即興、30分ジャスト。結局微妙な展開になっちまった。途中も探り探りだし、スマホで書いた(言い訳)からなぁ。
文字数も少な過ぎ。やー、悔しいですねぇ。




