ぼくの ふしぎな なつやすみ
夏休みの ちょうど まんなかごろ。
ぼくは いなかの おばあちゃんのうちへ あそびにきた。
おばあちゃんのうちの ちかくには ぞうき林があって、
ぼくは 虫とりをして あそんでいた。
木のみき 目がけて 虫とりあみを えいやって ふったら
大きなせみを つかまえた!
ジー、ジー。
あみの中で ふるえてる。
ジー、ジー、ぶるぶる、ぶるぶる。
ぼくは そっと せみを 虫かごに いれた。
つかまえた せみを おばあちゃんに 見てもらいたくて
ぼくは ぞうき林を出て 田んぼの道を
ずんずん あるいていった。
てくてく、てくてく。
とてとて、とてとて。
てくてく、てくてく。
とてとて、とてとて。
あれれ?
ぼくの 足音のほかに もうひとつ 足音がきこえるぞ。
くるり!
「わぁっ!」
ふりかえってみると ぼくと おんなじくらいの おとこの子が びっくりぎょうてんしていた。
「わぁっ!」
ぼくも びっくりぎょうてん。
「きみは だれ?」
ぼくが たずねると おとこの子は しつもんを むしして いった。
「やい、おまえ。さっき せみを つかまえただろ。
どうするつもりだい?」
ぼくは こたえた。
「おばあちゃんに 見せるんだ」
おとこの子は いった。
「しってるかい? そのせみは いっしゅうかんしか 生きられないんだ。
今すぐ にがしてやれよ」
ぼくは すこしかんがえてから いった。
「おばあちゃんに 見せたあとで にがすよ」
おとこの子は ほそい目を つりあげて ぼくをじっと見た。
ぼくも おとこの子を じっと見た。
おとこの子は はだしだった。
かみは ぼさぼさで ぴょこんと はねてる。
すっぱそうな 夏みかんの色の シャツに ぞうき林の 木のはっぱみたいな きみどり色の ずぼんは どろんこだらけ。
オレンジ色のリュックサックは、ずいぶん ふるくさかった。
おとこの子は いじわるそうに いった。
「しんじられるもんか。にがさないで ずっとかごの中に とじこめておく つもりだろ」
ぼくは ぶんぶんと 首をよこにふって いった。
「そんなこと ないよ。じゃあ、きみもいっしょに おいでよ。おばあちゃんに 見せたら ほんとうに にがすんだから」
おとこの子は あたまをひねって いった。
「なんだって。うーん。よし、わかった! いっしょに 行ってやる」
ぼくとおとこの子は おばあちゃんの家に もどってきた。
おばあちゃんが でむかえてくれる。
「おかえりなさい。あらあら、おともだちもいっしょなのね。さあ、いらっしゃい。アイスを あげようね」
おばあちゃんは ぼくが せみを 見せるまえに 台所へ行ってしまった。
ぼくと おとこの子が えんがわで まっていると、おばあちゃんは むぎちゃと アイスを もってきてくれた。
アイスをもらった おとこの子は 手にもった レモンあじのアイスを じっと見て たずねた。
「これ、くいものなのか?」
ぼくは びっくりして ききかえした。
「アイスを たべたことがないの? つめたくて おいしいよ」
おとこの子は おそるおそる アイスを かじった。
「なんだこれ、キーンってする! あまい!」
それからおとこの子は がぶりがぶりと あっというまに アイスをたべてしまった。
「おいしいね」といいながら、ぼくも アイスをたべた。
あれれ?
アイスのぼうを なめている おとこの子の おしりから なにか 生えているぞ。
ふさふさの きいろい しっぽだ!
ぼくは おどろいて おばあちゃんに (見て!)といおうとしたけど、おばあちゃんは すかさず ぼくの口を 手で おおった。
おばあちゃんは やさしく ウインクした。
まるで(今 見たものは ないしょよ)といっているみたいだった。
それで ぼくは だまっていた。
ぼくは アイスを たべおわると、おばあちゃんに つかまえたせみを 見せた。
ぶるぶる、ぶるぶる。
せみは また ふるえてる。
おばあちゃんは にっこりわらうと ぼくのあたまをなでて いった。
「りっぱな せみを つかまえたねぇ。このせみは もしかしたら 死んだおじいちゃんが 生まれかわったのかもしれないね」
ぼくは びっくりして いった。
「おじいちゃんが?」
おばあちゃんは やさしいこえで いった。
「おぼん休みには 死んだひとの たましいが 虫になって かえってくるんだよ」
「ふぅん」
ぼくは かごの中のせみを じっと見た。
ほんとうに おじいちゃんが このせみなの?
となりのおとこの子も せみを見てた。
ぼくは こっくりうなずいてみせると 虫かごの ふたをあけた。
せみは またぶるぶる ふるえると 羽をならして 空へ とんでいった。
ぼくたちは せみが見えなくなるまで ずっと空を見ていた。
おとこの子は くるりとふりかえって「アイス、うまかったよ」というと、ぼくの手に たくさんのお金を にぎらせた。
ぼくは こまった声をあげた。
「こんなに もらえないよ」
おとこの子も こまったかおをした。
「おかしいな。にんげんは おかねをもらうと よろこぶってきいたけど」
そういって おとこの子は リュックサックの中を がさごそと さぐると、お日さまみたいな 夏みかんを とりだした。
「それじゃあ、ばあちゃんと これをなかよく くってくれ」
そういって おとこの子は ぼくと おばあちゃんに いっこずつ 夏みかんを 手わたした。
「ありがとう」
ぼくが お礼をいうと、おとこの子は くるりと とんぼ返りをうった。
すると おとこの子のすがたは ゆらりときえて、子ぎつねに かわった。
そのまま いちもくさんに ぞうき林へと かけだしていったのを ぼくとおばあちゃんは 口をあんぐりとあけたまま 見おくった。
おやつのじかんになって おばあちゃんが 夏みかんを むいてくれた。
口の中が きゅーんとなるほど すっぱかった。
おばあちゃんは 口をすぼめて いった。
「おじいちゃんが ぞうき林でとってきた 夏みかんを おもいだすねぇ」
ぼくは おばあちゃんに たずねた。
「また あの子に あえるかな」
おばあちゃんは にこにこわらって いった。
「ええ、きっと あえるとも」
つぎに あの子にあえたら なにをしてあそぼうかな。
2022年6月4日制作。




