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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レベル100のこどおじが凄かった

作者: ヒロモト

「お母さん!遊びに行ってくるね!」


元気に家を飛び出したのはハジメ(36)。実家で母と二人暮らし一度も一人暮らしをしたことのない、いわゆる『こどおじ』である。


「あはははははは!!」


ハジメは首に双眼鏡をぶら下げ、今日も元気に野山を駆け回る。



「……しくったぁ」


OLの静(26)はつまずいて崖から転がり落ちて右足首を挫き、あちこちから出血していた。

運良く崖から突き出た岩場で止まる事が出来たが、この先は奈落の様な谷底。怪我もしているし角度もキツイので上に戻れそうもない。つまらない仕事に嫌な上司。最近では失恋も重なり気晴らしに来た山で事故に会い泣きそうになっている。


(登山コースって本当に外れちゃダメなんだなぁ。今さら後悔しても遅いけど……)


「うーっ!?さむっ!!」


強い風が吹き、暗くなってきた。携帯も壊れて繋がらない。痛くて動けない。お腹が減った。不安がどんどん大きくなってきた。


(もしかして私……死ぬ?)


登山する事は誰にも言っていないし、山中誰かとすれ違った覚えもない。


(誰かとすれ違ったとしても私がこんな状況になってるなんて誰も想像して……)


「やぁ!!」


「ひいっ!」


岩場から手が生えてきたと思ったら笑顔の男が現れた。


(この人。崖を登って来たの!?)


無線を取り出して誰かと会話している。


「あーあー。遭難者発見。場所はEー34。暗いし狭くてヘリは出せない?あー。じゃあいいよ。何とかする。うんうん」


「……どなたですか?」


「ただのこの山に詳しいこどおじだよ」


「こどおじ!?」


「お姉さん。登山コースで見かけたのに帰ってこないからさ。僕が通報した。よかったねー。ヘリ無しで助かりそうだよ。ヘリ代って数百万かかるからね!この岩場ね『あの世とこの世の間』って言われてる。上は登山コース。下は奈落。登山コースで事故った人は不思議とここに集まるんだよなぁ……」





つり橋効果の様なものか静はあっと言う間にハジメの事を好きになった。

治療を施してもらい、ベルトで固定されハジメに背負われて崖を登った。


「あの。重くないですか?」


「チョー!軽い!この間背負ったプロレスラーの人なんか100キロ越えてたんだもん!あははは!」



「あったかいー。おいしいー。しあわせー!」


「適当に材料入れて味噌で煮込んだだけだけとねー」


ハジメに案内された山小屋で食べたごった煮味噌汁の味を静は一生忘れないだろうと思った。



「何かあったら大声で呼んでいいからね!」


「あの!私は一緒でも構いませんよ?」


「そうはいかんよー」


女の子と一つ屋根の下はいけないとハジメは外でテントを張って寝た。


(なんて紳士的な人なんだろう!!)


その夜は悶々として中々寝れなかった。


(こどおじかぁ。彼の親はどんな人だろう?上手くやってけるかな?彼。サバイバル能力はあるから最悪、山で暮らすのも……結婚式は……)


「お疲れ様です!ハジメさん!」


「またねー!」


「あっ!待って!」


(あの人。ハジメっていうんだぁ)


翌日。静を救助隊に引き継ぐとハジメは走ってどこかへ行ってしまった。

何とか彼にまた会いたい。お礼をしたいとハジメに話しかけた救助隊員にハジメの事をしつこく聞くと渋々教えてくれた。




(ガイド兼。救助ボランティアですよ)


数日後。静はハジメに会いにまた山に来ていた。


(お父様はハジメさんが18の頃に山の事故で亡くなりました。一緒にいたお母様は助かりましたが一生歩けない体に……)


静の落ちた『あの世とこの世の間』。ハジメの父はあの世へ落ちて母は岩場に落ちたが歩けなくなった。静は自分が無事に助かった事は幸運だったんだなと思った。

事故以来ハジメは山の麓にある家で今日までずっと母親の介護をしながら救助活動をして来た。


(責任感じてるんですよ。自分がついていけば誰も死ななかったし怪我もしなかったって。ハジメさんはお母様の介護も救助ボランティアも自分への罰だと思ってるんです。一生やり続けるつもりですよ。僕たちは助かるけどもう自分を許してあげて欲しいですよ。お母様もそうしてほしいハズです)


隊員は『彼女とかいれば変わるのかなぁ』とボソリと言った。

彼女はいないのか!ならば自分がと今日の静は気合いが入っている。

大きく胸元の開いた服。大胆に脚を露出した短いスカート。ハジメの家が近づいてきた。


「お母さん!遊びに行ってくるね!」


「あっ!」


ハジメの甲高い声が聞こえた。ハジメはこちらに気がついたのか走って近づいてきた。

静の鼓動が速くなる。


「お姉さん登山!?その格好では無理だよー。やめた方がいい!絶対だよ!じゃあね!」


「……あの」


ハジメが自分を覚えてなさそうなのもおしゃれを否定されたのもショックだった。

ハジメは無線機を取り出して誰かと会話している。


「また事故?双子の所のA?また難しいところだね。うん。全力で走って15分かな」


自分に話しかけて来たときとは全く違う真面目な顔と低い声。

そのギャップに静はまたときめいてしまう。


「必ず助けるぞー!いくぞー!おー!」


走っていくハジメの背中を見ながら静は『絶対にこの人を振り向かせて見せる!』と心に誓ったのだった。













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