それはきっと必然
「見つから、ない!」
少し休憩をとるために目の前にあった程よい高さの石にどすんと腰をおろす。
懐中時計を見ると迷い森に入ってから約三時間。獣狩りの森も合わせると四時間ほど歩いただろうか。葉をかき分けて進まなければいけない場所はそれなりに避けてきたものの、先程これでもかと雨が降ったばかりである。ジメジメとした湿気の中、たまにあるぬかるみに足を取られながら場所の分からない目的地を進むのは中々に気力が削がれるものだ。更に悪いことに段々と紫色の霧が深くなってきた。かろうじて周囲の木々や地面はぼんやりと見えるものの、これ以上霧が出たらその場で野宿をする他ないだろう。
多めに持ってきていたロープはもう既につきてしまった。迷わないように目印をつけているため、取りあえずは前進しているのだろうと気を落ち着かせ持って来ていたパンと干し肉をほおばる。
「ふぁあ、よひょうはひてひたへへどふぉんふぁにいつからふぁいふぁんへ。」
情報によると、狩人は何日か迷っていたようだしやっぱり数日は歩く必要があるのかしら。
多めに食料を持って来ておいてよかったわ。最悪その辺にいる獣や食べられる植物でも狩ればいいでしょう。
パンをごくりと呑み込み、辺りを見渡す。
「それにしても前回迷い森に来た時、こんなだったかしら。」
以前迷い森に訪れた時はもう少し鬱蒼とした暗くて、木々の生い茂った場所であったはずなのだけれど。確かに今も霧は出ているけど、前は霧が出るまでもなく前後不覚になるような感覚があったのに。一度目と二度目では心構えが違うってやつ?
のんびりと食べつつ不思議に思っていると不意に静まり返った森の中で前方から荒い獣特有の息遣いと足音が聞こえる。
…まだ食料に余りはあるのだけれど、欲しい時に無かったら困るものね?
パンは左手に、右手でスカートを捲り太ももに忍ばせた隠しナイフを——。
しかし。そこから現れたのは獰猛な獣ではなく、
「ふゃ」
「あら、かわいい。」
思わずそう口に出してしまうほど小さく愛らしい生き物だった。