お屋敷を目指して
たまに顔の前まで生えた草々をかき分けながらお屋敷とやらを目指す。もちろん、通った道にある木の枝を目印としてマル印のように括りつけておくことも忘れない。
そもそもお屋敷なんてものがあったらいくらなんでも森の外から見えそうなものだけれど。
というか、お屋敷があったとして、いつの間に建てたのかしら?兄様たちは何もおっしゃっていらっしゃらなかったわよね。建築工事をする人や、資材の運搬も見られなかったわ。
ということは最近ではなく、もっと昔に建てられていて、その女性は最近になってやってきたということ?
いいえ、それはどうかしら。クトールには関所や見張り台はないけれど見慣れない人が来たら…それに美しい人なら絶対に噂になっているはず。それこそ町娘たちやおばさま方の話のタネね。クトールからでなければ反対側からということになるけれど…。
迷い森は地図上ではクトールの西、獣狩りの森の奥にある。だが、獣狩りの森を除いた周囲には木も生えないほど険しいモルテン山があるため更に西にあるハムリットからも侵入は厳しいだろう。
となると一番有力なのはヴヴという狩人が見た幻覚、ということになるのだが。
「そんなのつまらないもの。ええ、面白いものは信じたい。素敵なものも信じたい。信じるからこそ奇事はあって、望まなければなくなってしまうわ。」