迷い森
広場を抜け、森の入り口へ向かう。迷い森はクトールの西、獣狩りの森のそのまた奥。
「つぼみを彼に、ゆるしの薔薇を…」
歌を口ずさみながら獣狩りの森を進む。森の中には木漏れ日が差し込み、辺りを明るく照らしている。
「つぼみは薔薇に、快哉の拍手を…」
鳥の鳴く音やどこからか流れている水の音は動物たちが豊富に生息している証だろう。非常食にもなる木の実を一応採取しながら歩いて、ロープを貼られた看板に気づいて立ち止まる。
“この先、迷い森。用心を。”
看板の向こう側には先程までいた獣狩りの森とは違う雰囲気が漂っていた。草木はいっそう濃くなり日光が入り込まないほど生い茂ってはいるものの、決して真っ暗というわけでは無い。
所々に生えているぼんやりと光るキノコや苔のおかげだろうか、ほの暗い夜のようだ。この場所から見える迷い森は一度入ると抜け出せないという恐怖よりもむしろ神秘性を帯びているように感じられた。
「いけない、いけない。気を引き締めなきゃ。」
背負っていた袋からマッチとロープを取り出す。ロープをいくつか繋げて一本にし、自分の腰と木の幹に括り付けておく。念のためにロープには自分がつけていた淡いピンクの石がはめ込まれた髪飾りを挿した。髪飾りの土台となっている金属にはランバルト家の印が刻まれている。
きっと誰かが見つけても悪いようにはしないでしょう。
それからランプに火をつけ、背中程まである髪をリボンで一つに束ねる。
「これでよし!」