ショートストーリー1空中空母みずま
ショートストーリー1空中空母みずま
スクリーンでは、滑らかにアニメーションがクライマックスを迎えていた。
隣で出口久英が、腕をくみ眉間に皺を寄せている。
ウッ ウゥ~ン
ため息のようなうめき声を漏らす。
ラストシーンが終わり、感嘆の声が上がる。エンドロールが終わり、照明で試写室が明るくなる。嵐のような拍手の中、出口は立ち上がると一礼して去った。
鐘森月鹿は振り返る事なく立ち上がって代理のお礼を言う。
「ありがとうございます。皆さんの尽力により素晴らしい作品になりました。出口監督も迷いに迷いながら、最終決断をされました。いまだ腑に落ちない部分も有るようですが、結果的に納得して頂けるものと思っています」
関係者が次々と挨拶に来る。ほとんどが、高い評価を口にする。
試写会に来た関係者が去り、鐘森はロビーに出た。出口監督が灰皿に吸殻を積み上げている。
「反応は良かった。…何か有りましたか?」
「りゅうさんが。鐘さんが切ったのかって言われましたよ」
「なんて言ったんです?」
「プロデューサーには切る作業なんかできませんよと」
「そうですか」
「上手く切れてた。これは入るねと言われました。大事なとこ切ると入るってのは…出口セツナイなぁと」
鐘森は出口を見た。涙の跡の先に光る滴が見えた。
出口と居酒屋で飲んで帰ると午前1時になっていた。
金にならないアニメを金にしていたら、2億円の豪邸が建った。自宅と言うより、接待や人脈作りのホームパーティー用のスペースがほとんどだ。
鐘森はアニメーションの現場の仕事をした事はない。株式の個人トレーダーだった。いつか限界が来るトレーダーに見切りをつけて、夢を現実にしようと模索した。
夢は。10年前、出口久英と皆川隆がテレビ用に制作した¨空中空母みずま¨の空母みずまを原寸大で再現する事だ。細かな設定が必要だったが、ほとんど資料が無い。
そこで二人を探すと、倒産しかかった制作会社イグジットリバーで子供用玩具のCMを作っていた。原寸大再現より、二人を貧困から救う事を優先した。トレーダー時代の市場分析力が物を言い制作アニメは当たりに当たりまくり、イグジットリバーは株式を上場した。
鐘森は背広にネクタイのまま、ソファーに沈みホームシアターのプロジェクターを起動する。
¨空中空母みずま¨が始まる。主題歌の流れる場面。異様に細かい空母みずまの断面図の中で、クルーが動き、戦闘機が動き、推進機関が動く。皆川隆は元造船技師で、飛ぶ以外は現実に建造可能と噂された。
作品自体は、船内生活が丹念に描かれ過ぎた。戦闘シーンはおまけ程度だった為、視聴率は低迷し、連動した玩具メーカーは在庫を抱えたまま倒産。57話は40話で打ち切られた。
もし、鐘森が当時プロデューサーなら視聴率を40%代に乗せる事ができただろう。
「これを切り刻んだら。俺は夢を見なかっただろうな…」
これは出口と皆川の夢なのだ。にも関わらず、自分は今、二人の夢を切り刻んでいるのだ。
「みずまを建造したいなんて…言える訳が無い」
鐘森はリモコンの隣に茶封筒が有る事に気付いた。
鐘森少年へ。
と書いてある。ひっくり返すと
出口久英
皆川隆より
と有る。
封筒を開けると、USBメモリーが出てきた。他に何も無い。
鐘森はマックのノートパソコンを持って来て、USBを開いた。
「これは…」
鐘森は肩を震わせて嗚咽した。
空中空母みずま建造計画書に数字が並んでいる。三菱重工みずまプロジェクトと表記されている設計図がモニターに展開する。外観内装艤装デザイン出口久英と皆川隆。
完成予想図には。鐘森を真ん中に、左右から出口と皆川が肩を組んで笑っている3人が…前部甲板に立っているイラストが描かれていた。
ショートストーリー1空中空母みずま
2021年6月25日
武上 渓




