【超短編】納棺師の活動記録のその一つ
一節
主人公:端木真銀 性別:男 年齢30 職業:納棺師 趣味:釣り
深夜零時、飲食店等はほとんどは閉まっている。空いているのはバーや酒場、卑猥な店。聞こえるのは飲んだくれどものうるさい声、客引きの声、阿呆どもの世迷い言。
俺はいつものバーへ足を運び席に着いた。店内にはほとんど人はいない。
「店長、ブランデーをストレートで一杯」
「かしこまりました」
いつものようにブランデーを一杯頼んだ。一杯目はいつもストレートで飲んでいる。
「俺の話を聞いてくれないか?」
「いいですよ」
俺はここの常連であり、趣味や愚痴を話しているうちに店長と仲がよくなり、たまに休日に趣味の魚釣りをしに行く。
「今日死化粧をやっている最中の出来事だ。遺体は25歳女性だった。死因は薬による自殺。俺はいつものように含み綿で表情を整えていたとき、道具箱の一番上に入っていたファンデーションが不自然に落ちた。側面は体が当たってもファンデーションが落ちない高さでありながら落ちていた。職業柄ポルターガイストなんて何度も経験してきた。だからきにはしなかった。そのまま続きをやっていたら、いきなり道具箱が倒れた。そして倒れた道具箱を建て直してみると、側面に手形があった。俺の手の大きさではない。もう少し小さい。遺体の手と見比べてみると、ほとんど一緒だった。」
「じゃぁその女の人の幽霊の仕業なんですか?」
俺は首を横に振りブランデーを飲んだ。
「ほとんど一緒だが、道具箱の側面の手形はますかけだったが遺体の手のひらをよく見るとますかけではなかった。これまでいくつもポルターガイストを体験してきたが、遺体と別人の霊が居るという事態は今まで体験したことがなかった。おかしいと思い部屋を見渡してみると、部屋の角のカーテンが妙に浮き上がっている。俺はポケットの中にあらかじめ居れてあった清めの塩とお守りを握った。しばらくして声が聞こえたが、なんといっているのかが聞き取れない。そこからまたしばらくたって幽霊が居たカーテンの膨らみは消えた。落ち着いたのもつかの間、ふと後ろに気配を感じ振り向くと、青白い肌をした長い髪の女が立っていた。
寒気がした。体は金縛りにかかってしまった。その女はゆっくりとこちらへ、まるで濡れているかのような足音を立てながら近づいてくる。塩をふろうと思っても金縛りで体は言うことを聞かない。女は近づいてくる。そして俺との間隔が50cmほどになり女は止まった。女は俺の頬に手を宛名にかを呟いている。今度はなんといっているのかが聞き取れた。女は「違う違う違う違う違う…」と連呼し続けていた。しばらくたって体が動くようになり塩を女に思い切り振った。すると女は呻き声を出しながら去っていった。」
「結局その幽霊は誰だったんですか?」
「遺族の方に聞いてみると生前ストーカー被害にあっていたらしく、それが原因で自殺したらしい。ストーカーもそれを追うように死んだらしい。」
「ということは今回の女はそのストーカー?」
「たぶんな。ほんとつかれるよ、この仕事は。」
「ブランデー一杯おごりましょうか?」
「ありがとう。じゃぁ一杯貰おう。今度はオンザロックで。」