スキルレベル
この縮地とか言うスキルは使える、敵の目の前まで一瞬で移動できるし目の前で止まるから距離の調整も必要ない。
「うーん、ただ、強いけど他のスキルが使えなくなるって言うのはどうなんだろう」
「どうなるって?」
スキルが使えないと言われても、今はそんなに強いスキルを持っていない。
常に発揮されている常在スキルしか今のところ会得していないからだ。
「いや、例えば自身を強化するバフスキルを習得したとする、それを戦う直前に使って戦っている途中で効果が切れたら?」
「...掛け直すよね」
「ところが、縮地を使っている状態だと残念ながら使えないんだよ」
うわ、たしかにそれは辛そう、そう言う状況に実際なってないから何とも言えないけど...スキルが使えないと言うのは中々厄介なものらしい。
「それにクールタイムが300秒と言うことは五分間も再発動ができないからそれもネックになってくるよ」
「確かに、このスキルよく考えれば結構大変だね。使いこなせるのかなあ...」
使った瞬間は強いと思ったけど、使った後は中々辛い戦いを強いられそうだね。
「んー、私の方も新しいスキル覚えたみたい。何々...おお」
スキルランクUP
初級魔法(火)(rank2)
スキル獲得
精神統一:一定時間MPの消費を微軽減、スキルの魔法の威力を微補正(MP消費−7%、スキル威力+10%、効果時間40秒、再使用まで70秒消費MP0)
「え、強くない?なにこれ」
「本当だ、いいなー」
いいなーとは言ったものの、私がこれ習得しても全く使い所がない。
「効果量は少なめだけどデメリット無しで火力の底上げの使いやすさはいい。再使用も実質30秒だし」
「そっか、効果が40秒で再使用が70秒だから30秒経てばまた効果が使えるんだ」
何かと今後役に立ちそうな過労死枠のスキルだ、というか魔法系プレイヤー全般には必須っぽいスキルだ。
安全にスキルなんかの確認のために街に戻ると、ハルは空中にウィンドウを表示してなにやら操作している。
「どうしたの?」
「スキルパレットって言ってポイント使ってスキルを習得できるみたい」
「スキルパレット?」
なにやら聞きなれない単語が出てきて頭に疑問符が浮かぶ。
「このゲームってレベルを上げるとステータスが上がるけど、それと同時にスキルポイントが付加されてそれを消費するとスキルが色々と獲得できるみたい。まあ、条件を満たすと手に入るスキルとは色々違うかな」
「へえ、そうなんだ。ちょっと私も見てみよ」
メニューを開いて、プレイヤープロフィールからスキル画面を開けばいいらしいからその通りに操作すると、扇状にスキル習得アイコンが枝分かれして無数に表示された。
「多いね、ちょっとびっくりしちゃったよ」
「でしょ?私もそう思った」
このゲームのレベル上限がどれくらいかはわからないけど、これはコンプリートは無理だね、慎重に選ばないと後悔しそうだ。
「とりあえず私は《魔力解放》と《魔導障壁》を取っといたよ。火力と防御の底上げとして」
魔力解放:魔力を解放して一時的にMP容量を二倍にし、MPを100%回復する。代償として、効果時間が切れた後MPが残りの80%消失する(効果時間60秒、再使用まで400秒)
魔導障壁:MPを消費して、消費した量に依存した防御壁を自身の周りに展開する。対象を自身以外にする場合は消費MP二倍(消費MP10%〜70%)
「魔力解放ってスキルは使い道間違えると相当辛そう」
「うん、強いボスとかであと一押しのところでダメ押しとして使うのがベターかな?って掲示板とかに書いてあったよ」
「掲示板?」
そんなもの見たことない、ネットでそんなものがあるのかな。
「いやいや、ゲーム内の情報共有用の全プレイヤーが閲覧できるやつだね。私たちも書き込んだりできるし、初心者用のブログとか乗っけてる人もいたね」
「へー、そうなんだ。戦いに行く前に見ておけばよかったかも」
多分、ハルは私がこのゲームを始める前にその掲示板とやらを見ていたんだと思う。
そこに色々と情報を優しいプレイヤーたちが書き込んでるんだろうね。
「まあ運営が攻略情報を全て秘匿してるから、文句言う人も多いけどプレイヤー同士のそういう情報交換とか探検がこのゲームの醍醐味なんだよね」
「あはは...それは確かに文句言う人もおおそうだね。運営方針としてコンテンツが深い方が面白いってことなのかな」
攻略情報を全て調べながらやれば多分強くなれるだろうけど、ゲームとしては多分面白さに欠けると思う。
そんな手探りの中でこうしてプレイヤーたちが頑張って情報を集めているのを見たりするだけでモチベーションにも大分繋がってくる。
「えっと、ということはもしかして...このゲームにあるスキルとか全容まだ誰も把握できてない...?」
「そうなるかな、例えばユキの持ってる疾風迅雷ってスキルは他に持ってる人いるかも分からないし、もしかしたらユキだけが持ってるスキルの可能性もあるよ」
「すごい今までにないようなゲームだよね。人によってプレイスタイルが文字通り全然違うもん」
「まあ思考を読み取ってステータスを構成してるっぽいから性格とかにあった戦い方が出来るって思ったよりも好評っぽいね。ただ、不公平だの言ってるプレイヤーもいないことはないからそこは賛否両論あるよね」
「だねー、ゲームの内容はともかくそこについてはちょっとびっくりしたよ」
いきなりステータス自動構築なんて普通の思考じゃできないし、初期ステータスにしては中々歪だ。
私のAGIなんてもうスキル込みの実数値200て、頭がおかしいとしか言えない。
「それに、魔力解放やそっちの縮地も普通序盤で取れるような効果してないんだよね。スキルボードの分岐点の最初の方にあったし」
「やっぱりそうだよね。かなり偏った効果で絶対初心者に持たせちゃダメな効果してるよ」
ん?そういえば...。
「縮地とかって習得方法どんなんだろ、いきなり表示されただけで見れてなかった」
「あー、それはスキル詳細に書いてあると思うよ」
「わかった、見てみる」
メニューからステータスを選択して一覧が表示される。
そこから縮地をタッチして詳細が映った。
「なになに...AGI150以上で刀を使ってモンスターを20体討伐と、所持物を10以下であること。なんで?」
「んーどれどれ、えなんかへんてこな条件書いてある」
討伐数とか速度的な問題はさておき、所持物制限についてはなんでなんだろう。
どこぞのワ◯ップじゃないんだからそんなの誰も気づかないよ。
「所持物制限については現実再現なんじゃない?」
「現実再現?」
「そう、普通持ち物たくさん持った状態でそんな技術使えないよ。だからこそその条件を付けたってことなんじゃない?」
それは一理あるかもしれない、けどそこまで現実に忠実な条件作っても多分誰も気づかないで持ち物たくさん持ってプレイしてる人の方が多いでしょ。
私が取得できたのって、持ち物を持つ前の完全な初心者でしかも初期からAGI数値が異常だったからであって、これは所謂偶然ってやつである。
と思っていると、ハルがメニューからコミュニティ画面の掲示板を表示してなにやら覗き込んでいた。
「どうしたの?」
「えっとね、縮地を獲得している人がほかにいるか調べてるの。まあ掲示板に載せてる場合に限るけど」
「見つかった?見せて」
「んー、ユキの他に獲得した人はいるっぽいけど、どうもあんまり強いスキルとは誰も書いてないっぽいね。ユキみたいに極端な速度特化ステータスじゃなければ一瞬で敵に近づくなんて芸当縮地を使っても厳しいみたい」
「そっか...うーん難しいね」
私でもこのスキルをどう運用すればいいのかいまいちよくわかっていない。
このスキルのデメリットを考えるなら戦闘中に使うのは絶対自滅行為だし...決め手としても攻撃が上がるわけでもないよね。
掲示板で何か面白い使い方があればそれを参考にさせてもらおうと思ったけど、現実そうもいかないよね。
「そういえばユキは、スキルボードからスキル獲得しないの?見てただけで何も習得してなかったし」
「うーん、あとでじっくりみよっかな?あとでお昼ご飯食べてランニングちょっとやって課題もまだ残ってるのあるからそれも進めておかないと」
「うん、わかった。私夏休みのはほとんど終わってるし部活もないんだよね。暇だから色々情報集めておくよ。オススメのスキルとか掲示板漁れば何かしら見つけられるかもしれないから」
「え?本当?ありがとう」
ハルはゲームに詳しいし、昔から色々と勧められることが多かっただけに、ゲームに関しての知識は全部ハルにお任せなんだよね、ちょっと悲しいことに。
ふとゲーム内の時計をみると十時過ぎあたり、あと少しでお昼時のようだ。
「あとちょっとだけフィールド行こっか」
「うん、それなら昨日と一緒でいい?」
というわけで、昨日と同じくマントル域にモンスター狩りをしに行った。
他のプレイヤーも度々見かけるが、他のエリアに分散しているせいかそんなに人口密度は高くない。
モンスターもそこまで強くなく、もらえる経験値の基準はわからないけど快適にプレイできてるので満足。
「やっぱりこの速さには慣れないなー、うーんどうしよっかな」
ちょっとカッコつけて抜刀術モドキみたいなことやってはみたけどまーこれが中々難しいんだよね。
アニメや漫画でお馴染みの切り捨て御免!みたいなの想像しながらやってはみたけど、距離感間違えると刀当たらないし、当たっても綺麗に切れないとダメージもしっかり入らない。
この辺のモンスターのサイズが小さめなのも相まってさらに当てにくいことこの上ない。
現状多分殴ったほうが早いと思うんだけど、女の子が殴るってどうよ?正直第三者視点で見たらちょっと引くね...。
グローブやらガントレット的な武器を使う女子なら別に抵抗はないけど、刀持った女の子が刀捨てていきなり殴りかかってくる絵面想像するだけで中々酷い。
「...そろそろ十二時前だからそろそろお昼ご飯食べなきゃ。ハル、先ログアウトするね」
「うん、それなら私も少し落ちる。それじゃあまた後でね」
一旦ハルと一緒にログアウトして景色が暗転、感覚がリアルに戻りいつもの部屋に私はいた。
「んー!ちょっと肩とか首が痛い。横になってこんなヘルメットみたいなの被ってたからかなー?」
伸びをしてスマホを机から取ってネットを開いて色々とサイトを見た。
「やっぱり公式情報はパッケージに書いてるものだけ...ネット民の情報共有とかはいっぱいあるんだけどなー」
公式HPでは担当者の名前とか、開発会社の情報ばっかりでゲーム内容に関してはほとんど記載されてない。
「ん?これは...」
開発会社の説明文では、攻略のヒントになるようなものはなかったが、少しきになる文章があった。
「我々は自立思考無際限連結AIの実用化に成功、これによりプログラムやAIの連結を多量に行いシステムの向上をより精密に、かつ多岐にわたるツールやコンテンツを効率よく搭載させることが出来る...えぇ...」
なんだこのわけのわからん文章は、これ絶対ゲームのHPに載せるものじゃないでしょ。
「ええと、自立思考無際限連結AIっと。何々?プログラムやデータを持ったAIを基盤のAIに後付けで挿入することにより情報の拡張や複数のAIによる連携でシステムを稼働させる。それに類似した既存のシステムをさらに改良してAIによるデータの吟味やシステムの自動添削など、限りなく”人間性”を再現することも可能。それらは約数兆に渡る微細なシステムプログラムをインプットして作り出した」
ネットでワード検索にかけるとなんかすごいことが書いてある気もするが、これがゲームの中にある重要なシステムで色々機能があるぞーってことくらいしかわかんない。
色々調べてみたい気もするが、これ以上踏み込んでも混乱するだけだろうから専門的なことは勉強してないのでさっさと忘れることにしよう。
その後、お母さんが作り置きしてくれていたお昼ご飯のパスタを冷めてるからチンして食べたのち、運動不足にならないようランニング、帰ってシャワーを浴びて部屋に戻ってきた。
さーて、もう一回ログインしよっかな」
そして私はゲームの世界にまた入っていく。
相変わらず薄暗い中、様々な建物が立ち並びプレイヤーやNPCが行き交う独創的な世界にやってきた。
「ハルは今はいないかな...今のうちにスキルの確認しておこうかな」
メニューからスキルパレットを開き、色々と確認をしていく。
メニューのヘルプから色々用語の検索ができるみたいなのでそちらも活用して数十分かけてスキルパレットについて理解を深める。
まずスキルポイントはレベルが1上がる度に3ずつ増えていって、敵を倒した場合にも低確率で上昇するらしい。
スキルポイントの上がる確率は強いモンスターほど上昇するので雑魚敵を倒したところで獲得はあまり期待できなさそうだった。
そして肝心のスキルの内容は、武技、強化、魔法、生産の基本の四種類と、その他に分類されるスキル系統がある。
それぞれプレイヤーは好みのスキルを選んで取得していくんだと思う。ちなみに私の刀術は強化系統のスキル群に探したらあったから初期にもらえたスキルとはいってもあんまし意味はないっぽい。
「んー、とりあえず汎用性の高いスキル選んで取っとこうかな。地雷スキル踏みたくないし」
と言うわけで数分程度吟味した結果、以下のスキルを取得した。
一閃:発動すると特殊アクションに移行し、高威力の斬撃を放つ。標的が範囲外の場合失敗(再使用まで30秒)
奮起:一定時間の間STRを微補正、ステータスダウン効果を受けにくくなる(STR+7%、効果時間40秒、再使用まで180秒)
この二つのスキルは、掲示板を参考に初心者オススメのスキルを取った。
すごく強いわけでもないが、最初の方はデメリットの大きいスキルのケアが難しいし、無難なスキルの方が後の汎用性も考えて損はないとのことだった。(掲示板調べ)
とにかく、少しは順調になってきたなと思いつつもハルが来るのを広場のベンチに座って待っている。