夢狐と間違いだらけ
皆さんは、予知夢というものをご存知だろうか。
自分の先々、未来で起こることを夢の中で体験する、そういった夢を予知夢と言います。ここでは予知夢を見せる妖怪バクから使命を預かり、人間たちを更生させる1匹の狐の物語です。
─ゥサマ…ゴウ様…ゴウ様!!!…ゴウ様ぁあ!!!!
1匹の雌狐が大声で叫ぶと彼は起き上がった。
─ふぁー。おはようシオン…あと5分だけ…。
再び眠ろうとすると
ゴウ様、今日から初お勤めなのではないですか?
んー…ん?初お勤め…お勤め…!?
─シ、シ、シオン!!!今何時だ!
シオンが時計を確認すると12時を回りすっかりお昼時であった。
─まぁずぃぞぉおおおおおおお!シオン、例の衣装を!
そう、この雄狐、今日から夢狐として多くの人間を更正させるべく生まれてきた妖狐なのだ。そしてまさかの遅刻ギリギリの初仕事。どうなる事やら…
─シオン、それじゃあ行ってくる。今日は遅くならないはずだから晩飯は作っておいてくれ。
─分かりました、準備して待っていますね。ところでお風呂とご飯はどちらを先に致しましょうか…
─帰ってきてから決めるよ!
そう突っ込むと竹林の中にぽつんとある家から飛び出しものすごいスピードでかね抜けていった。
─今日は油揚げにチーズを入れて揚げようと思ってたのに…。(ボソッ)
夫婦仲は上手くいっていない様子だが…大丈夫か?
第1章【神社にエールを、ジンジャーエール】
─ここか。
ゴウが着いたのは古ぼけているものの存在感のあるこの寺院、今日からここで夢狐として務めるのだ。
ゴウの住むこの竹林、花月村の住民はみな4年間の夢狐の仕事を全うし、1人前になるのだ。人間で言う成人のようなものかもしれない。寺院の階段を上ると1匹の小狐が頭から湯気をあげながらこちらを見ている。
─す、すいません遅れてしまって!今日はよろしくお願いします。
そうすると小狐は
─いいえ!大丈夫です!ちょうどさっき準備が終わったところですので!
笑いながら言うが顔が妙に強ばっている
─あの、実はかなり待ってたんじゃ…
─大丈夫ですよ!1時間ほどです!1時間ほどです!
…これはかなりまずいな。人間の世界なら怒られてリストラされてるんじゃないのか。
─それではこちらへ…
中に入ると見た目からは想像もできないほど綺麗な中庭に青々した芝が広がっていた。その場所にポツンと小屋がある。あそこがゴウがこれから務める夢狐の仕事場、夢小屋である。
─今日は初めてのお仕事ということで1件にしていただきました。とりあえず今日で慣れていただいて、明日から通常業務となります。終了は22時頃になるかと。
─分かりました、4年間お世話になります。
─もし今日のようなことがあれば、あなたごと燃やしますが…
この笑顔である。狂気で満ち溢れている。相当怒っているのだろう。そのためには…
─初仕事こなしてみせます。見ていてください。修羅様。
─それではよろしくお願いします。術式は覚えていますよね。
─大丈夫です!風呂入りながら覚えたんで
─ん…風呂ですって。
─や、なんでもないです…。
深呼吸をして、集中した。
─難事を示せ、人ならざるもの、彼らの助け舟となり、その道を開く!開示!
こうしてゴウの夢狐の務めは今、始まったのだ。