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デッド・メモリーズ

 





 ーえっ?こんなほっとかれるもん?

いや、スマホ持ってんなら写真じゃなくて救急車呼んでくれよ。

人生最後の間際っぽいのにここでスターになってもしょーがねーんですよ。やかましいわ。

人間パニック通り越すと逆に頭が冷えるのか、はたまた俺はもう完全に幽体離脱しかかってるのか、身体中の穴という穴から血が出ていくのをぼんやり眺めながら、俺はあの世に想いを馳せた。

 ー天国にデカいタワ●コかTSU●AYAがありますように。

あと、どうせ死ぬなら27歳が良かった。




 俺の憂いは間もなく現実になった。

そこはタ●レコではなくデカい劇場の観覧席で、俺は両親やその他大勢に拍手されながらこの世に生を受けた。

おい、どうなってんだ、と叫ぶ声が尽く「おぎゃあ」という赤ん坊の鳴き声にしかならないので、ほほう、これがアレじゃな?噂に聞く転生というヤツじゃな?聡い俺は直感した。

いや、ワンチャン天国あると思ったが。その希望はすぐさま捨てた。

何せこの世界には、CDやレコードはおろか、歌すらまだまともになかったのだ。ジミもエルヴィスもいねえこの世界が天国なわけあるかボケ。いや、むしろあいつらはちゃんと天国行ったのか。良かったな。

 俺が一歳半ごろを過ぎて発した初めての言葉は、両親の友人であるという素人のオペラを見ての感想、「正気じゃねえ」の一言だった。

発声訓練すらまともに受けてねえおっさんの潰れたお経とかマジ正気じゃねえ。正気に謝れ。

その後もどこの文明のもんだかもわからん言語や旋律を口ずさむ俺を心配した両親が、俺を病院や祈祷師の元へ連行しその異質さを診察してもらおうとしたものの、下ったのは「人より耳がいいんじゃないですかねぇ」という診断だった。


「よくわからないけど、センはとってもすごい子なのね」

「よくわからんが、自慢の息子だ!」


陽気な両親にとってはそれで十分だったらしい。帰り際には、将来は宮廷詩人かしらねえなんて笑っていた。


 うん。宮廷詩人。

とかそういうレベルなのだ、この世界の音楽というものは。

一般人が耳にするのはせいぜいが町にくる流しの詩人や近所の聖歌隊のゴスペルで、うちの両親みたいに何かの記念日に大枚叩いてやっと劇場でクラシックなオペラを聴く。若者は夜の酒場でケルト音楽みたいので踊ってるのだ。いや、どれもジャンルとしては素晴らしいよ。

たださ。

俺もう体感で5000年くらいはそれしか聴いてないのよね。マジで。

どこ行ってもソレ。たまーにどっかの部族みてーな人が独特の楽器持って民族音楽やってるが、誰も見向きもしねぇ。

ギターもねえ。歪んだマンドリンみてーのはある。

ピアノもねえ。ピアノの全身みてーな…チェンバロ?あれはある。

マイクは、ない。

まだ誰も、マイクを持って人前で自分だけの音楽を披露してないのである。


「セン。あなたの歌声は素晴らしいけど…なんていうかその。自由すぎるのもどうかと思うわ」


とは、俺が五つの頃から通うようになった聖歌隊のレッスンで、シスターが漏らした言葉だ。まさかこの俺が先人たちのような言葉を投げかけられるなんて。

 俺はただ、俺が好きだったものを取り戻したいだけだった。もう五年も聴いていなかった。



 どうやらこの世界、一応ファンタジーらしく魔法が存在する。

といってもガッツリ生活に食い込んできてるようなもんじゃない。選ばれた人間だけが魔力を持っていて、そういう人たちが天気を占ったり特殊な薬を作ったり神様の声を聞いたりできる、程度のもんだ。

そして、音楽(うた)は、その儀式のうちのひとつだった。

娯楽じゃなく、五穀豊穣や家内安全を祈ったり、労働や医療の現場で人々に活力を与える。なんとも原始的な在り方だった。要はなんとなく攻撃力が上がるとか何となく毎秒HPが回復するとかいう非常にモヤッとした効果を持つのが音楽という魔法だったのだ。

つまるところ古い伝統を守り続けてナンボ。パーカッション楽器なんて戦時中の号令でしか見たことねえとかいうジイさんもいる。

これじゃいつまで経ってもロックなんか聴けねえわ。


「まあ、セン。またそんな難しい本読んで。お父さんに叱られないように、ちゃんと元あった場所に戻しておくのよ」


 十歳になった俺は、父の書斎で歴史書を読むのが趣味だった。俺は特に生前超優秀だったとかは無いので、片手に辞書は必須なのだが。とりあえず、それでこの世界に俺が求めるクールでバイブスの効いたベロシティがないことを理解した。てかまず音楽について書いてある本がねえし。

神様がもし居るならーなんて残酷なことをするんだ。

俺をこんな世界に放り出すなんて。

十年だぞ。もう十年縦乗りしてねーよ。家で音楽聴く手段すらねーんだぞ。気が狂いそう。もう狂ってんのか?

 俺はやや半ベソで、父の物である歪んだマンドリンの出来損ないを持ち出し、いつものように庭先に出た。

モジョン…みたいな不協和音が木の空洞に消えていく。俺はまたいつものように溜息をついて、それでもこいつに手伝ってもらうことにする。


ーモジョン…モボボン。


あっ、今の音近くね?。


ーモョ〜ォ…。


なんかそれっぽいコードになったので、俺は生前お気に入りだった曲を口ずさんだ。

英歌詞めっちゃうろ覚えだけど。んなこたどうでもいい。肝心なのはノれるかどうかだ。ラララで誤魔化しとけ。

この曲のいいところはそれこそノリやすさ。出だしでグッとリズムに引き込まれて、サビに向かうにつれ自然と全身が同じものを刻むようになる。ヘッドホンで聴くと超脳汁出る。

思いの外盛り上がってきちゃった俺は、庭先だというのも忘れてアドリブを入れまくり、最後は大声でセンキューと叫んで額の汗を拭った。フヒュウ、やはり天才か。


「…」


ぱちぱちぱち、と。

どこからともなく、一人分の拍手が聞こえた。

やっちまった。これ一番恥ずかしいヤツだよ。一人でテンション上がってる時って多分ウンコしてる時より見られたくねえ時だろ。俺はまたしてもやや半ベソになりながら、俺のライブで喜ぶ観客の方へ目をやった。


「…!」


そこには、目を輝かせている、近所に越してきたばかりのレイラがいた。


「……」

「……」

「………」

「………」


いやなんか言えよ。俺も。

レイラは俺と同い年の少女だ。お隣のお隣の向かいの裁縫屋さんの娘さんで、確かー

そうだ。

思い出して、俺はレイラのもとへ駆け寄った。

レイラも俺の意図を察してくれたのか、身振り手振りで喜んで見せると、俺に掌を差し出すように促した。


『楽しかった なんて曲?』


 レイラは俺の掌に、指で文字を書いた。

彼女は生まれつき耳が聞こえないそうだ。人間の発語機能が聴覚に依存するのはこっちの世界でも同じらしく、周囲の人間や自分がどう喋っているのかわからないレイラにとって、発声を用いるコミュニケーションは難しいらしく、よくこうしてご両親とも会話している姿を見かける。

けど俺が驚いたのはそこじゃない。

呆気にとられている俺に気付いて、レイラは更に続ける。


『振動はわかるよ それにセンくん 動きもついてたし』


なるほど。あの恥ずかしい一連の流れをそういう風に見てたのか。

たしかに今の俺みたいにジタバタ動き回ってればメロディ聴かなくてもなんか音楽やってるなってのはわかりそうなもんだ。あの〜メッチャ遠くの道路で爆音で音楽流してる車がいるな〜ってのがわかるのと同じか?


『いつも楽しそう』

「…いつもォ!?」

『私も毎日楽しみにしてるの』


オーマイガッ。

崩れ落ちる俺に、レイラは相変わらず指文字で『どうしたの?』とか訊いてくる。こ、こいつ。

俺は返事を返すために、レイラの手を取る。


「今のはーって曲。えーと…ーって意味」

『初めて知った』


そりゃそうだ、俺が前に生きてた世界のだし。とか言うと多分余計な混乱を招きそうなので今のところ誰にも教えてないが。

けど。これが初めてだった。俺の好きなものに、誰かが興味を持ってくれたのは。こっちにイイネ!ボタンはない。送受信の範囲はアホほど狭いのだ。

俺はレイラにせがまれてもう一曲披露した。

レイラはまた嬉しそうに拍手して、明日また聞きにくると残して、去っていった。

 要するにこれが後に俺の人生に絶大な影響を及ぼす初恋になるわけだが、確かなことはひとつ。


やっぱスゲーよジャック・ホワイト、世界跨いでも伝わるわこの音楽。ってのを確認した。





.


思いつきとノリだけで書いてしまいました。

他の作品も完結してねーのに何やなんて感じですが小説の息抜きに小説を書いています。

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