鬼神編 第六戦 狙撃の鬼神 ハイフ
太刀道は屋根の上に登った。神の能力の激痛に耐えながら女を追う。
「女は……どこだ……見つけた……!」女は屋根から屋根へ颯爽と走っている。
それを目視した太刀道も屋根を走った。
女は遠くにいたが、太刀道は電光石火の如く屋根を駆ける。
太刀道が女に追い付いて来た所で、女は手を掲げて誰かに合図していた。
太刀道はそれに気付いて警戒した。
とうとう太刀道は女に触れるほど近くにまで来た。
刀で横から斬ろうとする。
刃は女が持っている袋に届いた。
あと少しで体をかすめようとした瞬間、城壁の上から小爆発を起こしたような音が轟く。
すると太刀道の顔の前に、小さな金属は前触れもなく現れる。
「な……!?」
金属が太刀道の脳天に直撃した……
「く……痛すぎて動けない……!」ツミチハは未だにひれ伏した態勢のままでいる。
「くそ……やはり神と認識されないと俺もただの人間だからな……」ツミチハは精神、体ともに神である。
精神の神は、存在を大勢の者から信じられれば神という形で現れる。
そして信じる者にしかその姿を確認出来ない。
体の神の場合は、近くで絶命した神の魂から近くの生き物に神移しされる。
神移しされた魂は、それの持ち主だった者の名残さえ消して全く新しい性質となる。
ツミチハの場合は両方。
精神の神である以上は誰かに信じて貰えなければ、神の能力は愚か、存在すら出来ないのだ。
ツミチハは体があるため、他人からは認識されるが能力の使用は制限される。
「はぁ……太刀道みたいに賢くて強かったら良かったんだがな……」ツミチハは自分の弱さを悔いていた。
自分が弱いせいで他人を守れないままでいるのがとても嫌だった。
「あの時だって……」ツミチハは守れなかった者がいる。
故に強くなりたいと切望する……
バンッ!と音が鳴り響く。
今、太刀道は戦っている。訳も知らないこの国のために……
そうだ。太刀道は今戦っている。
弱いとか強いとか今は大事じゃない。
自分を弱いと嘆くなら、太刀道を憧れとするのなら、前進あるのみ!
太刀道から遅れを取ったってまた同じことだ。
「なら……それならば追い付くだけだ!」ツミチハは自分の体を獣へと変化する。
手と足は四足獣へと変化し、鼻と口は長く尖り尻尾が生える。
「神獣……狼……」路地裏でその巨体の姿に変身するものだからツミチハは……
「あ……!挟まっちゃった……!」
ツミチハは頑張って抜けようとしたがなかなか脱出出来ないでいた。
「よ……おら……!よいしょ……!」ツミチハは苦戦を強いられている。
痺れを切らしたツミチハはやっきになった。
「あぁぁぁぁ!!面倒くせぇぇぇ!こうなったらもうあれ使っちゃうもんね!!」ツミチハは狼の口を開けて能力を使った。
「神器! 大剣フューラー!」そう言うと狼の口に咥えるようにして大剣が現れた。
大剣は狭い壁にめり込み、ツミチハは建物を破壊するようにして大剣でかき混ぜる。
丁度、鍛冶の建物で職人達は驚愕している。
「な、なんだこれえぇ!お、親方ぁぁぁ!」やがて剣は充分に動かせる空間ができ、ツミチハは屋根の上に登る。
城壁の上
「どうだ?奴は仕留めたか?」女が言う。
「まだ……死んでない……」
「後は頼めるか?ハイフ」
「……殺す」男がおもむろに言った。
ドンッとその大きい足を屋根上で鳴らし、唸り声をあげる。
何故か激痛は無くなり、簡単に動けるようになっていた。
ツミチハは城壁の上にいる人影を黙視し、大きな足でドスドスと走る。
「なんだあの狼……」狼を見た鬼神はそっちに銃口を向けた。
「この武器……奪った武器の中でもなかなかに支える……遠くから相手を仕留める狙撃銃……
来い!獣よ!私が狩ってくれる……」
鬼神は狼の頭に銃口を構えた。
鬼神の指は撃鉄に力が入る。
「……死ね!」
カチッ バン!
終わり