次はコウモリ
警察署から家に戻り、頭の中を整理する。迷宮でネズミと対峙したことや警察官にいわれたことを頭の中で反芻する。
まずは情報収集をしようと思い、パソコンを使いネットサーフィンをする。
世界中の至る地点で不審な地形の変化が起きているらしい。河原にいきなり洞窟が出現したとかアスファルトを突き抜けるかのように岩山がせせり立っているとか。ある大手動画投稿サイトにはそれらしい動画があった。
イギリスの郊外の町の家の定点カメラの映像だろうか。地震が発生したの時刻あと、早送りに再生したみたいに地面から草木がはえるように、洞窟が生えていた。高さは3Mほど、ごつごつしたこげ茶色の岩でアスファルトを貫いている。
近くの家から住民だと思われる中年男性が出てきた、驚いた様子を見せたあとおそるおそる岩山の回りをうろついたあと、入って行った。約三十分後に彼は顔をまっ青にして帰ってきた。
もう一度あの中に行ってみたい、と心の中で洞窟に魅せられている自分がいることに気づく。
岩山に行く前に万全に準備を整えよう。敵を察知するための暗視スコープ、各種食料、ある程度の長さがあり使いやすい武器、スコップ。温度計や酸素濃度計、気圧計なども持って行こう。
欲しいものがたくさんあるから、近くのホームセンターへ行った。
結局、色んなものを買ってしまいレジのひとが怪訝そうにもこちらを見つめてきた。ホームセンターでは揃えられない物もあり、夏休み用にとっておいた資金がそこをついた。
さあ出かけるか。
洞窟へ。
ヘルメットにつけてある懐中電灯の電気をつける。運動靴の紐をきつく締め、水筒の水を飲む。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。手に持つスコップをくるくる回しながら、ゆっくり進む。
酸素濃度計に問題はなし。温度計は20度を保っていて、変化はみられない。ダンジョンの床はツルツルしていて、自転車に荷物を置いて進む。
しばらくするとごそごそと足音が聞こえた。音の響き方は、前回と違う。腰を据えて、暗視スコープを目に当てる。
50mくらいのところに光る目が四つ。二匹か。ゆっくりと後ずさり、自転車を壁に立てかける。
タイミングを見計らって、一閃。
どすんっ、鈍い手応えを感じる。ネズミにスコップを叩きつける。
2分後、 ネズミの死骸が二つ転がっていた。そして、その場で解剖した。インターネットで事前に調べた身体の構造と比較。心臓の下に意味不明な石が二個体両方に存在した。
これは、もしかしたらと思い回収した。ネズミの他の臓器には地球のと何一つ変わらなかった。血は赤かった。とても生臭かった。遺骸がある壁のところに蛍光ペンキで印をつけた。
高校生のころネズミの解剖をしたのを思い出した。クラスの女子が体調を悪くして保健室に行っていた。
自分が奇怪な行動をとっているのは、分かっている。それでも、現実世界が幻想世界になっているかもしれないという可能性は残酷なまでに魅惑的だった。
また、ゆっくりと歩いて行く、二股に道が分かれていた。スコープで様子を確認する。そして、石を投げて反応をみる。
すると、コウモリだろうか。驚いてこちらに飛び出してきた。
キーンとかん高い音を立てて近づいてくる。頭が痛い。慌ててイヤホンを耳にはめ、懐中電灯をコウモリにあてる。唐辛子入り水鉄砲で奴らめがけて発射する。三匹撃墜したところで、ピコンと音が鳴った。