始まりの
20xx年 世界のあらゆる場所で地震が起きた。いや、地震というには語弊がある。なぜなら、世界中のどの場所でも同じ大きさの揺れが起きたからだ。その後、後を追うかのように天変地異が起こった。湖がかれ、日照りが続き、夏なのに霜が降りた。そこに追い打ちをかけるように未確認生命体,モンスターが現れた。神話の世界から飛び出してきた、そいつらは世界を混沌へ変えた。食糧不足や治安の悪化。世界の秩序が新しく塗り替えられた。そんな激動の時代を生き抜いた人々の物語である。
「では次のニュースです。 世界同時多発地震から一日が過ぎました。世界中の地域でマグニチュード5の地震が発生して、数億人規模の被害者が出ています。発展途上国ではライフラインが破壊され、地域住民の不満は高まっています。また、交通網が破壊されて物流が滞り、全体的に物価が上がっています。また、複数地域の国境部分で軍事的な衝突が起こった、との報道が入っております。この地震が今後の世界情勢にどのような影響をもたらすのか。情報が入り次第、逐次お伝えします。」
アナウンサーは緊迫した表情で読み上げており、時折、スタッフのざわめきが聞こえる。
「だから、何」
と俺はテレビの感想を述べた。あの地震が与える影響が日本という国にどのような影響を与えるのか、理解したくなどなかった。あの地震のあと諸外国の動きは活発化し、世界の情勢は一般人でさえ分かるほど、不穏な空気が立ち込めていた。
自転車に乗り道路を走る。吹き抜ける風が気持ちいい。朝から辛い話で気がめいる。すれ違う人も少なく、自転車に乗った警察官たちとよく出会う。
空を見上げるとどんよりとした雲が垂れ込んでいる。嫌な気分。そうだ、河原でサイクリングして嫌な気分を吹き飛ばそう。
川辺を走り抜けていると違和感を覚えた。河川敷に岩山ができている。
「うわ、なんだよ、あれ」
急ブレーキをかけ自転車を止め、穴のそばへ行く。先週来た時は何もなかったのに。青々と茂る草原の中に岩山が屹立している。
近づいてみると、岩山には人が通り抜けられるくらいの穴が開いている。不可解なことに洞窟からは光が漏れ出ていた。
近くに警官の自転車が止めてあり、俺もその隣に自転車を止めた。明らかに可笑しな状況に好奇心が疼き、おそるおそる歩み寄る。気分転換には、ちょうどいいな。中は坂道が続いていた。洞窟はなだらかに下っていく。
中に入ると壁がぼんやりと光を発した。土の壁を叩いてみると、鉄みたいに頑丈だ。高さは2.5m位あり、壁は自分の周辺でのみ光っている。ますます興味がわく。誰がいったい何のために作ったのか。洞窟は静かでため息が響き渡った。ああ、まるでゲームみたいだ。緊張感が体全身を包む。
しばらく進むと足音が聞こえた。
聞き間違いか。疑っていたけど、音はどんどん大きくなる。心臓の鼓動が聴こえる。
突然、前から猫ほどの大きさのネズミが出てきて、こちらに向けて襲いかかってきた。
咄嗟に蹴り飛ばす。ごりっとした蹴りごたえがした。太い何かを折るような感触とか細い鳴き声、大きく手足をばたつかせたあと、ネズミは動かなくなった。
いったん、外に出よう。ここはヤバい。握りしめていた手は汗ばんでいた。
服を整え洞窟の外に出ると、自転車を止めているところに警察官が二人いた。俺の姿を見ると、驚いた顔をして走り声をかけてきた。
「大丈夫かい。あの洞窟から出てきたの、僕」
「はい。そうです」
「中、どんな感じだった。危なくなかった?実は、昨日その洞窟に入って行方不明がわからなくなった人がいるんだ。悪いけど署まで来てもらっていいかな。いろいろと聞きたいことがあるんだけど、大丈夫かな」
俺は警察官の問いかけに頷いた。
数分後サイレン鳴らしながらパトカーを来て、中に乗った。初めてのパトカーの乗り心地は悪くて、緊迫した空気が満ちていた。ぽつりぽつりと降り出した雨は勢いを増していき、稲光と雷鳴が俺の気持ちをあらわしていた。
警察署では取調室に入り色々なことを聞かれた。
中年のスーツを着たおじさんが口を開き、柔らかい口調で話す。
そこで俺はいろいろな質問に答えた。
どうして、洞窟に入ろうとしたのかとか。写真を出してこの人を見なかったかとか。君が倒したネズミみたいな動物の特徴を教えてくれないかとか。
おじいさんは
「何かが起きている、我々が予想だにできない何かが。私たちロートルにはちょいと厳しいがね。私たちに長く付きあわせてしまいすまなかった」
そう言って、警察の尋問は終わった。