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縁が人を繋ぐ時  作者: ティオ
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人生が変わる物語

しとしと雨が降っている。7月なのに雨のせいか若干涼しい。今年の夏は異常気象だ。猛暑日が連続している。そんな日が続いているからか、今日は僅かに涼しさを感じる。

しかし、涼しくてもせっかくなので晴れて欲しかった。

今日は初めての家族旅行。家族4人で群馬県の草津へ足を運んでいる。出来る事なら晴れた日に湯畑を皆で歩きたかった。雨のせいか湯畑の水量も多く見える。ホテルで借りた赤い傘が邪魔で写真を撮るのも一苦労だ。それでも今自分はこの時間を本当に楽しんでる。心からこんな幸せを感じたことは人生で初めてかもしれない。34年生きてきた中で、こんな幸せがこの世の中にあったことに気がつかなかった。

彼女の笑顔、子供達の笑顔、笑い声、ふざけた顔、全てが今新鮮に感じている。この3人と家族になれたことが幸せだ。1年前にはこんなことになるとは思っていなかった。1年前はまだ子供達に出会って間も無い時で、きっと子供達が懐いてくれるのはまだまだ先だよって君が言ってたから、こんな風に一緒に出かけられるのは随分先の話だって思ってた。

自分の愛する人とその子供達と旅行に行くことが昔からの夢だった。漠然といつか当たり前のようにそんな日はやってくるものだと思っていた。でもそうではないという現実を2年前に知った。昔思い描いた自分の理想は、案外ただの理想郷でしかなく、現実は大きく形を変えていることが多い。でも形が違っても、当時描いた幸せと近いのか、そうではないのか、そこに焦点を当ててみると、幸せってそもそも何かを考えてしまう。

今草津に家族皆で来ていることは自分にとって本当に幸せなことだ。こんなに楽しい1日は34年の中で感じたことがないのだから、それだけ幸せなのだ。4人は本当の家族ではないけど、自分は家族だと思っている。アイスクリームを食べる子供達、その二人の写真を撮る彼女、それを見つめながら黄昏ている自分。

家族とはなんだろうか。血の繋がり?DNA? 今はそんなこと関係ないと思ってる。 この目の前に広がる光景がそう思わせてくれる。


『みんなで写真撮ろうよ』


彼女が自分にそう声をかける。硫黄の匂いが子供達は苦手なようで、湯畑に近づこうとしないが、その時は子供達も『臭い』と言いつつ、みんなで湯畑をバックに写真を撮った。 硫黄の匂いを我慢する子供達の顔は傑作だった。


『雨も降ってるし、そろそろ部屋に戻ろうか』


そう自分が声をかけ、湯畑を後にホテルへ戻ることにした。


幸せな時間はいつもその瞬間だと感じる。永遠に続く幸せはないと感じ、一瞬訪れる幸せの余韻に唯々身を任せる。


この時はそれだけで良かった。それ以外のことを考えたくなかった。


ふと空を見上げると雨が強くなってきた。ズボンのポケットに入ったスマホを握り締めながら、ホテルに戻る。


『亮介の車に忘れ物しちゃった』


慌てた様子で彼女が自分の名前を呼ぶ。


『何忘れたの? 智美の荷物?』


彼女が何かを忘れたらしいので、皆で急いで部屋に戻り鍵を渡す。


智美『ありがとう。ちょっと駐車場に行って取ってくるね』


智美はどうもスマホの充電器を忘れたみたいだ。自分は子供達と部屋で待つことにした。


子供達はテレビを見たり、ゲームをしたりと自由に過ごしている。


お姉ちゃんは『可奈』という名前で、12歳。小学6年生で物事を冷静に見ることができる大人びた子だ。極端に冗談や、子供じみた事を嫌う子だが、しっかりした優しい子で、いつも自分のちょっとした行動を弄ってくる。

セミロングの綺麗な髪をした可奈は12歳ながら好きな男子に恋をしている。

大人びた子だが、他人である自分に懐いてくれている。それは親としてか、大人の友達としてか、それは今はわからない。ただ、可奈を見ているといつか結婚する姿を想像してしまう。親ではない自分だが、夢を見させてくれている。


妹は『莉子』という名前だ。お姉ちゃんと違い活発な子で、子供らしい子供だ。年齢は8歳で、サッカーが大好きである。男の子にも負けないくらい元気で、負けず嫌いだ。

そんな性格からかお姉ちゃんとはよく衝突をしている。

さっきもお菓子の取り合いでお姉ちゃんと喧嘩していた。


可奈『亮ちゃんはお風呂行かないの?』


先に3人は温泉に入ってきたとこで、自分は先に一人部屋でビールを飲んでいた。子供達からは亮ちゃんと呼ばれている。


亮介『俺もママが帰ってきたら入ってくるよ』


可奈は畳で横になりながらゴロゴロテレビを観て自分のスマホを弄っている。


今の時代は12歳でスマホを持つ子もいるから、昔では考えられない時代の変化だ。これも自分がこの子達に合わなかったらわからなかった感覚だった。


間も無くして智美が帰ってきた。


亮介『じゃあ俺も今から温泉入ってくるよ』


智美は自分のスマホを充電している。『わかった。ゆっくり入ってきてね』そう智美が言い、自分はタオルを持って温泉へ向かう。


窓から外を眺めると湯畑がライトアップし、とても綺麗で妖艶な姿を見せていた。


最近仕事も忙しく、なかなかこのような時間を作ることができなかった為、この時間をとても満喫している。今まで正直色々なことがあった。世の中も次々と変化していく中、自分の生活も日々変化をしていった。


幸せとは何か… そんなことを考えながら立ち止まっていた。


ぼーっと湯畑を見ているとスマホが『ポンっ』となった。


スマホを見てスクリーンをタッチする。


『〇〇様、いつもご利用ありがとうございます。

明日、ご指定の銀行口座より口座振替の引落しを行ないます。』


毎月決まった日にやってくるこのメールを見るたびに、罪悪感と虚しさ、そして『なぜ…』という何とも言えない感情が押し寄せる。


自分は多額の借金を抱えている。それは誰にも打ち明けていない。当然、彼女や子供達も知らない。


自分の家族、両親も知らない。自分だけが知っている十字架。


借金の総額は約600万円。なぜこのような借金を背負ったか… 全てが自分の責任なのに、今でも別の何かに責任をなすり付けようとする気持ちが取れない。


自分は窓から外を眺め、過去を振り返っていた。


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