魔王「その剣、ちょーだい」
「ねぇねぇ」
「なに?どうしたの?」
「その剣、ちょーだい」
「やだよ」
幼女が私の背中に巻き付いている。私は読書を楽しんでいる。
「なんで、やなの?」
「だって、これ聖剣だよ?あんたにあげたら、あんたを倒す手段が無くなるじゃん」
「えー、いいじゃん、別に」
「良くないよ。こう見えて、人類の願い背負ってるからね。私」
幼女はぶーぶーと文句を言う。私は尻上がりに面白くなってきた小説から目が離せない。
「じゃあ、こうしよう。私とじゃんけんして、負けたら"それ"ちょーだい」
「やだよ。」
「ははーん。さては勇者のくせに負けるのが怖いんだぁ。うわぁ、ださーい」
「いやいや、じゃんけんだったら1/3で負けちゃう。そんなリスキーな勝負受ける訳にはいかない」
つまんないと幼女は呟くと、不貞腐れて部屋の隅で落書きを始めた。私はようやく小説に集中できる。
「次何描こうかなぁ......あ、そうだ。あんたを描いてあげよっか?」
「別にいいよ」
「じゃあね、上手く描けたらその剣ちょーだい?」
「別にいいよ」
幼女は顔をぱぁっと明るくさせた。よーし、頑張っちゃうんだからぁとやる気十分だ。
「出来たぁ!見てみてー。上手く描けてるでしょぉ?」
「んー......その、どれが顔かすら分からないんだけど.....沢山顔みたいなのがありすぎて」
「えーだって、あんたの周りにいる精霊全部描き出そうとしたら大変なんだもん」
「えっ、私の周りってお化けだらけってこと?なにそれ、怖い」
私が背筋を凍らせていると、幼女のお腹がぐーっと鳴った。私は読んでたページに羽飾りを差し込んだ。
「そろそろご飯にでもしましょうか......魔王様」
「うん!今日は何食べるの?」
「今日はそうだなぁ。大蜥蜴の肉でソテーでも作りましょうかね」
「わーい。とかげ、とかげー」
幼女は嬉しそうに駆け回る。私は微笑ましくそれを見つめる。
いつか必ず終わりがくる。その時までは、こういう日々も悪くはないかな。
私はそんなことを思ってしまうのだった。
魔王「その剣、ちょーだい」-終-