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恋愛短編

俺はイケメンである、しかし性格までイケメンとは言っていない

作者: いしい君

甘い恋愛小説を書いてみたかった(無理だった)

 俺の名前は、石川 俊介(いしかわ しゅんすけ)、所謂イケメンと言われる者である。





 先に言っておくが、俺はナルシストではない。

 なんというか、周知の事実というか、周りの反応を見ていれば自然と気づくことである。ただ自分の顔がどのようにみられているかを自覚していると言ってくれ。自覚してないのは、逆に周りに迷惑が掛かってしまうからな。

 毎日俺の下駄箱は愛の手紙で溢れんばかりである。ごくたまに男子であろう差出人のも混じってるんだが、何とも言えない気持ちにさせられる。何にしろ、ちゃんと全部読んで、全部丁重に断っている。もちろん、男子のもな。


 そのようなこともあるので俺の朝は早い。4時起きで、学校一番乗りなときもしばしば。その理由も、もう皆さんにはお分かりであろう。 普通に登校すると、自分の周りに人だかりが。なんか他校も社会人も混ざっていて何が何だか状態である。

 そんでもって家も父は不動産会社の社長ということでまあまあ裕福。勉強は上の中。運動もどれも結構出来る、特に球技。

 何でもできると言えば聞こえはいいが、器用貧乏なだけである。自分に誇れるものというか、特技みたいなものも何もない。


 そして皆さんお待ちかね、肝心な俺の容姿だが髪は黒髪のストレート。身長は大体、180ぐらいだろうか。顔は簡単に言うと、街中で20人中19人が振り向く顔。実際に数えたので間違えてはいないと思う、多分。



 俺は、この少し変わった環境で育ったせいで、突如変なものを覚えてしまった。

 それは、恐らく『共感覚』?と言われる部類のものである。

 その人の瞳の奥の色をを見ると、喜怒哀楽、俺に対してどのような感情を抱いているか全て分かってしまうのだ。細かい色の種類で俺はその感情を判断する。俺の周りの目は、大体媚び、媚び、媚び、たまに嫉妬。同じような色ばかりである。



 で、えーと、この話は、そんな俺が恋に落ちるか落ちないかのお話。





  *    *    *    *





 恋の始まりとはいつも突然だ、と誰かが言っていた。










「なぁ、俊」


 神妙そうに話しかけてきたこいつは、俺の唯一無二の親友の宮内 蓮(みやうち れん)である。

 見た目がキツく、身長が185cm以上あって金髪(地毛)でピアスをしている。大分恐い風体をしていて周りに少し恐がられているが、性格はちょっとツンデレ気味の良い奴だ。所謂、なんちゃってヤンキーなのである。


「おい」

「何だ?」

「....お前さ、最近またストーカーにあったんだろ? なんだか、バイトから帰ったら家で待ち伏せされてたとか」

「....あーー、もうそんな広まってるのか」

「しかも、貴方を殺して私のものにしてから、私も死ぬとか言って、ナイフで刺されそうになったんだろ」

「ベタだよなー」

「いや、ベタとかじゃなくて、....はぁ、まったくお前は」


 そんなこと、俺にとっては日常茶判事だから。ヤンデレに追われ死にかけ、変な薬飲まされ襲われそうになったり、なぜか知らないやつが俺の部屋にいて「あれぇ、俊くんおかえり」とか言ってくるし。もう、軽く人間不信になりそうなところまできているのである。毎日、命の危険があるとかどんな無理ゲー。中身は普通の高校生なのでそんな波乱万丈な生活はやめてほしいのだが。あー、ギブミー平穏な日常....。

 俺はそんなことを思いながら外を眺めて、深いため息をひとつ落とした。


 俺の心はこんなに暗いのに、空は俺の心なんか関係なしにこんなにも青い。こんな色をした目を持ってる感情は、確か、<<泣きそうに嬉しい>>だったかなー。そんな色、久しく見てないな。



「ギャァァァァーーー!!」


 突然、後ろから悲鳴が上がった。

 俺と蓮は何事かと後ろを振り返った。振り返ると、ある女子生徒が目から滝のような涙を流していた。

 緒方 未雪(おがた みゆ)である。今年の入学式で初めて会って、同じクラスになり、自分の後ろの席なのに一回も話したことがない女子である。まぁまだ入学式から三ヶ月たってないけど、それでも珍しい。....もう一回言っておくが、俺はナルシじゃないからな。自意識過剰でもないからな!


 前髪を長くして顔の横に流していて、ショートとミディアムの間ぐらいの長さの黒髪。前半分を残して、後ろで適当にちょっと縛っている。そして、黒ぶちメガネ。


「お、お、俺の弁当ぉーー!」


 どうやら弁当を忘れたらしい緒方は、このクラスでは少し有名人である。

 授業中の居眠り回数はクラスダントツトップだし、大人しそうな見た目して性格は男だ。男勝りとかではなく男だ。女の子大好きで、男の中に普通に溶け混んでいて、胸の大きな子にお前胸でけぇな~と真顔で言っていたり、さらりと女子を口説いたりしている。今でいうおやじ女子である。男女共にそれなりに人気がある。以上、このクラスの俺に呼んでもいないのに引っ付いてくる女子情報でした。

 そして、俺が密かにこいつなら普通の、周りがクラスメイトや友達に向けている目で見てくれんじゃないかと期待しているやつだ。大体女子は媚びか怖れ、男子は嫉妬か可哀想などの感情を向けてくる。普通の穏やかな感情を俺に向けてくれる奴は今のところ、蓮と家族しかいない。

 でも、期待してしまった分、こいつの目を未だ見れていない。情けないのはわかっているが、期待した日数が広がれば広がるほど、どうすればいいか分からなくなる。


 今のこの時間。だいぶ早い時間で、まだクラスにはあまり人がいない。これは確かめるチャンスなのではないか?

 俺は意を決して、話しかけることにした。


「あの、緒方さん」

「ん?」

「実は昨日、女子からパンいっぱいもらって。よかったら、俺のコンビニ弁当食う?」

「.....」


 おおっと、もしかしてなんか間違ったか?

 いやまぁ、普通初めて話す奴にこんなこと言われてもなぁ...。うーん。



ガシッ



「へっ?」

「お前、いい奴かっ!!」


 予想外の返しだった。


「お前のこと、その年で人生達観してますよーって見せてるマセガキのただのイケメン野郎だと思ってたわー。誤解してたわー。ごめんな。....でもやっぱりさっきの言葉、嫌味だよな。女子からの差し入れとか羨ましいぞ、イケメン野郎。しかも女子のパン優先とか、心までイケメンかクッソ!」


 それは、貶してんのか褒めてんのかどっちなのだ。


 更に予想外な言葉が返ってきた。

 緒方の言葉の中でところどころ心当たるところがないわけでもない。ボケッとしているように見えて、実はこいつ鋭いのかも知れない。


「お前、それは俊を貶してんのか褒めてんのか」


 蓮は、俺の気持ちを代弁するかのように言った。

 俺は呆然としていた。


 蓮が自分から、話しかけているっ!


 蓮はあまり、人に話しかけない。多分、恐がられている自覚が自分自身でもあるのだろう。他人とあまり関わらない点は、俺と一緒だ。まぁ、だからこそ仲良くなれたのだろうけど。


「.......ふむ、確かに命の恩人に対して少し失礼だったな。すまんな、少年!」


 少年って......同い年だろうが。つーか、どういうキャラだよそれ。

 俺は、突っ込みを入れながらも、また、呆然とした。


 普通に言葉を、返したっ!!


 すまん、少しうざかったな。

 今更だが俺とも普通? に会話してたし、しかも、全く蓮を恐がらないなんて。俺でさえ、初対面は少しビビったというのに。

 いや、まだ俺はこいつの目を見れてないから、真意は分からない。油断は禁物だ。...べつに、怖がってるとかじゃないし、ヘタレでもないしっ。


「蓮、知り合いか?」


 俺は思わず聞いた。

 俺が知らないところで、会ったり話したりしてたのかもしれない。それなら、まだ納得できる。


「いや、全く」


 蓮を見ると、彼も呆然としていた。

 えっ、マジで。


「? おぉ~~い、結局コンビニ弁当は貰えんの?」

「あ、あぁ。というか、コンビニ弁当でいいのか?」

「もちのろんよ。コンビニの弁当は何でも食うぜ!最近のコンビニ弁当は侮れないからな」

「そうか。実は弁当買ったはいいが、女子からのパンもあるし、どうしようか考えてたところだ。こっちも助かったよ、ありがとうな緒方さん」


「....」


 すると、急に緒方は黙って変な顔をしてうつむいた。


「?」

「.......。なぁ、そのさん付けやめね? なんか、気持ちわりぃーよ。さん付けで呼ばれたことないし、緒方でいいよ、緒方で」

「えっ、いや」

「自分、今お前達と話してて、仲良くなりたいと思ったってのもあんだけど、ダメか?」

「お前、いきなり間合い詰めすぎだろ。なんか、下心あるんじゃねーのか?」

「はあ? なんだそれ」


 俺が少し戸惑っていると、何やら蓮と緒方が口喧嘩をし始めた。だが、蓮の顔をちらと伺うと少し口角が上がっている。なんかちょっと楽しそうだ。きっと、同等に自分のことを怖がらないで話せる奴が居て、嬉しいのだと思う。



 あぁ、今日は結局目見れなかったな、最後まで。.......へーへー、どうせ俺はヘタレだよ。顔がイケメンだからって中身までイケメンなんてあるわけないだろ。





  *    *    *    *





 あれから、2週間近くたった。

 緒方とは、気軽に挨拶できるくらいの仲にはなった。これは、俺の中では結構な進歩なんだからな。



 今は六時間目の体育、今日は男女共に柔道の時間だ。柔道着がものすごく汗臭いから、あまり柔道は好きじゃないんだよな。

 それでも寄ってくる女子達。柔道着似合ってるって言われてもな、反応に困る。


 いつも通り、この女子の輪に入ってない人物を見た。緒方は、うん、少し俺を睨んでるな、なんでだ。ってああ、そう言えば女好きだったな緒方は。


 おっと、授業始まんな。準備準備。







 ..........っ!

 いってぇ!!!


 少しよそ見をしていたら、相手の男子に背負い投げをされてしまった。もちろん、俺はよそ見していたので受け身がとれず、思いっきり背中と腰を打ってしまった。やべぇ、これ立てねぇ。

 相手の男子は、思いっきり女子に睨まれている。違うんだよ、全面的によそ見してた俺が悪いんだよ。が、痛くてあまり声が出ない。すまない、折笠君。



 .....さて、どうするか。

 これは、自分で立てそうにもない。だとすると、誰かに手伝ってもらいたいが、今日は生憎蓮が風邪で学校自体にいない。

 女子は言い争いを始め、男子は....まぁ俺を助けてはくれないよな。あれ? 自分で言ってて悲しくなってきた。


 先生も見るからに困っているようだ。......先生が運んでくれるのが、一番なんじゃないだろうか。


「先生ー、じゃあわたしやりますよー」 


 欠伸しながら手を振ったのは、緒方だった。


「...緒方か、じゃあよろしくお願いな」


 先生はあからさまにホッとして、緒方の肩を叩いた。

 えっ、女子ひとりに俺担がせる気か!?


 すると緒方は、男子と女子に何かを話してこちらに向かってきた。


「大丈夫か? 石川」


 緒方は心配そうにこちらを見てくる。


「あ、あぁ」


 そうか、大丈夫じゃないんだなと真顔で呟くと、緒方は俺の肩に手をまわし立った。

 俺が心配してたことは、杞憂だったようだ。うん、軽々しく俺のこと支えてるよね。どんな力してんだこいつは。


「あの、女子は」


 緒方は、男前だが女子だ。他の女子が黙ってる訳がないだろう。


「後ろ見てみろ。お前なら、わかんだろ」 


 俺は不思議に思って、緒方の言った通り後ろを見た。


 そして驚いた。

 嫉妬や羨望ばかりかと思ってた女子の目は、薄い黄緑、<<安心>>。まぁ緒方ならいっかとか、緒方なら安心だ、みたいな目。

 男子は皆して、紺、<<尊敬>>の眼差しをキラキラと向けていた。


 ....? あれ、今なんでイラッときたんだ?


「俺、どっちにも女として見られてないんだよな。でも、男としても見られてない。まあ、そういう風に仕向けたんだけどな」


 緒方は目尻を少し下げた。


「.....なぁ、今どうして俺なら分かるって思ったんだ?」

「その質問は野暮だろ、石川。まぁ強いて言うなら、俺にはお前が同類に見えたから。勝手にだけどな」


 そう、緒方は諦めたように呟いた、そのいつになく真剣な横顔に俺は唾を呑み込んだ。




 なんだか、いつもよりも時間が遅く感じられる。




   *    *    *    *




 保健室の扉を、ガラッと緒方は足で開けた。が、保健室の先生は不在で、保健室はしんとなんだか妙な静けさに包まれていた。


「おー、誰もいないのか? まったく、いないなら看板出しときなさいよねー」


 緒方がいつもの調子で喋りはじめ、俺は少し安堵を覚えた。


「今ホッとしただろ」


 フム、湿布貼ればいいのか?と緒方は俺を保健室の長椅子に座らせた後、薬の入った棚をガサゴソし始めた。

 その様子を見守りつつ、俺は目を見開いた。


「驚いたか? 俺な、その、人が考えていること、分かるんだ。今何して欲しいとか、俺に向けられてる感情とか、その人の考えてることとか。.....って何言ってるんだろう、わたし。ごめんなー、変なこと言って」


 俺と目を合わさないように、目を泳がせながらポツリと呟いた。

 湿布を持っている手が、微かに震えている。


「俺もだ、俺も分かる、わかるんだ相手の感情が」 

「...!! やっぱりか! わたしの他にもそんな奴が」


「だけど、俺はお前とは違う」


 思わず、俺は大きい声を出してしまった。

 最初、緒方が少し嬉しそうにするが、俺はすぐにバッサリ切り捨てた。今度は緒方が目を見開いた。


 俺は一呼吸おいてから、話しだした。 



「ここ最近、お前を見てて分かったんだ。お前、このクラスの、他のクラスの人の相談に陰ながら乗っているだろ。気が付くと、皆がやりたくないような面倒事が終わってる。喧嘩してる奴がいたら、さりげなく、気付かれない程度にどっちにも仲直りを促して、気が付くと前より仲が良くなってる。前々からそんなクラスの変化に少し疑問を抱いてたんだ。誰がこんなことやってるんだろうって。そしてお前だって気づいた」


 もう一度、大きく息を吸った。


「.....最近俺に危害を加えようとする奴が極端に減った。それもお前がやったんだろ?周りのやつらから聞いた。そこがお前と俺の違うところだ。俺はこの能力を他の人のために使おうと思ったことは、一度もない。お前はすごい奴だ。ありがとう、緒方」


 緒方と仲良くなってから、女子に刺されそうになることも、男子に逆恨みされることも前に比べると結構少なくなった。バイト帰りの夜道を悠然と歩けるくらいには。

 聞いたところによると、緒方が女子を宥めてくれたり、男子に違う、相性が良さそうな相手を紹介しているらしい。


「......っ」

「えっ!! ちょっ!!」


 緒方の方をみると、泣いていた。唇を噛みながら。

 俺は突然のことに戸惑い、おろおろしながら手をさ迷わせていた。


「わ、わたしはっ」


 緒方が嗚咽を繰り返しながら、言葉を紡ぎだした。


「小さい時っ、父さんと母さん亡くして、親戚に引き取られて、でも、その人達、自分の子供がいるからって、わたしたちに、っ冷たくして、妹、守りながら暮らしてたら、こんな、能力がついちゃって....。わたしはただ、みんなの笑ってる顔が、見たいだけなん、だ」


「気付かれなくていい、わたしは、馬鹿っぽい奴でいい、女として見られなくていい、陰ながら皆の笑顔を作れればいい、そう、思ってたのに。こんな、こんなに、気付いてもらえることが嬉しいなんて、思わなかった」

「....」


 俺はただただ、驚いていた。

 いつも、にこにこ笑ってて、皆にいじられながらも親しまれてて、なんとなくだけどクラスの中心にいた。

 そんな奴が、辛い過去があって、こんなこと考えてて、目の前で泣いてて。


「.......今、改めておもった。俺、ううん、わたし、お前とちゃんと友達になりたいっ」


 緒方が袖で目をごしごし拭い、こっちをまっすぐ見てくる。

 俺は、こんなに俺を真っ直ぐ見てくるやつを、ちゃんと見なくていいのだろうか。


 俺は覚悟を決めて、緒方を見た。











 そして、直ぐにそらしてしまった。

 瞳の色は赤色だった。





 赤にも色々な種類がある。が、赤色で今まで一番多かったのは。

 ..........媚びである。

 周りとこいつは、変わらないのか?


 俺は今まで抱えてきた期待、希望みたいなものが崩れた気がした。

 ...っ、こいつなら、こいつなら大丈夫だと、思ったのに。


「えっ、わたし媚びてたか? うわっ! 友達になりたくて、焦ってたから.....」


 っ!!

 そうだ、こいつ心が読めて、


「...でも、お前も半分悪いんだからな。お前、顔整いすぎなんだよ....」


 顔を真っ赤にする緒方。後半から、だんだん小さくなる声。

 ふと、視界に入った瞳。

 その色は、赤は赤でも夕暮れ時の空、茜、色------。


 それは、一度だけ見たことがあった。

 その色が意味するのは、媚びや恋慕ではなく、そんな複雑じゃないシンプルな。


「こっち見んじゃねー!!」


 更に真っ赤になって、リンゴみたいになる緒方。




 -------<<仲良くなりたい、友情>>




 ドクン




「手当て終わったぞ.....」

「ちょっ!」


 立ち上がった緒方の腕を思わず掴んでしまった。

 よくわからない胸の動悸がする。


「? 何だ? ベットまで運んで欲しいのか?」


 まだ少し火照った顔で、不思議そうにのぞき込んでくる。





 ドクン





「うしっ。ん? さっきみたいに体重かけていいぞ?」

「......っ」


 さっきまで全然気にならなかったことを、急に意識してしまう。

 女特有の柔らかな体、香水とかではない仄かに香る甘い香り、平凡な顔立ちながらもよく見ると大人びた横顔。





 ドクン





 ボスンと音を立ててベットに倒れこむ俺。

 何故か満足そうにベットの横で仁王立ちしている緒方。


「よしっ、大人しく寝てろよ石川、ってなんで泣きそうなんだお前。どっか痛いのか」


 ニッと笑った緒方は、七色に咲く虹に見えた。

 ころころ変わる表情がとても面白かった。俺の望んでた普通に友人に向けてくれるその表情。でも今の俺には何か物足りなくて。でも、俺に初めて見せてくれた無防備で無邪気な笑顔を見せてくれることが、


 緒方の瞳をのぞき込むと、もうそこには何の色も浮かんでいなかった。

 そこには映っている俺の瞳は。




ドクン




 ぼんやりと何気なく眺めていたあの時の空の色で。





 ドクン





 俺は、自分が何かに落ちる音がしたような気がした。



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