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嫁入り狐はもの申す  作者: 卯野きらず
1/6

狐の嫁入り.1

 綿帽子をかぶり、ぴっちりとした白無垢の装束に身をやつした女が、


(……あれ?)


 と、思ったのは、ふとちらりと横目で隣に居座る男の姿を覗き見た時であった。


 すう、と通った目鼻立ちに涼しげな双眸。髪は艶やかな濡れ羽色で、なかなかそこらの村の若衆連中では見られない美丈夫である。


 目線は伏せられ、ただ一心に祝詞を聞く様に女は数瞬程ぼう、と見惚れ、次いで気付かれる前に慌てて目を逸らした。


 そういえば、と女の中で微かな疑問が持ち上がった。


 仲人に連れられて対面したときは、もう少し柔和な顔立ちをしていたような気がしなかったか。身体付きも確かこう、ほっそりとはしておらず、がっしりとした見た目だったはずだが……はて。


(……まァいっか)


 生憎、あれは随分と遠目からであったし、特に注視して眺めていた訳でもない。まず何にしろ、女は人の顔を覚えるのは特に苦手な性分としていた。


「どうぞ」


 声をかけられ、女ははっとした。


 気付くと目前には、台の上に乗った艶やかな朱色の盃が置かれ、そこには並々と透明無色の液体が注がれていた。


(ええっどうすんのこれ……!?)


 ただ座っていればいい、とだけ彼女の弟共は言っていたが、話が違うではないか。


 盃に落としていた視線をあげると、若干困惑した面持ちの人物と視線がぶつかった。


 片脇に提下(ひさげ)を持っている。

 成る程、盃に液体を注いだのはこの下女らしい。

 よくよく見てみると、何やらしきりに目線で盃と、こちらの顔を交互に見つめている。


(あっ、飲めってことかな?)


 どうやらそのようなので、両手でがしっと盃を掴む。


 盃を見つめていた女にはわからなかったが、下女の顔がほっと胸を撫で下ろしたかのようになったあと、次いで一瞬の内に変化したのを見ていた者は誰もいなかった。その時くっと隣で誰かが笑ったのは空耳だろうか。


(うーん、お酒かこれ?)


 勢いよく全て飲み干した(・・・・・)女は、その味に顔をしかめる。


 そして、ぽかりと口を開けた下女の顔色に気付いた女は、ようやく、自分が失敗をしてしまったことを悟ったのであった。

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