首都で買い物するだ
俺達は今、首都に来ている。
秘薬館の店主エリィさんが自分のお店を綺麗にリフォームしたいという事なので、首都までエリィさんの護衛をする事になった。
首都に到着すると、エリィさんの友人が営んでいる宿屋で宿泊手続きを済ませた後、暫し宿屋のロビーにある休憩スペースでお茶を飲みながら一服していた。
「一服し終わったらアタシは建築会社に行くからぁ、アンタらはぁ首都の中を見て歩き回ったらどうだぃ?」
「えっ、一緒についていかなくても大丈夫なんですか?」
「首都の中は安全だからねぇ、それに"りふぉおむ"について色々と話がしたいからぁ……長い時間待つことになるよぉ?」
「それじゃあ……お言葉に甘えて……」
こうしてエリィさんは一人建築会社へと向かい、俺とYAMAさんは夕食の時間まで首都を歩き回ってみる事にした。
少し歩いた所に小さな広場らしき空間があり、そこに設置されている首都の地図を確認してみると俺達が今いる場所は首都の"宿泊施設地区"にいるらしい。
そこから南へ歩いていくと多くのお店がある"商業地区"へと行ける。
「それじゃあ商業地区に行ってみようよ、良い掘出し物があるかもしれないし」
「はい……」
さっそく商業区域へと向かうって見る。
そこで俺はふっと、手持ちのお金が幾ら残っているのか気になったので野中に聞いてみた。
「野中ぁ、手持ち金って幾ら残っていたっけ?」
「えっとねぇ……昨日2人分の宿賃と食事代払ったから……丁度500G……あっ!」
急に野中が何かに気づいたような反応をした。
「鉱石! 鉱石があるぞ、稲島!」
「鉱石?」
「ほらっ、防具の素材採取で採掘場に行ったときに赤鉄鉱以外に採れた鉱石のことだよ!」
……思い出した! 以前採掘場で黄色い鉱石と七色に光る鉱石を採取した事を。
この鉱石、未加工ではあるが宝石の原石である可能性が高いのでもしかしたら高く買い取って貰えるかもしれない!
俺はさっそくこの鉱石を売ろうと考えたが……
「……これってどこのお店で買い取って貰えるのかな……?」
「前にも言いましたが……武器や防具の素材になるかもしれないので……武器屋さんか防具屋さんとかでしょうか……?」
「首都に来ているんだ、もしかしたらコレを高く買い取って貰える店があるかもしれないからとりあえず商業地区へ行ってみようぜ!」
野中の言う通り、首都ならどこかにこの鉱石を買い取ってもらえる専門店の1件や2件はあるだろう。
俺達はそれらしいお店を探しながら商業地区へと向かった。
◎首都 ~商業地区~◎
商業地区には沢山の店が立ち並んでいた。
昔から営業している老舗らしき店もあれば、"New OPEN"の看板が立てられている新規開店のお店、広場の至る所にある露店等々、あちらこちらに様々なお店が展開していた。
商人、貿易商、お客さんと商業地区は多くの人があちらこちらと行き交っているので、まるで東京のスクランブル交差点のような雰囲気を感じる。
YAMAさんとはぐれないように鉱石を買い取ってくれそうなお店がないか一軒ずつ確認していると……
「! 稲島さん……あそこにアクセサリーショップが……」
「アクセサリー!」
YAMAさんの後について行くと商業地区の大通りに面した数多く立ち並ぶ店舗の中に"アクセサリー"と書かれた看板が掲げられている店があった。
アクセサリーショップであれば、この未加工の鉱石を鑑定して貰えるかもしれないし、質が良ければ高く買い取ってくれるかも……!
さっそく俺達はアクセサリーショップの中へ入り込んだ。
「いらっしゃいませ……」
「いらっしゃい!」
店内に入ると入口の横にカウンターがあり、そこには初老の店主らしき男性と女性がいた。
雰囲気から見て夫婦なのだろうか、片眼鏡を掛けた初老の男性はこちらに挨拶した後、顔を下に向けて机の上で黙々と作業をしている。
同じくカウンターにいる初老の女性が笑みを浮かべながらこちらへと向かってきた。
「いらっしゃい! 何かお探しですか?」
「はい、実は……」
俺が手に入れた鉱石を見せようとすると、初老の女性が「ハッ!」とした顔をする。
「婚約指輪ですか? そちらにいるのは奥さんかしら?」
「え"ッ!?」
「ん"ッ!?」
俺とYAMAさんの声が裏返る。
どうやらこれから結婚する夫婦と勘違いされたようだ、俺は慌てて弁明する。
「い、いや、コレを見て……」
「あっら~! これを指輪に?」
俺は動揺して慌てていたせいか言葉足らずでキチンと説明が出来なかった。
見せた鉱石を指輪にして欲しいと勘違いされてしまい、さらに話をややこしくしてしまう。
「いえいえ! この鉱石を買い取って貰う事とか出来ますか?」
「あっ、あぁ! そういう事! あらあらゴメンなさいねぇ……私ったらもぅ……」
初老の女性が両手に手を当てながら照れ隠しをする。
ようやく誤解が解けたところで、改めて鉱石の買取りについて話を聞いてみた。
「この鉱石、未加工なんですけど……買取りとかって出来ますか?」
「はいはい、その前にちょっと見てみましょうかね……あなたぁ!」
「あなたぁ」と呼ばれていた事からやはりこの2人は夫婦なのだろう。
カウンターにいる店主の旦那さんは作業を中断し、こちらへとやってきた。
「これは……どれどれ」
旦那さんはズボンのベルトに取り付けているポーチから鑑定士がよく使用しているジュエリールーペを取り出し、目を細めながら鉱石の細部を観察している。
左手で鉱石を持ち、あらゆる方向に傾けたりしながらじっくりと時間を掛けて鑑定してくれた。
「……これは"シトリン"と"レインボーオーラ"だね」
この鉱石を手に入れた時と同じ名称だ。
「この鉱石は……何かの素材として使えるんですか?」
「いや、これらの鉱石は"宝石"の分類になるね」
宝石! この言葉を聞いた瞬間、俺は「高く売れるぞ!」と大きな期待を膨らませた。
さっそく買い取って貰えるか聞こうとすると、先に旦那さんが宝石について詳しい説明を始めた。
「これら"宝石"はね、ただのアクセサリーとしてではなく"守護石"としてウチでは取り扱っているんだ」
「守護石?」
「鉱石はたくさんあるけど、一つ一つにね、その石には"力"が宿っているんだよ」
「知ってます……"パワーストーン"ですね……」
パワーストン、それなら俺も聞いたことがある。
天然石をブレスレットやネックレスに加工して、自分に合う石を身に着けると運勢が上がったりする……っていうやつ。
一時期俺の母親が購入していた事があるが、本当に効果があるかどうかは半信半疑だ。
「この黄色い鉱石はね"シトリン"と言って、"太陽のエネルギー"をもつと言われているんだ 困難や壁が生じても、それを克服する勇気と知恵を与えてくれる石なのさ」
「へぇ……そんな意味があるとは……」
「この七色に光る鉱石は"レインボーオーラ"と言って、潜在能力を引き出して心身全てのエネルギーを活性化させる事が出来る石と呼ばれている」
説明を聞いてみると確かに石の特徴から見てその様な雰囲気を感じられなくもない。
スピリチュアルの類の話はあまり信じない俺だが旦那さんが嘘をついているようにも思えないので、不思議とこの鉱石に神秘性を感じられる様な気がした。
「このままでも買い取ってあげられるが……加工してアクセサリーにして渡す事も出来るがどうするね?」
「うーん……どのみち売るつもりだからなぁ……」
俺が悩んでいると野中からアドバイスが届いた。
「なぁ稲島、さっきの旦那さんの説明が本当だとしたらさ……アクセサリーにして貰って装備してみたらどうだ?」
「装備?」
「ステータス画面の装備覧に"アクセサリー"があるんだよ もしかしたら装備品として手に入るんじゃないか?」
すると俺の視界にステータス画面が現れた。
☆稲島 毅(Takeshi toujima)ステータス画面☆
◎男性
武器:弓 装備:鉄の兜・鉄の籠手・鉄の鎧・鉄甲のついたズボン・鉄のブーツ アクセサリー:なし
「あっ本当だ」
一番右端に"アクセサリー"がある。
旦那さんの鉱石の説明が本当であればそれが"特殊効果"として発揮されるのではないか……?
そう考えると売るよりもアクセサリーにしてもらった方が良いように思えてきた。
「YAMAさん、この鉱石だけどアクセサリーにしても良いかい?」
「はい……そういう事でしたら……」
「それじゃあアクセサリーとして加工して下さい! ……ちなみにお幾らになりますか?」
「この鉱石の大きさだと……指輪になるね 加工代と2つの指輪のリング代で300Gだね」
「それでお願いします!」
鉱石を売る予定であったが、旦那さんの説明と野中のアドバイスでアクセサリー装備として購入する事にした。
効果があるかどうかはわからないが新しい装備品を手に入れられたのだから良いとしよう。
「それじゃあ2人の指のサイズを測らせてもらいましょうかね」
奥さんが指のサイズを測るためにメジャーを取りに別室へと向かい、旦那さんは鉱石を持って奥の部屋へと向かう、きっと奥の部屋に加工する作業場があるんだろう。
「YAMAさん、あの2つの鉱石で好きな方があれば譲るよ」
「良いんですか……それでしたら私……レインボーの方がいいですね」
「じゃあ俺は黄色い方!」
指のサイズを測った後、お互いに選んだ鉱石を旦那さんに伝えて自分のサイズ合った指輪に取り付けてもらうようお願いした。
鉱石の加工には時間が掛かるので、指輪が完成するまでの間、商業地区を見て回ることにする。
「さてどこへ行こうか……YAMAさん、他に見てみたいところとかある?」
「私……武器屋さんを覗いてみたいです……どんな武器があるか見てみたいので……」
「よし! じゃあ武器屋へ行こうか!」
今度は武器屋を探す。
すると、お店のショーケースにたくさんの武器が飾っているのが見える。
火を見るよりも明らかな程にここが武器屋だ。
お店の大きさはシー・サンの街にある武器屋と同じくらいのだが、中へ入るとすぐに街の武器屋とは規模が違うことに気付く。
「あの弓! めっちゃくちゃ強そう!」
「あぁ……あの刀……業物ですよ……きっと!」
武器のデザインや造形から見て、明らかに強そうな武器ばかりがたくさん店内に並べられていた。
ここにある武器は今装備している武器よりも明らかに攻撃力は飛躍的に上がりそうで、これを手に入れられればどんな敵をも倒せる自信がある。
街の武器屋で取り扱っている武器と比べると種類豊富で高品質の魅力的な武器が圧倒的に揃っていた!
……しかし良い物にはそれ相応の対価がある。
「いち、じゅう、ひゃく、せん……まん……じゅう……ま…………」
「わぁ……」
凄いのは武器だけじゃなく価格も凄かった。
(俺達が来るにはまだ早い世界だ……)
田舎から都会に上京してきた人間が都会のハイソな生活環境についていけずに結局田舎へ戻ってしまう……
そのような気持ちで俺とYAMAさんは武器屋さんを後にした。
「高いねぇ……手ぇ出せないねぇ……」
「はい……」
今度は俺達の身分に合った店がないか探してみる。
お店よりも露店の方が何かあるのではないかと、次は露店の方へと足を運んでみた。
商業地区の中央広場には数多くの露店が展開しており、まるでフリーマーケットのような雰囲気を感じられる。
「中古品ばかりだけど……意外と掘り出し物があったりするんだよね」
「ここなら何か買えそうですね……」
露店に並べられた商品を見ていると、1つの商品が目に入る。
それは"テント"だった。
「組み立て式のテント100Gか……」
「なんだ稲島、テント欲しいのか?」
「いやね、テントがあれば宿屋の宿泊費が節約出来るかなぁ……と思ってさ」
「なるほど……そういう考え方もあるな……」
しかし中古のテントとはいえ100Gは安過ぎる……きっと1人用で所々に穴が開いてたりしてるのかも……
すると露店の店主らしきおじさんが俺に声を掛けてきた。
「そのテントはな3人までなら余裕で入れるよ」
「3人用?! でも100Gって安過ぎないか? ……なんかあるんだろう?」
「穴が開いているな、大きい穴は補修してあるけど所々小さな穴があるしテントも生地も古くて破けやすいが、骨組みはキチンとしているからテントとしての役割は果てせるぞ」
正直に欠点を教えてくれるのは良いが、改めて欠点を聞くと100Gでも払うのかどうか悩んでしまう……
「このテントを買ってくれるなら中古の寝袋2人分と荷物がたくさん入れられる古いリュック2人分もつけてあげるよ」
この店主……商品のデメリットをきちんと伝えながらも客の購買意欲をそそるやり方で売り付けてくる……!
しかし"中古"という品質上、後々の事を考えるとすぐ壊れてしまう印象があるので俺が先行きの不安で悩んでいると……
「稲島さん、ここは買ってみませんか……?」
「えっ? YAMAさん欲しいの?」
「欲しい……というよりも、安くて使えそうな物がたくさん手に入るのであれば……購入するのも良いかなぁと思って……」
うむ……確かに中古とは言え、テントも寝袋もリュックも使えない訳ではないからな。
(壊れてしまえばその時はその時、か……)
YAMAさんのアドバイスで俺は決心した。
「おじさん! このテント買います!」
「おぉ! 買ってくれるかい! 売れ残るのが心配だったから良かったよ、それじゃあさらにオマケで飯盒も2人分あげるね、形歪んでいるけど」
こうして俺は100Gでテントと寝袋、リュックに飯盒2人分を手に入れる事が出来た。
思い切って買ってしまうと不安は消え、寧ろ得した気分になった。
「アドバイスありがとねYAMAさん!」
「いえ……今後何があるかわかりませんから……」
色んな露店を見て回っている内に薄っすらと日が暮れてきた。
夕食までには宿屋に戻らなければならないので、俺達は先にアクセサリーショップで頼んだ鉱石の加工が終了したか確認しに向かう。
アクセサリーショップに到着し、中へ入るとカウンターにいた奥さんが俺達の存在に気づき、微笑みながら小さな箱を2つ持ってきた。
「お待たせ、これが指輪よ」
小さな箱は指輪ケースだった。
奥さんは俺とYAMAさんの選んだ鉱石を知っているので別々に指輪ケースを渡してくれた。
蓋を開けて中を確認すると……
「おぉ…! 綺麗な……」
「……綺麗……!」
俺が選んだ"シトリン"と呼ばれる黄色い鉱石は、加工する前は濁ったような黄色い鉱石だったが、加工後は黄色味の帯びた綺麗な透明度のある石へと変貌した。
飴玉程の大きさだった鉱石は加工後はグリーンピース程の大きさに変わっており、"マリーゴールド・カット"と呼ばれる8角形の綺麗な形状にカットされていた。
YAMAさんが選んだ"レインボーオーラ"は"シングルカット"と呼ばれる形状でカットされており、近くで見てみると石の中で美しい虹がかかっているかの様に七色の光彩を放っている。
「石はね、毎日身に着けているとその人のマイナスのオーラを吸い取ってくれるの! ……でもマイナスのエネルギーを溜め込むと石の効果が効かなくなるから定期的に"浄化"をしてあげてね」
「浄化は……どうすれば良いんですか?」
「そうね、あなたの石"シトリンは"月の光を浴びさせると良いわね、月が出ている日に行うと良いわ、特に満月の美しい夜が理想的ね」
「私の場合は……どうすればいいですか?」
「あなたの"レインボーオーラ"も月の光での浄化も可能だけど……お香やセージというハーブの一種を焚いて、その煙を浴びさせる浄化方法が一番効果的ね」
奥さんの丁寧な説明を受け、俺達は新しい装備である"アクセサリー"を手に入れる事が出来た。
店主さんと奥さんにお礼を言ってアクセサリーショップを後にした俺達は夕飯の時間までに宿屋へと戻る事にした。
初めて訪れた首都で新たな装備とアイテムを購入出来て俺はとても満足していた。
明日の朝にはまたシー・サンの街に戻ってしまうが、今度首都に来るときにはお金に余裕を持って今日よりも良い買い物をしたい……。
(これからも色んな依頼を受けて……たくさん稼がないとなぁ……)
俺はいつか必ず首都へと戻り、買えなかった強い武器や装備を手に入れてやる……! と、心の中で密かに誓った。