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操作キャラは、俺!  作者: けっぱる
7/21

苦労は嫌だけど良い体験にはなる

 俺は森で暮らしている猟師さんと共に"バケモン猪"を討伐する為、森の奥深くまでやってきた。 

森の奥は見渡す限り高い木が立ちそびえており、上を見れば木から大量に生えた"葉"が日の陽を遮っているので森の中は薄暗い、しかし森で長く暮らしている猟師さんは薄暗い森の中でもまるで自分の住んでいる家の中を歩く様にズンズン奥へと進んでいく。


「こんな所にバケモン猪がいるんすかぁ?」

「この辺りで猟をしてた時に出会ったんよォ! それにここにはデッカイ"沼"があるからなッ!」

「沼?」

「猪ってのァ、ダニや寄生虫を落としたり体温調整をする時は水や沼に入って"水浴び"や"泥浴び"を行うんだッ!」


なるほど、デカい猪が泥浴びを行うならこれまたデカい入浴場が必要な訳か。

また猟師さんの話だと森の奥は猪が好む食材『※昆虫やイモ類等』が豊富な為、暫くはこの辺りに潜んでいる可能性が高いと考えているらしい。 

暫く歩いていると先程話に出た"沼"が現れた、沼の大きさはテニスコート一面分程ありこの広さじゃないと入れないバケモン猪は相当の大きさであると思われる……。


「ホレェ! これを見てみろ坊主ッ!」


猟師さんが指差した方を見ると地面に茶色の大きく歪んだ球体が幾つか落ちている、よく見るとそれは動物の「糞」だった。

すると猟師さんがどこから拾ってきた木の棒を手に取り、糞を突きはじめた。


「まだ柔らかいなァ……こいつぁ近くにいるぞォ」

「近くにって……バケモン猪……?」


すると俺の手が勝手に弓を掴み、戦闘体制へと移行した。

きっと野中がいつ襲われても対抗出来るように操作したのだろう、俺の視線はゆっくりと時計回りに動きながら森の周辺を見渡している。


「気ぃつけろよォ……」


俺と猟師さんは寄合ながら警戒態勢に入った。

息を殺し、聴覚と視覚を研ぎ澄ましながら薄暗い森から聞こえる音や動物らしき影に注意を払っていると……


「あっ!」


野中が何かに気づいたのだろうか。 野中の声で俺の身体はビクッ! と痙攣した。


「どうした野中?! 何かいたのか!」

「いや……、その……、どうでも良い事なんだけど…いや、どうでもって事でもないんだけどさ……、急に思い出したもんで」

「? ……なんだよ一体?」

「稲島さ、このゲームで何回か戦っている内に"レベル"が上がっている事を思い出してさ、今のうちに各種ステータスとか上げたらどうかなって……」


そういえば……そうだ。

確かレベルが上がったのはYAMAさんと一緒に"食人花討伐"に出掛けた時、そのまま街へ戻って以降ステータスの割り振りもしていなかった。


「ここらでステータスを強化しておけば少しは強くなるんじゃないか?」

「そうだな、少しでも強くなるなら……」


バケモン猪が現れる前に、俺は野中にステータスの割り振りを頼んだ。



 

☆稲島 毅(Takeshi toujima)ステータス画面☆ 

 ◎男性 

 武器:弓 装備:布の服・布のズボン・布の靴 アクセサリー:なし

 ◎レベル2

 ◎攻撃力:5(弓装備+6)=11/500

 ◎防御力:2/500

 ◎スタミナ:10/500

 ◎魔力 :5/500

 ◎素早さ:4/500

 ◎運  :56/500


 ※獲得強化ポイント 10P※




 このゲームでは、レベルアップをすると自分のステータスを強化する事が出来る「強化ポイント」を獲得出来る。

 強化ポイントは1ポイントずつ自分の好きなステータスに割り振る事が出来るので、全ステータスにバランスよく割り振るも良し、全ポイントを使用して一つのステータスを一気に強化するも良し。

 この"ステータス強化"は今後の活動や戦闘に大きな影響を与える為、じっくりと考えなくてはならない。


「改めて見ると……なんで"運"だけ2桁なんだろうな……」

「一番低い値は……"防御力"だな、少し上げておくか?」


 野中とじっくり話しながらどのステータスを強化するか考えていると、静かな声で猟師さんが話し掛けてきた。


「おいッ……! なんか変な音が聞こえねぇかァ……?」

「えっ?」


 猟師さんは目を閉じて両手を耳に当てている、俺も猟師さんの真似をしてみた。

 聴覚を集中させると森中からあらゆる音色が聞こえてくる。


「コォオオオ…」


「ピピピッ……チチチ……」


「ザザァ……ザザァ……」


「チロチロチロ…………」



 風の音、小鳥の鳴き声、風で木の葉や草が揺れる音、小川の流れる音……自然の中で奏でられる音色は美しい……。

 しかし猟師さんが言う"変な音"というのは聞こえない、俺はもう少し耳を澄ませてみる。


「コォオオオ……」


「チチチッ……」


「ザザァ……」


「チロチロ……」


「…ド……ドド」



 美しい自然の音色の中に何か一つ増えたような気がする、しかしそれは"美しい"とは少し違う印象だ。

 俺はもう一度、よーく聞こえるよう耳を澄ませてみた。



「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!」



 耳を澄ませなくてもその"音色"はハッキリと聞こえていた、それだけじゃない、音が近づくと共に地面が揺れている。

 これはもしや……!


「坊主ッ! 隠れろゥ!」

「おっ……おおッ?!」


 猟師さんに引っ張られて俺は草むらの中へと放り込まれた、しかしなぜ草むらに放り込まれたのか俺にはその理由がわかっている。


「野中……しゃがんだ状態にしてくれ、何かいる……!」

「わかった!」


 猟師さんが草むらの陰から"何か"を覗いている。

 

「うぉおおン…… 坊主……見てみろッ」


 しゃがんだ姿勢でゆっくりと猟師さんの傍まで近づく、猟師さんが手で草を分けた場所から覗いてみるとそこには俺が"予想"していたモノが現れていた。



「ブビィィイイッ!!!!! ブシューブシュー……」



 予想どおり……いや、予想を遥かに超えていた……俺の視界にはけたたましい鳴き声をあげながら荒い鼻息を出している"バケモン猪"の姿だった。


「……!! ちょッ! デカすぎねぇスか?!」

「だから"バケモン猪"なんだよォ!」


 俺が予想していた"バケモン猪"の大きさは馬くらいの大きさだと考えていたが、実物は見た限り体長おおよそ6m身長は3m位で動物園で見たゾウ位の大きさ、体毛は汚れており身体中の所々に木の葉や大きな枝が絡まっている。

 バケモン猪は大きな鼻を地面にこすりつけるように臭いを嗅いでいる、餌でも探しているのだろか? 鼻を動かす事に大きな鼻息で地面に生えている草花が飛び散る様子を見て俺は少し……いや、めちゃくちゃビビっていた。


「坊主……ゆっくりと動け、もしかしたら俺達を探してるかもしんねぇゾォ……」

「マジっすか……? あれって餌を探してるんじゃ……?」

「猪ってのはァ犬並みの嗅覚があるんだよォ……、もしかしたら普段嗅いだことのない匂いを嗅いでるのかもしれんッ!」


 "普段嗅いだことのない匂い"……それは俺達人間の"匂い"なのだろうか?

 このままこの場所に居続けると見つかる恐れがあるので猟師さんの提案で一旦この場から去り、小屋に戻って今一度討伐の計画を練り直すことにした。

 隙を見て俺と猟師さんはその場からゆっくりと去っていく……ある程度離れてもバケモン猪が追ってこないかを確認しつつ警戒しながら森の中を駆け巡ること10分、俺達はようやく猟師さんの小屋へと無事戻ることが出来た。


「あっ……お帰りなさい……モグモグ……」


小屋の中では留守番をしていたYAMAさんがいる、猟師さんが出してくれたクッキーをまだ食べていた。


「どうでしたか……猪」

「デカすぎてなァ! 尻尾を巻いて逃げてきたワイッ! ヌゥアハハ!」


 尻尾を巻いて逃げて正解だ、あんな大きな猪を一発で仕留められる筈がない。

 とりあえず俺と猟師さんは椅子に腰を掛けて一服しながらバケモン猪の討伐について別の策を考えることにした。


「あんなデカい猪……どうやって倒すんスか……?」

「初めて間近で見たけどよォ……普通の猪用の罠は使えねぇだろうし、なにしろあんなにデケェんだ! 簡単には仕留めらんねッ!」

「傭兵さんに頼んで討伐してもらうとかどうですか……? モグモグ……」

「首都にいる傭兵伝えるまで時間が掛かるッ! その間にあのバケモン猪が人里まで来ちまうかもしれねぇからなッ! 今俺達が仕留めねぇとダメだ! ……でも簡単には仕留めらんねッ!」


 猟師さんの言う通り、今は森の奥にバケモン猪は潜んでいるが何かの拍子で街道や街の近くまで来たら大変な事になる、それがまだ先の事かもしれないし……もしかしたら"今"なのかもしれない……。

 簡単には仕留められないと猟師さんは言うが、だからと言って見過ごすせば人的被害が起こってしまうだろう、俺は何か良い策がないかあらゆる知恵を絞る。


「せめてなァ……なんとか動きを止めて距離を取りながら攻撃できれば良いんだがァ……」

「そんなに大きい猪だったんですか……? モグモグ……」

「ゾウ並みの大きさだったよ! あの……"けものの姫"に登場した猪! あんな感じだったよな稲島!」

「あ…知ってます、鼻で仲間の身体に泥を塗ってるシーンとか胸熱でしたね……モグモグ……」


 何気ない二人の会話の内容から俺はふと猟師さんの話を思い出した。


「猟師さん! 猪って確か……沼に入るんでしたよね?」

「んッ? あぁ……"泥浴び"の事か? ダニとか寄生虫とか落とすのに水や泥に入って……」



「……それだあァッッ!!」


 猟師さんから改めて"泥浴び"の説明を聞いた瞬間、俺はバケモン猪を討伐する素晴らしいアイディアを思いついた。


「うォおおん?! どうしたッ! びっくりしたぞォ!」

「思いついたんスよッ! バケモン猪を仕留められそうな方法をッ! いいっスか? 猪の習性である"泥浴び"を……」

「おい稲島ッ!!!」

「どうした野中……俺は今素晴らしいアイディアの説明を……」

「やっ、YAMAさんが!」


 俺の視点が下の方へと移動した。


「……YAMAさん?!!」


 なんとYAMAさんが口から泡をブクブクと吐いて床に倒れている! 顔は青白くなっていて、見るからに危険な様子だった。


「アイェエェ?!! なっ……YAMAさん! 何があった?!」

「お前が大声だすからぁ! YAMAさんがびっくりしてクッキー喉に詰まらせたんだよ!!」

「イカンなァ! これはイカンッ! イカンッ!!」


 猟師さんがYAMAさんの後方へと移動し、手で胸を支えながら俯かせるともう片方の手で背中の肩甲骨の中央部分を力強く叩く。

 4~5回ほど叩くと口の中を覗いて指を突っ込むと、喉に詰まらせていたクッキーを取り出した。


「ふぅ! これで一安心じゃッ! ヌゥアハハハハ!(パク)」


(?! YAMAさんの口から取り出したクッキーを食べた……?!) 


 何はともあれYAMAさんの一命を取り留める事が出来て俺はホッとした。


「ゲホッ……ゲホン……ケホォ……」

「ごめんねYAMAさん……驚かせてしまって……」

「ところで坊主ッ! 先程話していた"素晴らしいアイディア"とはなんの事だッ?!」


 YAMAさんの無事を確認したところで、今度はみんなを驚かせないよう落ち着いて説明をする事にした。



「猪の習性である"泥浴び"を利用して……バケモン猪の動きを封じるんスよ!」

「泥浴びで……? 動きを封じるッ?! 一体どういう事だ坊主ッ!?」


 みんな、どういう内容なのかイマイチわからないようなので俺はさらに詳しい内容を説明する。


「あのバケモン猪を初めて見た時体毛が汚れてましたよね? あれは多分"泥浴び"が原因で汚れたモノだと考えられる! つまり、あのバケモン猪はあの沼で泥浴びをしている事になりますよね?」

「あぁ……そうかもな」

「あの"沼"に何か"細工"をしてバケモン猪の動きを封じ込めて! 動けなくなった所を一斉に攻撃する! ……という事ですよォ!」


 あぁ……なんと素晴らしアイディアなのだろうか! 猪の習性を上手く利用した策! 我ながら本当に良い事を考えたと、俺は内心自分で自分を褒めていた。


「稲島、質問していい?」


 野中から質問が来た。


「んっ! どぞ!」

「……沼に仕掛ける"細工"ってなんだ?」



 ………………………………………"細工"についてはまったく考えていなかった。



「それはなぁ……えっと、沼に……大きな穴を掘る……とか!」

「落とし穴か? 沼に穴掘ってもお前……掘っても泥で穴が塞がっちゃうから意味ないだろ……」


 そりゃそうだ、自分で説明していても意味がないという事は理解していた。 

 素晴らしいと思ったアイディアでも内容がきちんとしていなければ意味がないのだ……当たり前の事だけど。


「ネバ芋使って沼の泥の粘着性を高めてみたらどうだッ?」

「えっネバ……?」

「"ネバ芋"だ! この森の地中に生えている天然の芋の事だッ! 見た目は普通の芋だがなッ、潰すと粘着のある"ネバネバ"が作り出せるんだ!」

「でも……芋の粘着力なんかで動き封じられますか……?」

「それがよォ! 思いのほか強い粘着力だから建築塗料の材料や船の造船材料としても使われるんだゾォ!」


 それは……中々の粘着力やもしれん。 しかし芋の粘着力だけだと不安が残る……と思っていると更に猟師さんから頼もしい情報が舞い込んできた。


「さらに粘着力を高めるならよォ……この森の土を少し掘ると粘土層があるからよォ、そこから掘れる粘土もこれまた"粘り"が強い性質だからよォ! ネバ芋と混ぜたらより強力な粘着力になると思うぜェ!」

「それだァ!!」


 さっそく俺は猟師さんと一緒にスコップ片手に外へと出て"ネバ芋"と"粘土"を掘りに行く、まず最初は"ネバ芋"の採取から始めることにした。

 ネバ芋は普段は地中に埋まっているが地面の表面に綺麗な花を咲かせているので、その花を見つけて引っこ抜くと芋が手に入るらしい。


「ネバ芋は食べ頃になると粘りがなくなっちまう! しかし未熟状態のネバ芋なら粘着力は凄まじいんだゾォ!! ……おゥ! あの花だッ!」


 猟師さんがネバ芋の花を見つけた。 葉の付け根から花茎が長く伸びており、白い花弁が星形になっている小さくて可愛らしい花だ。 猟師さんは花を見つけると葉の部分を手でしっかりと掴み、下半身に力を入れ花を引っこ抜く。

 すると地面から大小実のついた芋がゴロゴロと現れた。


「これが"ネバ芋"だ! これを皮ごとすり鉢で磨り潰すと粘り気のある液状に変わるのゾォ!」



 次に"粘土"の採取だ。この森の地面を掘れば"粘土"はすぐに手に入るというので、小屋近くの地面を掘ってみると2~3回掘ると地面の色が若干薄茶色に変化した。

 薄茶色の土を一つまみ取ってみると、まるで"噛んだガム"の様なベトォ~っとした強い粘着性がある。


「うわぁ……気持ち悪りぃほど粘つくなコレ……」


 しかしこの粘りがバケモン猪の動きを封じる頼もしい重要素材であることに強い期待感を感じる。

 "ネバ芋"と"粘土"を手に入れた俺達は小屋へと戻り、猟師さん指導の下この2つの素材でさらに強力な"粘着物質"の制作へと取り掛かった。


「よぉーしッ! これより強力な"粘着物質"をつくーるッ!!」

「よろしくお願いしまッス!」

「よろしくお願いします……モグモグ」


 まずは"ネバ芋"を皮を剥かずにそのまますり鉢に入れて芋がベチャベチャになるまですり潰していく、すると……


「おぉ! とろろみたいになってきた!」


 磨り潰す度に粘着力が増し、最終的にはすり鉢の鉢とすりこぎがくっついて離れないほどの粘着性が生まれた。

 次にすり潰したネバ芋に少量の"粘土"を加えて混ぜ合わせてみると……


「あぁ~……もう鉢とすりこぎがとれません……」



 ネバ芋と粘土の強い粘着力を混ぜ合わせた結果、とてつもなく粘着性の強い"粘着物質"が完成した! 納豆の数倍……いや、数億倍の"粘み"が捕らえた獲物を簡単には逃がさないだろう。


「うむッ! これだけの粘着力なら大丈夫だなッ! ヌゥアハハ!」

「それじゃあこの"を粘着物質"を沼に入れれば……!」

「猪の動きを封じられますね………モグモグ」


 こうして俺達は出来るだけ多くのネバ芋と粘土を手に入れ、3人で磨り潰すなどの下準備を夜遅くまでひたすら続けていた。




◎森 (深夜2:08分)◎




 日付は変わり森は夜の闇一色に染まっていたが、長年森の中で暮らしている猟師さんの案内で俺達は昼間に遭遇した"バケモン猪"と出会った場所へと迷うことなく辿り着くことが出来た。


「猪って夜行性と聞いたんスけど……大丈夫なんスか?」

「猪ってのァ……本来は昼行性なんだ、夜間行動する時ってのはァ俺達人間が活動している時間帯を避けているらしいぜェ……! まぁ、この森には俺以外の人間しかいねぇから夜は寝てると思うけどなッ……」

「それじゃあ今がチャンスなんですね……モグモグ」


 今回はYAMAさんも同行し、みんなでバケモン猪が泥浴びする可能性がある"沼"にネバ芋と粘土を混ぜた"粘着物質"を混ぜに来た。

 手順としてまずはバケモン猪の存在の有無を確認した後、3人で手分けして沼のあちらこちらに粘着物質を流し込み、すべてを流し込んだらバケモン猪が沼に入るまで草むらで待機して動けなくなった所を一斉に攻撃……という流れだ。

 まずは夜目に慣れた猟師さんが草むらに身を潜めながら沼付近にバケモン猪がいないかを確認する。


「…………大丈夫だッ猪の野郎はいねェ、今がチャンスだァ!」

「了解……!」

「もぐもぐ……ごくん、……了解!」


 まずは沼岸に"ネバ芋"を磨り潰して液状化したものを流し込む、猟師さん曰く沼の中にも粘土質の土が 多少含まれているのでそれと混ぜ合わせれば足止め程度にはなるとの事だ。


 森に落ちている大きな木の枝を使ってネバ芋と沼の土をよく混ぜ合わせる。

いつどこからバケモン猪が襲ってくるかわからない恐怖に怯えながらも、俺達は沼岸周辺にネバ芋を流し込んでは混ぜる作業を繰り返していた。

 ある程度沼岸にネバ芋を流し込んだ後、最後は沼にネバ芋と粘土を組み合わせた"粘着物質"を投げ入れる作業を始める。


 小屋で予め大量に作っておいた"粘着物質"を大きめの葉っぱに包んでここまで運んできた。

 包んだ葉っぱを開いて、そのまま沼へ投げ込む、すると沼に落ちた粘着物質は水底へと沈んでいく。


「沼の至る所に投げる事で猪の奴が泥浴びをする際、身体に粘着物質がへばりついて思うように身動きができなくなるってわけさ!」

「へぇ……なるほど……」


 こうしてバケモン猪が訪れる前に沼の至る所に"細工"を仕掛けることに成功した。 あとは安全な場所に隠れながらバケモン猪が現れるのを待つだけだ……。



ヒュン!



 急に猟師さんが"何か"を沼へと投げた。


「何投げたんっスか?」

「猪野郎が沼へと確実に入り込むための"罠"さァ!」


 念には念を押した所で俺達は安全な場所へと移動して、バケモン猪の出現を待っていた。




◎森 (朝6:28分)◎




 沼全体が見下ろせる高い場所に移動し、草むらに隠れながら"細工"を施した沼を見張る事約4時間。

 未だにバケモン猪は沼に来ない、俺も猟師さんもYAMAさんも夜遅くまで作業をしていたせいか疲れが出てきて眠くなってきた。


「稲島ーッ、起きてるかぁー」

「んっ……起きてるよー」


 噓、実は少し寝てた……。 日は少しずつ昇りはじめて薄暗かった森の中に日の陽が差し込み、視界がはっきりとしてきたがバケモン猪の姿は見当たらない。


「野中は眠くないの……?」

「こっちの世界(現実)はまだゲームプレイ開始して2時間位だから大丈夫だよん」


 俺のいる世界(仮想現実)で何度目の朝を迎えたのだろうか、閉じ込められてから結構な時間が経っているような気がする……。

 YAMAさんの様に自分と同じ状況下にいて助け合える仲間がいるし、架空のキャラクターとはいえ多くのキャラクターが冒険の手助けをしてくれるから正直……今のところ不安は感じない。

 危険はあれどなんだかんだで、俺はこの世界(仮想現実)を楽しんでいるのだろうか……? そう考えると俺は危機感がないというか、お気楽というのか……。




(ド…ド…)





 どこからともなく音が聞こえたのに気が付く、これは……聞き覚えのある"足音"だ……! 俺はすぐさま眠りかけている猟師さんを起こした。


「猟師さん! 猪の足音ッス!」

「ん……お、おゥ? 来たのかァ……?」


(ドッ ドッ ドッ ドッ……)


 足音は走ってくる音ではなく、一歩一歩ゆっくりと歩いている足音だ。

 力強い足音は近づくにつれて大きくなり地面も大きく揺れる、そして遂に俺達の目の前に足音の"主"が現れた。


「ブルルッ……フシューッ……」


 バケモン猪だ。

 改めて見るとやはりデカい、あとはそのまま沼に入ってくれれば……と願っていたら、願い通りにバケモン猪が沼へと近づいている。


「俺の投げた罠に掛ったなァ……!」

「何を投げたんですか?」

「トリュフだ! それにあのバケモン猪……雌かもしんねェ!」

「なぜ雌だと……?」

「トリュフってのァ、発情期の雄豚の匂いに似てるらしいんだ! 奴ァ猪だが豚と同じ仲間だからな、効くと思って持ってきたんだッ!」


 さすが猟師さん抜かりがない、動物の特性を利用した罠のおかげでバケモン猪は沼へと足を入れた。

 トリュフの匂いを嗅ぎながら沼の中を歩き回るバケモン猪の身体を見てみると、沼から粘液らしき物質が付着しており確実に"罠"に掛っているのがわかる。


「攻撃準備だッ! 矢はあるか?!」

「大丈夫ッス!」

「嬢ちゃんは"投げ槍"持ってきているなッ?」

「……はい!」



 俺の矢筒には猟師さんが作ってくれた"毒矢"が入っている、YAMAさんにもこれまた猟師さんが作ってくれた"お手製投げ槍"が渡されていた。

 猟師さんが調合して作った即効性の高い"毒"を矢尻と投げ槍の先端部に予め塗布して、安全な距離から沼で動けなくなったバケモン猪に向かって当てるのだ。


「扱いには気ぃ付けろよ! それと猪を狙うときは"腹"を狙うんだッ! 猪の毛は固いが腹部なら柔らかいから当たるかもしれねぇ!」


 猟師さんはそう言うと愛用のボウガンに毒矢を装填した。

 俺も野中に毒矢を装備してもらい矢筈を弓の弦に番え、YAMAさんも背中に背負った数本の投げ槍から1本手に取って投げる準備をする。

 全員が攻撃態勢を維持しながら沼にいるバケモン猪の様子を見ていた。



「ブフフフッ!!! ……ブフォッ!!」



 するとバケモン猪が匂いの"素"を探し回るうちに身体中に付着した粘着物質のせいで体の自由が利かなくなっていた。

 沼から足を上げようにも上げられない様子から沼の中に仕掛けた粘着物質に足を取られたのだろう。


「今だッ! 射れッ! 投げろォオ!!」


 猟師さんの合図と共に皆が一斉に攻撃を開始した! 指示通りバケモン猪の腹部を狙い矢を放つと見事矢は腹部へと狙う。


「……フンッ!!」


 YAMAさんの投げた投げ槍はバケモン猪の頬に命中した! ……しかしこの攻撃でバケモン猪が大きく暴れ出し始めた。

 猟師さんもボウガンを撃ってはすぐに装填し、どんどん攻撃をする。



「ブビィイ"イ"イ"イ"イ"イ"!!!!」



 "苦しさ"と"怒り"を交えたような大きな鳴き声をあげるとバケモン猪は沼から一気に抜け出した! 火事場の馬鹿力というやつだろうか、あの強い粘着物質が入り混じった沼から勢いよく脱出すると鼻を上に向けて臭いを嗅ぎ始めた。


「ヤバいッ! 俺達を探してるゾォ!!」


 するとバケモン猪が俺達の方へと顔を向けた! 俺達の存在に気付いたバケモン猪は崖下から文字通り"猪突猛進"で向かって来ると大きく跳躍して崖へと向かって飛んできた!


「うぉおお! 飛んできたぁ!!」

「あいつゥ!! 崖を登ろうとしているゾォ!」


 バケモン猪は助走をつけて崖へと登ろうとしている、しかし崖際に前足が着くも上手く着地出来ず後ろ足が崖下へと滑り落ちてしまう。

 しかし落ちる様子もなく必死で這い上がろうとしており、このままだと崖際から這い上がって俺達を襲ってくるかもしれない!


「フンッ!!」


 するとYAMAさんが投げ槍をしっかり手に掴んでバケモン猪の顔面に向かって突き刺し始めた。


「嬢ちゃんッ! あぶねぇぞ!」

「いえ! こちらが攻撃しないとッ! 登りきる前に攻撃して落とすんです!!」

「おぉ! 嬢ちゃん女だけど男みたいだなッ!」


 猟師さんはボウガンを手に取り至近距離から攻撃を始めた。


「野中! 俺達も攻撃を続けよう!」

「よっしゃ!」


俺も至近距離から弓矢でバケモン猪の顔面に向けて攻撃をした。


「おりゃおりゃ!」(パシュ! パシュッ!)

「うりゃァアアア!!!! どりゃァアアア!!」(バス! バス!)

「フンッ! フンッ!!」(ドス! ドス!)


用意した毒矢がなくなりはじめる頃には、バケモン猪の顔は血まみれになっていて鳴き声も弱々しくなっていた。

しかしこちらの攻撃に耐えながらも必死に崖を登ろうとしており落ちる気配がない……。


「こいつァ……渋てぇやろうだな……」

「投げ槍が……もうないです……」

「矢も……なくなった……」


 毒矢も投げ槍もなくなり離れた距離からの攻撃が出来なくなってしまった。

 バケモン猪も毒が効いている筈なのだが中々倒れない……このままだと這い上がって来てしまう……!


「こうなりゃ仕方ない……ナイフでいくぞ野中ッ!」

「ぃッよっしゃあッ!!」


もはやナイフで戦う他選択はなかった、俺はナイフを装備してバケモン猪へと向かって走り始める。


「坊主ゥ! あぶねぇゾォ!!」

「危険ですッ! 稲島さん!!」



 無謀だとわかってはいるが時間を掛ければこちらがやられてしまう、俺はこの攻撃にすべてを賭ける事にした!



「どりゃァああ!」(ザックッ!!ザック!!)



 バケモン猪の顔面をナイフで切って、切って、切りまくる。 攻撃力なぞ大した事はないかもしれないが、それでも崖から這い上がるの防ぐ為に俺は攻撃を手を止めない。

 バケモン猪も俺の攻撃を受けながらも必死で這い上がろうと必死だったが……。



「ブッ……ブォオオオオォォオオオォォォッッ!!!」



 突如バケモン猪が顔を真上に向けて悲鳴の様な……雄叫びの様な……大きな鳴き声をあげた。

 俺はその鳴き声に驚き、一瞬身体が硬直して攻撃の手を止めてしまう、しかしバケモン猪は鳴き声をあげた後一向に動こうとしない。


「どっどした……?」


 よく見てみるとバケモン猪の上半身がゆっくりと下へとずり落ちていくのがわかった。

 崖から這い上がろうと必死にしがみついていた前足も力を徐々に後退していき、バケモン猪の身体はまさに崖から落ちようとしている。


「やっ……やったかッ?!!」

「倒し……たんですか……?」


 倒したんだろう……きっと俺の攻撃が効いたんだ! と確信した……その時だった。



『バゴォオッ!!』




「えっ?」




 急に足元が崩れ始めた。


 バケモン猪の身体がまさに崖から離れようとした時、俺の立っていた地面がいきなりバラバラに崩れ俺はバケモン猪と共に崖下へと落ちていく。


「あぁ……、バケモン猪がずっと崖に寄りかかっていたから……重みに耐え兼ねて崩れてしまったんだな……」


 俺は不思議と冷静に状況を把握していた。

 それだけじゃない周りの風景の動きも……まるで時の流れが遅くなったかのようにスローモーションになっている事に気が付く。




(コレは……"死の瞬間"ってやつ……?)




 よくアニメや映画などで"主人公や主要キャラが不意打ちを受けた時など時間が停止したような空気になる"あの"演出"そのものだ。

 これもこのゲームによる"演出"……なのだろうか? ……だとしたら、これって"ゲーム・オーバー"ってやつなのか……?


(…と…さん……!)

(……じまッ……!)


 どこからともなく声が聞こえる。 しかしそれを完全に聞き取る間もなく俺はそのまま崖下へと落下した。


 そして俺の視界は真っ暗になった……。







(……GAMEOVER……か)























「……じまさん!」






「とう……ま!」





「…ずッ! おいッ! 坊主ッ!!」



 真っ暗だった俺の視界が横一直線のぼやけた明かりが見えてきた。 俺は………………目を覚ましたのだ。



「あれ……? あっあれ? 生きてる?」



 俺は起き上がると目の前には猟師さんとYAMAさんの二人がいた。

 驚いた顔をしていたが俺が無事だとわかったのか、すぐに表情は笑顔へと変わる。


「おぉッ!! 無事だったかッ!!」

「よかった……本当に……よかった」


 俺は生きていた。 身体の至る所に痛みはあるが軽くぶつけた程度の痛みでそれ以外大きな怪我はなかった。

 しかし……なぜ俺は生きているのだろうか? いや、死にたかった訳ではないんだけど……、俺が不思議がっているとその答えを野中が教えてくれた。


「稲島、崖から落ちた時にな、先に地面に落ちたバケモン猪がクッション変わりになって地面への激突を避けられたんだよ」

「そ……そうなのか?」

「あぁ、画面から見てたからな! ……ただその後に大きくバウンドして地面に叩きつけられたから心配したけど……まぁ無事でなによりだ!」


 俺は崖から落ちた瞬間に気を失ってしまったようなので記憶はないが、どうやらこのバケモン猪のおかげで命を救われたらしい。



「それとな、バケモン猪が大きな鳴き声をあげたのは……稲島の攻撃がヒットしたからだと思うんだ」

「そなの……?」

「あぁ、必死で攻撃していたら3回程"クリティカルヒット!"の表示が出てな、それが決めてになって倒せたんじゃないかな? これも"運"が高いからかね……?」


 そうか……知らぬ間に大ダメージを3回も与えていたのか……何はともあれ、俺はあのバケモン猪の討伐に成功したのだ……!

 これでようやく……新しい装備を作ることが出来る!


「大きな怪我もなさそうだなッ!! よしッ! さっそくコイツから皮を頂くとするかッ!」


 バケモン猪はデカすぎて小屋まで運べないので、猟師さんはその場で皮を剥ぎ取る作業に取り掛かった。

 

「稲島さん……大丈夫ですか?」

「うん……大丈夫、死ぬかと思ったけど……」

「無茶はしないで下さいね……」



 こうして俺達は無事に装備制作に必要な素材確保とバケモン猪の討伐に成功した。





◎猟師さんの小屋◎





 バケモン猪から剥ぎ取れた皮の枚数は"70枚"、当初は50枚程手に入るかと思っていたがプラス20枚程多めに手に入れる事が出来た。


「あの粘着物質さえ使わずに倒せればなァ使える部分がもっとあったんだが…… まァ、それでもたくさん手に入ったから良しとしよう! ヌゥアハハハハハッ!!」

「これで……安心して仕事ができますね……」

「おぅ! 後でこの大量の皮を街の色んな店に届けなきゃなッ!! オメェらに渡す分も街へ着いてから渡してやるッ!!」

「あざーす! あと、秘薬館のエリィさんの薪もお願いしまッス!」


 すぐに装備品の加工用として使えるよう猟師さんが丁寧に動物の皮を仕上げてくれる。

 これでようやく新しい防具が作れるとホッとしていると野中が声を掛けてきた。


「そういや稲島よ、あのバケモン猪倒した後にまた"レベルアップ"したぞ!」

「マジで?!」

「そういやステータス強化しようとしてたけど邪魔が入って出来なかったからな、ここで強化させておくか?」

「おぅ! 頼む!」


 俺は先の戦闘でまたレベルアップしたようだ。 さっそくステータス画面を開いてみると……




☆稲島 毅(Takeshi toujima)ステータス画面☆ 

 ◎男性 

 武器:弓 装備:布の服・布のズボン・藁の草履 アクセサリー:なし

 ◎レベル5

 ◎攻撃力:5(弓装備+6)=11/500

 ◎防御力:2/500

 ◎スタミナ:10/500

 ◎魔力 :5/500

 ◎素早さ:4/500

 ◎運  :56/500


 ※獲得強化ポイント 38P※




「あれ?! レベル一気に上がってない?!」

「あのバケモン猪が相当強かったんだろうな、経験値がたくさん手に入ったらしくレベル2から一気に5まで上がってたぞ」

「私も……経験値手に入ったのでレベルアップ出来ました……」

「おぉYAMAさんも! それじゃあ俺もさっそく……」



 俺は野中と話し合ってどのステータスを強化するか熟考した。 強化するステータスを決めると野中が獲得した"強化ポイント"を割り振ってくれる。



☆稲島 毅(Takeshi toujima)ステータス画面☆ 

 ◎男性 

 武器:弓 装備:布の服・布のズボン・藁の草履 アクセサリー:なし

 ◎レベル5

 ◎攻撃力:11(弓装備+6)=17/500 +6P

 ◎防御力:10/500        +8P

 ◎スタミナ:20/500       +10P

 ◎魔力 :5/500

 ◎素早さ:14/500        +10P

 ◎運  :60/500        +4P


 ※獲得強化ポイント 0P※




 色々と考えた結果、弱いステータスを2桁になるようにして全体的にバランス良く強化させる事にした。

 身体的に特別な変化は感じられないが、これで少しは強くなることが出来て一安心だ。


「"魔力"は上げなくて良かったんですか……?」

「今のところ魔法を使う予定はないからね、とりあえずはこれで頑張ってみるよ!」


「おーゥ! 全部の皮を仕上げたから街へ行くぞォ!!」


 猟師さんの馬車に大量の"動物の皮"と"薪"を積み込める、そしてそのまま馬車に乗せてもらいシー・サンの街へと向かった。





◎沿岸の街 シー・サン◎





 無事に街へと辿り着くとまずは"秘薬館"へと向かって依頼の"薪"から届ける事にした。


(エリィさんをに猟師さんの顔を見せて安心させてあげたい……)


 馬車を秘薬館の裏口へと移動して待機させると猟師さんが馬車から降りて秘薬館の裏口扉へと近づく。



「エリィッッ!!!!! 俺だッ!!! 薪を持ってきてやったぞォオオオン!!!!」



 猟師さんは大声で扉に向かって叫び出した。

 その大声はあのバケモン猪を倒した時の鳴き声と同じくらいの声量だったのでまたも俺は驚いてしまう。


「猟師さん! ドアをノックすればいいじゃないッスか……」

「いやぁ! 夕方でもあいつァまだ寝ているかもしれないからなッ! これぐらい大声出さんと起きんぞアイツはッ! ヌゥアハハハ!!」


 すると裏口扉が開き、中から女店主のエリィさんが現れた。


「おぉ~! 久しぶりだねぇ~!! 長らく会ってねぇがらぁ死んだかと思ったよォ~!」

「いやァ!! 色々と問題があったんだがなッ!! この坊主と嬢ちゃんのおかげでまた街へ資源を届ける事が出来たんだァ! ヌゥアハハハハ!!」

「あ~っ! アンタらも無事だったんねぇ! ささッ、みんな中へ入りなぁ~」



 俺達は"薪"を運びながら店内へと入った。 相変わらず店の中は強烈な"臭い"が漂っていたが、1日ほど街から離れただけなのに俺は不思議とこの臭いに"不快感"よりも"懐かしさ"を感じた……。



 猟師さんがエリィさんに森の中で起きた出来事を話している、二人とも久々に出会ったから世間話に花を咲かせてとても楽しそうだ。


「そっがぁ……そりゃあ大変だったねぇ……二人共、今回はよくやってくれたねぇ! 今回の報酬だよぉ」

「うわッ?! こんなにいいんですか?」

「ええよぉええよぉ、薪も大量に手に入ったし、この男の仕事も手伝ってくれたしなぁ 受け取れ受取れぇ」


 報酬金として800Gも頂いた! ……これでまた暫く宿屋を利用出来そうだ。


「二人共、この後はなんか予定あるけ?」

「え? あぁ、この後は防具屋さんに行って新しい装備を作りに行こうかなぁと……」

「そうけぇそうけぇ、もしそれが終わったら……また店に来てくんねぇかな? 何度も悪りぃんだけどお願いがあっでな……」

「いいですよ……また来ます……」

「それじゃあコレ持ってけッ!! 約束の"動物の皮"だッ!」


「あざーッス!!」

「ありがとうございます……!」


 必要素材である"動物の皮"20枚を受け取ると俺とYAMAさんは一旦宿屋へと戻り、部屋に置いてあった"鉱石"を持ち出して防具屋さんへと向かった。


「すみませーん、セルフコーナーで防具作りたいんですけど……」

「あーっこの間の! どうぞどうぞ……素材はあるかい?」

「鉄鉱石と動物の皮が……あっ!」


 素材が一つ足りない……。 "革紐"だ。 

 鉄鉱石と動物の皮集めに夢中ですっかり忘れていた……。


「あー……"革紐"がないです……どこで手に入りますか……?」

「革紐はねェ、動物の皮の"端材"から作れるから大丈夫だよ」

「あ……良かった」



 こうして必要な素材は全て準備出来た。

親切な防具屋さんが一から防具の作り方を教えてくれるとの事で、さっそく"鉄の防具"一式の制作を始めることにした。


「それじゃあ作業を分担しようか、お嬢ちゃんは動物の皮を決まった形に切ってもらって、お兄さんには鉄鉱石を精製してもらおうかね」

「はい!」


 素材として使用できるよう鉄鉱石の精製作業に取り掛かった。 まずは熱い竈の中に鉄鉱石を入れて溶けた鉄鉱石を鉄の型に流し込み形を整える。

 ゲームのシステム上、作業は簡単で次々と防具用の素材が出来上がる、金銭上仕方なく自分達で作る事になったがこの制作作業が意外と楽しいもので「これなら今後新しい防具は全部手作りで作ろうかな」と考えていた。


「上手くできているね、それじゃあ最後に端材で作った"革紐"で服と鉄の素材を縫い付けようか」

「はい……」


 最後に素材を縫い付ける作業に取り掛かった。 古い"足踏み式ミシン"で服の各パーツを糸で縫い付け、身体を守る"鉄"素材は糸よりも丈夫な革紐で服にしっかりと結びつけた。

 兜、籠手、服、ズボン、ブーツと様々な作業工程を経て俺達はようやく"鉄の防具"一式を作り上げた。


「いいねいいね、初めてにしては二人とも上手に出来たね、さっそく更衣室で着替えてみなさい」


 完成した鉄の防具一式を試着してみると外側は鉄で守られているのに対し内側は獣の毛で覆われているのでボア素材の服を着ているようでとても温かい。


(少し重いが……まぁ動けなくはない、むしろ防御力が上がった気がする……いや、実際に上がっているんだけどね)


 俺は試着室から出るると防具屋の店主が着心地について尋ねられた。


「いいね、似合う似合う! ……キツくはないかい?」

「大丈夫です、少し重いけど着ている内に慣れるかと……」


 防具屋さんと話をしていると今度は別の試着室からYAMAさんが出てきた。


「あっYAMAさん! どうッすか、着心地は?」

「少しピチピチしてますが……大丈夫です……」


 確かに……俺のと違って少しピチピチしている。

 俺の装備は程よくフィットする感じの着心地なのでそれほど窮屈ではないが、体型の違いなのか女性用はボディラインが強調されており少し窮屈そうに見える。

 同じ装備でも男性女性だと少しデザインが変わっているのはよくある事だし守備力もおそらく変わらないから問題はないだろう。 

 それに……ボディラインはっきりとしている方がお尻や胸など強調される箇所がハッキリと表現されるので男の俺としてはちょっと嬉しかったりする……。


「これで守備に関しての問題は解決したね!」

「はい……それじゃあ秘薬館へ戻りましょうか……」



 何はともあれ、俺達はようやくまともな防具を手に入れる事ができた。

 しかし今後は防具だけではなく、この世界(仮想現実)で生きる術をどんどん身に着けていかなければならない……。


本当の世界(現実)へと戻るまでは……。

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