表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
操作キャラは、俺!  作者: けっぱる
6/21

素材集めはつらいよ

 街の防具屋を訪れた際「防具を作れる設備」があることを知り、俺とYAMAさん二人分の防具を作る為、「素材」を探しに再び街の外へと繰り出していた。


途中、街の雑貨屋で「ピッケル」を購入し、防具作成の必要素材である「鉄のインゴット」の原料「鉱石」を手に入れる準備を整え、街の人から「鉱石」が採掘出来る場所を聞いたところ、街の西側にある岩山に今は使われていない"採掘場"があるとの事。

その採掘場の場所を聞き出し、俺達は岩山へと向かった。


「……絶対何か"いる"よな、採掘場に」

「"…いる"……かもしれないですね……」

「"いない"かもよ……?」



"今は使われていない採掘場"


長年ゲームをプレイしている人間は、この「言葉」を聞いただけで、見ただけで、大体"予想"がついているのではないだろうか。


"採掘場"、要は洞窟、モンスターや賊の「住処」には打ってつけの環境、つまり危険地帯の可能性が高い。


……早い話がこれから向かう採掘場には得体の知れない"何か"が住み着いているかもしれない、という事だ。

ゲームの世界に閉じ込められてから様々な"敵"と出会ってきた為か、外へ出掛けるたびに用心深さが一層強くなりあらゆる"最悪の事態"ばかりを考えるようになっている。

しかしそれが却ってこのゲーム世界で"生き残れる"確率を高くするのであれば、あらゆる事態に備えて多くの"予想"をしておいて損はないだろう。 

そうこう考えている内に草木の生い茂っていた地面は次第に小石と岩だらけのゴツゴツした地形へと変わっていた。



◎蛇紋岩地帯 スネーク・ストーンヒル◎



草や野花といった目に優しい緑色は一切なくなり、見渡す限りの岩石の重苦しい"灰色"が目に映っている。

地面にはそこらに転がっている大小の石ころと大きく突き出た岩の一部が露出しているが、その中に明らかに誰かが通った「痕跡」が道となって残っていた。


「昔、採掘場を利用していた人が通ったんだろうな」


道を辿りながら採掘場へと向かう。

暫く歩いていると道の向こう側から2人の男性が座り込んで話をしながら歩いているのが見えた。

この先に採掘場があるのか、情報収集も兼ねて男性2人に聞いてみる。


「こんにちは~、この先に採掘場……ありますか?」


「あーっ、ハイ この先にね、もう使われていないけどあるよ」


やはりこの道であっているらしい、もう一つ俺は質問をする。


「その採掘場……悪い奴やモンスターとかいません?」

「いやぁ、俺達みたく僅かに取れる鉱石目当てに採掘しに来る輩はいるけど、悪い奴らはいないなぁ……」


詳しい話を聞けば、昔は街や村で使う資源として採掘場が稼働していたが、別な場所で豊富な鉱石資源のある鉱脈が見つかり今ではそちらの方を中心に稼働しているらしい。

しかしこれから向かう採掘場も、まだまだ掘れば質の良い鉱石が見つかるのでちょっとした資源を必要としている人がよく採掘しにくるらしい。


「それこそ腕の立つ戦士が強い武器を作ってもらう為に素材の鉱石を求めてやってくるからさ、悪い奴らも襲ってはこねえのよ」

「なるほど…」


親切に情報を教えてくれた男性2人にお礼をして、再び道を辿りながら採掘場へと向かった。

するとまた道の向こう側から男性や女性らが鉱石の入った袋らしきものを背負ってやってくる。道を進んでいくと先の方向に岩壁の穴から人が出入りしているのが見えた。


「ここ……ですね」


念のため周囲を見渡してみるが、先程出会った男性2人組の云う通りNPCの一般人や商人らしき人物しかおらず、これといって怪しそうな人物は見当たらない。

これなら安心して採掘が出来るだろう。


「それじゃあ鉄鉱石採掘しにいこうか」

「何個……採掘すればいいんですか……?」

「えっとね、1人の防具を作るのに10個の『鉄のインゴット』が必要だから、鉄のインゴット1個作るのに鉄鉱石1個……だから合計で20個の鉄鉱石が必要になるね」


採掘量がわかったところで俺とYAMAさんは採掘場内へと足を踏み入れる。 

木組みの柱で出来た採掘場の入り口の向こうには、岩壁の凹凸部に設置されたランタンや蝋燭の明かりで坑内が照らされており、奥からは誰かが採掘しているのだろう、「カーン」や「コーン、コーン」など金属音が鳴り響いているのが聞こえてくる。

岩壁は入り口近くの岩壁にはピッケルで掘った痕跡が多数あるが資源を採りつくしたのだろうか、誰もそこで採掘している姿は見当たらない。


「もっと奥へ行かないと採れないんだな……」


さらに奥へと進む、ランタンと蝋燭の温かい灯が冷たく暗い坑内を照らしているが少し肌寒くなってきた。

しかし奥の方からピッケルの掘る音が次第に大きくなってくる、きっとこの先に誰かがいるんだろう。

坑内をどんどん進んでいくと、奥の方から日の陽が見えてきた。


「おぉ!」

「広い……!」


目の前には凡そテニスコート3面分程の広い空間が現れた。

上を見上げると高い天井上には自然に形成された大きな岩穴があり、そこから日の陽が差し込んでこの空間を明るく照らしている。

が明るい内に日の陽を利用して、採掘者たちが壁面に集まりピッケルを振り下ろして鉱石を採掘していた。

近くで採掘している人の作業を見てみると岩壁には赤みを帯びた地層があり、そこにピッケルを打ち込むと砕けた地層から赤錆色の石が落ちてくる。採掘者はそれを拾い集め、袋の中に入れて持ち帰って行った。


「あの石が鉱石なのかな……? 取り合えず俺達も掘ってみよう!」

「はい……」


日の陽を利用し、岩壁を見ながら先程と同じ赤みの帯びた地層を探す。

するとすぐに赤みのある地層が見つかり、俺達はさっそくピッケルでそこを掘ってみた。


『カーン、カーン、カーン、カーン、カーン…………ポロポロポロッ』


「おっ稲島、"赤鉄鉱"が2個手に入ったぞ」

「私も……3個手に入りました」


思ったとおり、ここが採掘ポイントだった。

この調子で一気に20個手に入れようと一生懸命掘っていると、一つだけ"別の鉱石"が採れた。


「なんだ……"シトリン"っていう鉱石がとれたぞ」

「シトリン?」


"シトリン"と表記されたその鉱石は、水晶の中に黄色の鉱物が包まれている状態になっており、僅かであるが発色している。


「もしかしたら……今後の武器や防具を作るうえで必要な素材かもしれませんね……取っておいてはどうですか?」

「そうだね、せっかくだし取っておいておこうか 頼むよ野中」

「あいよ」


野中に手に入れたシトリンをアイテム欄に入れてもらい引き続き、鉄鉱石の採掘を続けた。


『カーン、カーン、カーン、カーン、カーン…………ポロッ』


掘り続けているとまた見知らぬ鉱石が採れた。


「レインボー……オーラ?」

「野中さん……珍しい鉱石、よく手に入りますね……」


"レインボーオーラー"と表記された鉱石は、一つ一つ不揃いな大きさの六角柱状結晶がまるで海にいる"ウニ"の様な突起物を思わせる形状をしていた。

鉱石表面を日の陽に当ててみると、"文字通り"七色の光沢を輝かせている。 これも今後の武器や防具の強化素材になるかもしれないので大事に取っておくことにした。

その後も掘り続け、俺達は目標である20個の鉄鉱石を採掘する事が出来た。


「採れたのは良いけど……どうやって持ち…運びましょうか……」

「俺、"採取ポーチ"持っているからこれに入れていけば大丈夫だよ」


以前に秘薬館の女店主から貰った"採取ポーチ"の中に採掘した鉱石を入れる。

こうして防具制作に必要な"素材"を一つ、集めることが出来た俺達は、採掘場を後にし、来た道を戻り外へ出ると、日が暮れている。 思ったよりも長い時間掘っていたようだ。



「稲島さん、重くないですか……?」

「うん……大丈夫だけど、他の素材は持ち運べないかも……」


 鉄鉱石だけで採取ポーチの容量は満タンとなり、本来は腰に巻くウェストポーチを背中に背負う形で運んでいる。

 正直言うと2人で分けて持ち運びたかったが女性に荷物を持たせるのは男のプライドが許さない、ここは我慢して街まで頑張ることにした。


「次は何集めればいいんだ?」

「えっとね……、"動物の皮"だね、そこらにいる動物から剥ぎ取れば手に入るってよ」


 動物がいそうな場所と言えばやはり"草原"や"森"が定番だろう、次の目的地は街の近くにある"草原"へと向かう事にした。

 しかし行きは楽だったが帰りは辛い……、最初は頑張って重たい鉱石を運んでいたが重量の影響で俺のスタミナはすぐに底をつき、歩行困難となってしまった。


「……稲島さん、二人で分けて運びましょう」

「うぅ…ッ、申し訳ねぇ……」

「それじゃあ分けるかー」


 男のプライド、ここにきて早くも折れてしまう、鉄鉱石を10個ずつに分けて運ぶことにしたが10個減っただけで俺の身体は凄く軽くなった。


(時には女性に甘えるのも悪くないな……)


 俺は内心、そう考えながらストーン・スネークヒルを後にする。




◎草原◎




 岩石ばかりの灰色の世界から、再び目に優しい緑の世界へと草原に戻ってきた俺達は周囲を見渡しながら動物がいないかを確認する。


「……! いましたッ」


 YAMAさんが指で示した方向を見ると、遠くの方で一頭の"鹿"が草を食べているのが見えた。


「動物の皮って"同じ動物の皮"じゃないとだめなのかな?」

「いや、違う動物の皮でも防具はちゃんと作れるらしいぞ」


 "それなら問題ない"……が、ここからまた"別の問題"が2つがある、2つの"問題"とはこれだ。



1.「動物をどうやって捕獲するか?」


2.「1頭につき皮1枚だと考えて……あと20頭も捉えなければならないのか?!」



 底辺防具2着作るだけでこんなにも大変な苦労と労働があったとは……、俺はこの防具が完成次第、暫くは大事に使おうと内心思った。


「あの……今日は街へ戻りませんか…? ここで動物の皮を手に入れても持ち運べないですし……」


 そりゃそうだ、捕獲云々の前に荷物がいっぱいなので入れたい物も入れられない状態、外も暗くなってきた為、YAMAさんの言う通り今日の素材集めはここまでにして街へと戻る事にした。




◎沿岸の街 シー・サン◎



 俺達は宿屋で再び宿泊料を支払い、いつもの部屋へと戻ってきた。

 手に入れた鉄鉱石を採取ポーチからゴロゴロと床へとばら撒くと、朝手に入れた"ハニーフラワー"も出てきた。


「あれ? 容量いっぱいなのにどうして入ってたんだ?」

「俺が採取ポーチとは別に野中の衣服についている"ポケット"のアイテム欄に入れておいたんだよ」

「……私もポケットにキノコを入れてます……」

「それじゃあ、後で"秘薬館"に行って売っちゃおうか、でもその前に飯にしよう」


 俺達は下の階にある食堂へと向かい、そこで夕食を食べる事にした。

 食堂にはNPCのキャラクター以外誰もいない、少し前の時間には他プレイヤーが結構いたが例の"問題"発覚後、全員プレイを中断しているのでNPC以外誰もいない。

 賑やかさが欠け寂しい気もする、俺達は取り合えず適当な席へと座って注文をとる事にした。


「YAMAさんはここで食事をするのは初めて?」

「はい…」

「2Gメニューは選ばない方が良い……」

「えっ……?」


 この食堂では安くて2Gから食事が出来るが、安い分食事のボリュームも低い。 以前は最安値の"2Gメニュー"を注文したところ、驚くほど"粗悪な食事"を出されたことがあった。


「ベーコンはね、小さい上に向こうの景色が透けて見える程薄く切れられた状態で出されてね……目玉焼きも使っている卵が小さいのか500円玉位の大きさでさ……コショウの味しかしなかったんだ……」

「俺は操作している側だから味はわからんけど、出された料理を見た時は"これはひどい"と思ったよ……」

「そ、そうですか……それじゃあ遠慮なく……」


 メニューを見てみると食事の写真はないが、書かれている食事は"2Gメニュー"を覗いて良い物ばかりだった。




『シー・サン名物! 沿岸で採れた新鮮魚介類の漁師飯 650G (効果:体力・スタミナ・魔法能力 各+100 一時的UP)』


『森の木の実たっぷり薬草サラダ 250G (効果:体力の最大値上限+50 一時的UP)』


『鹿肉の特製ソースを染み込ませたステーキセット 750G (効果:攻撃力・防御力 各+100 一時的UP)』


etc……




 食事名だけでも美味しそうだが、良い食材ばかりの高級メニューには手が出ない……。

 先の採掘で購入したピッケル2本(1本15G)購入と宿泊費2人分の20Gを支払い、残金は100Gのみ、数多くあるメニューの中から美味しそうで安い自分好みの食事を選ぶ。


「俺はね……"農耕野菜をふんだんに使った濃厚シチュー(小)"にする! YAMAさんは?」

「私は……この"雑穀米炒飯(小)"にします……」



 所持金の都合で"小サイズ"しか選べなかったが"2Gメニュー"よりはマシだろう。 店員さんに注文を済ませ、食事がくるまで皆で"どうぶつの皮"の採取方法について話をすることにした。


「動物の皮の採取についてだけど……どうする?」

「稲島は"弓"持ってるんだからさ、遠くから狙って仕留めるのはどうなの?」

「お待たせしましたー! ご注文のお食事でーす!」

「そうですね……ゆm……、えっ……はやっ……」

「早いッ!!」


 僅か1分程で注文したメニューが届いた。

 他プレイヤーがいないからか? いや、それでも早過ぎるだろ。 短時間で作った料理はどんなものなのか……?


(前回とは違い今回は値段のやや高い食事を選んでいるのだから大丈夫……だと思うが、これで前回と似たようなクオリティなら文句を言ってやる……!)


 内心、そう考えながら店員さんが木製の荷台から食事を取り出すのを見つめる、そしてテーブルの前に出された"食事"に俺は驚いた……!



「……旨そう!」

「わぁ……!」




 今回の食事はとても美味しそうだった。

 俺の注文したシチューは、"一口サイズ"にしては少し大きめに切られたニンジン、ジャガイモ、とうもろこしの粒やお肉がシチューの表面から顔を覗かせている。

 前回とは違って"匂い"があり、これまた"、本物"と似た美味しそうな匂い……これなら"味"も期待できそうだ。

 次にYAMAさんの注文した"雑穀米炒飯"が出された。


「以上ご注文の品全てお持ちしましたぁー! どうぞごゆっくりぃー!」

「YAMAさんのも美味しそうだね! 分けっこしようよ!」

「いいですよ……」


 "雑穀米炒飯"は文字通り、雑穀米を炒めた料理で小さなとうもろこしの粒や肉と葉野菜を細かく刻んだ具がたくさん入っている。

 小皿にお互いの料理を分けたところでさっそく実食してみることにした。 まず俺は自分が注文したシチューから頂く、熱々でとろ~りと下へゆっくり垂れている真っ白なシチューの液体は見ただけで"濃厚そう"な印象。

 俺は食べる前に息を吹きかけて冷ましたかったのだが、突如手が動いて俺の意思とは関係なく勝手に食べ始める。


「熱ッ!! あっ! あっ…つ、ウマッ!! 熱ッ!!」

「あ、ゴメン勝手に"食べる"のコマンド押しちゃったよ」


 食事も野中の操作なしでは食べれないとは……、改めて不便な状態に陥ったものだと感じた、俺はシチューが少し冷めるまで待つことにして、YAMAさんの注文した炒飯を頂くことにする。

 雑穀米炒飯は具が多く食べ応えがあり、それほど油っぽくないのでギトギト感があまりない。

 その後丁度良く冷めたシチューを口にしながら、改めて"動物の皮"の採取方法について話を始めた。


「話の続きだけど……どうやって動物を捕獲するか? 何か策はある? んぐんぐ……」


 俺はシチューを食べながら2人に問いかける。


「あの……先程言いかけたんですが、稲島さんの弓で遠くから狙って仕留めれば良いかと……もぐもぐ……」

「あぁ、そういえば野中もそんな事言っていたよな? なぁ野中?」


 俺は野中に問いかけるが返事がない。


「野中? おーい、トイレか?」


『ガザゴソ…… ブブッ』


 どこからともなくマイクを弄る音が聞こえる、マイクの調子が悪いのか?


「おぉスマンスマン、ちょっとネットでさこのゲームの"動物の皮"の採取方法について調べていたんだ!」


 野中はネットでこのゲームの攻略情報を調べていたらしい、情報によると動物の皮は動物を捕獲すれば採取は出来るが草原や森、山などにいる"猟師"からも購入できるとの事だ。


「それじゃあ"猟師"さんから幾つか購入して、足りない分は俺達で手に入れるっていうのもアリだね」

「でもそうするとまたお金が必要になるからな、また仕事サブクエストしなければならないな」

「……とりあえず、"猟師"さんがどこにいるか探しながら動いてみませんか……?」


 こうして俺達の次の目標は「猟師さんを見つけて動物の皮を購入出来るだけ購入する」事になった。

次にやるべき事も決まったところで丁度食事も終え、会計を済ませるも、これでまた無一文。 

 少しでも所持金を手に入れる為に次に俺達は「秘薬館」へと行き、朝手に入れた”ハニーフラワー"と"キノコ"を売りに向かった。


「これから行く『秘薬館』はね、ちょっと"臭い"が強いから気を付けてね……」

「臭い……ですか?」


 過去に3度「秘薬館」に来店しているが、店内に充満した生薬や薬品、そして"何か"の腐敗臭には未だになれない。

 きっと初めて訪れる彼女は驚くだろうと思い、予め警告だけはしておく。

 時間帯も夜の20時「秘薬館」に到着すると店には明かりがついており店は開店していた。


「よしッ……開けてくれ野中!」

「開けるよ…稲島ッ、YAMAさん!」

「……はい」


俺の合図で野中が店のドアを開けるコマンドを押すとドアが開き、中からいつもと同じ"強烈な臭い"がムワッと襲ってきた!


「んぶフッ!!」


 前回は命辛々山賊の攻撃から逃げてきた為に臭いの事など気にも留めなかったが、改めて意識して嗅ぐとやはり臭い!

 暫く店内に入れば臭いにもなれるのだが……YAMAさんは耐えられるだろうか……? 俺はYAMAさんの様子を見ると、彼女は店内のへと入っていこうとしていた。


「ちょっ、YAMAさん?! 大丈夫なのッ?」

「はい……確かに臭いはしますが、大した程ではなかったので……平気です」


 この臭いが"大した程ではない"……? YAMAさん……鼻が悪いのか? それとも普段からこの臭いよりも"強烈な臭い"を嗅いでいるのか……?

 人様のプライベートには触れない様にしているが、少しばかりYAMAさんが普段からどんな環境で暮らしているのか気になった……。

 店内に入ると、奥のカウンターではいつもの様に女店主が滞在していた。


「いらっしゃい~、あんれまアンタかい」

「どうも、2つだけなんだけど……素材また買い取ってくれる?」

「いいよいいよ~! ……そこにいるんは"彼女"かぇ?」


 女店主は小指を立てると第二関節をクィクィと動かす、ちょっと俺はドキッとしたがすぐに否定した。


「いやぁ、その……宿屋で知り合った冒険……冒険仲間だよ!」


 YAMAさんは照れたのだろうか、顔を下に俯かせたまま何も喋らなかった。


「そうかぁ仲間増えてえがったなぁ、どれ何を売ってくれるんだい?」

「"ハニーフラワー"と"キノコ"なんだけど……YAMAさん、キノコは持ってきている?」

「はい……コレです」


 YAMAさんはポケットから手に入れた"よくわからないキノコ"を取り出し、カウンターに置く。

 彼女は採取した際に「よくわからないキノコ」と言っていたが、俺は初めてそのキノコを見て"よくわからない"の意味がわかった。

 目の前に出されたキノコは柄の上に傘が広がったごく一般的なキノコの形状をしているが、他のキノコと唯一違う点がある。


「光っている……」


 そのキノコは傘部分が仄かに光っていて、その照度は蝋燭並みだ。


「草の中で明かりが見えたので……なんだろうと思って見てみたらこの……光るキノコがあったんです……」

「これは……"テラスダケ"だねぇ」

「テラス?」

「この仄かな光で道を"照らす"からそう呼ばれてんだぁ、薬用素材としてよく使われるから引き取るよぉ」


 こうして入手した素材の買い取り合計金額は……



◎ハニーフラワー 1本3G

◎テラスダケ   1本10G


※合計※     13G


 雀の涙程の金額だがこれでも貴重な財産、俺は店に寄ったついでに新しい仕事はないか聞いてみる。


「俺達仕事探しているんだけど……何か手伝えることはある?」

「うーん……そうさねぇ、そろそろ"薪"が少なくなってきたから薪を調達してきて欲しいねぇ」

「薪?」

「んだ、部屋の暖房やら素材を煮込む為の燃料やらに沢山使うからすーぐなくなっちまうだぁ、いつもは森にいる猟師さんにお願いしてるんだっけどもなよ……」


 聞き捨てならないワードが出てきた。 女店主は確かに"猟師"と発言した、さらに前には"森にいる"と明確な場所まで聞こえた。


「じゃあ森にいる猟師さんに会って薪を貰ってくれば良いんだな! 森のどこにいるの?!」

「森に入る入り口付近に木の小屋があるでな、普段はそこに居んだけども……最近まったく顔見せねぇんだよなぁ……」

「普段は……よくお店にくるんですか……?」

「んだ、不定期だけども1週間に1度は薪だけでなくアンタらみたいに薬の素材やらなんやら色々と持ってけてくれんだっけどもなよぉ」


 森と言えば以前俺が山賊に襲われた場所の事だろうか……? もしかしたら猟師さんも山賊かまたはモンスターに襲われた可能性があるかもしれない、そうなれば"動物の皮"の入手が困難になってしまう!


「それじゃあ、依頼を受けるついでに様子を見てくるよ」

「あんがとぉ、よろしく頼むよぉ」


 俺は猟師さんの安全確認も含め女店主の依頼を承諾し、猟師さんの居場所が示された地図を貰い、俺達は宿へと戻り明日の朝、森へと向かうことにした。




◎沿岸の街シー・サン(朝)◎




 今日は"秘薬館"の女店主の依頼で"薪"30本の入手と森にいる"猟師"の安全確認をする為、有事に備えて武器を手にして森へと向かった。


「森には山賊がいるんですか……?」

「夜の森で出会った事があるけど、どこにいるかわからないからね……油断は禁物だよ」


 猟師は森の入り口付近に木の小屋で暮らしながら仕事をしているそうだ。 森の中でないとはいえ山賊達の縄張り近くにいる訳だからいつ狙われてもおかしくない、俺達も細心の注意を払って行動しなければならない。

 街を出て草原を歩いていると、遠くから高々に伸びている木々が見えてきた。 俺達は森の入り口付近まで来るとそこから"木の小屋"らしき建築物を探し始めた。


「うーん……見渡す限り"木"と"草"しか見当たらねぇ……どっから探せばいいんだろう……」

「……川です」

「川?」

「生活する上で"水"は絶対必要なので……、もし私が家を建てるのであれば……水源が確保できる場所が良いかと……」


 なるほど、YAMAさんの言う通り自分が森で暮らすことを考えると生活上必要な資源が得られる"環境"に家を建てるだろう。 ましてや"水"は生きていくのに必要不可欠、近くで流れている川を辿れば猟師さんのいる木の小屋がある可能性が高い!

 さっそく近くで川が流れていないか探索してみる、すると少し離れた場所で地面から光り輝く場所が見える、もしかしたら……俺は野中に光が輝く場所まで移動してもらうと……


「あった!」


 光の源は、太陽の日差しで水面が反射した小川だ。

 他に見渡すもこの小川以外に川らしきものは見当たらない、俺達はこの川の上流へと向かってみることにした。

 "入り口付近"に小屋があると聞いていたからそんな山奥まで入らないと思うが……、川を辿りながら周囲を探索していると俺は"妙なモノ"を見つける。


「なぁ、あそこの切り株に斧が刺さってないか?」

「本当だ、ありゃ斧だ」


 道中、切り株に斧が突き刺さった状態で放置されているのを見つけた。 切り株周辺には木屑が散乱している、ここで誰かが"薪"を割っていたんだろう。

 この状況を見れば"誰が"ここで薪を割っていたのか大体想像がつく、するとYAMAさんが俺に声を掛けた。


「野中さん……あそこに小屋があります」


 YAMAさんの視線の先には確かに"小屋"らしき建築物があった。外観は明るい茶色の木材を使用した三角屋根の小さな家……というより、コテージなどで見かけるログハウスだ。

 近くまで来てみると小屋周辺の草周りは綺麗に刈り取られており、小屋の右隣には木の柵で囲まれた小さな畑もあり農作物が実っている。 今でもここに誰かが住んでいるのは明白であろう、俺達は扉へと近づきノックをする。


「すみませーん! 誰かいませんかぁ?」



 ドアを叩きながら叫ぶが、誰も



『ガチャッ』


「うぃ? どなた?」



 出た、普通に出てきた! 扉を開けて出てきたのは中年の男性、くち回りはモサッとした三方ひげが生えており、頭にはバンダナを巻いている。 

 身長が高い上に身体つきも良く、俺達が探している"猟師"……なのだろうか?


「あ、あのッ シー・サンの街で"秘薬館"というお店の店主からのお願いで……」


 俺が"秘薬館"をくちにした途端、中年の男性は目を大きくした後、笑みを浮かべた。


「おぉん! エリィの事か! そういえばここ最近街へ行っていないからなぁ!!」

(エリィ……女店主の名前か?)


 どうやら彼が例の"猟師"であることに間違いない、最初は怖い印象だったが彼の笑顔を見た瞬間、陽気で優しい印象へと変貌した。

 俺はさっそく目的の"薪"と"動物の皮"を調達する為、話をする事に。 


「薪を30本程頂きたいのと……もしよろしければ"動物の皮"もあれば譲って頂けませんか? お金はすぐに用意出来ませんが……20枚ほど欲しいんですが……」

「うーん……薪ならすぐにでも渡せるんだが、"動物の皮"に関してはちょっと問題があってな……まぁ、ここで話すのもナンだ! 中へ入れッ!」


 猟師さんのお言葉に甘えてお邪魔させて頂いた、部屋の真ん中には大きな食事テーブルと椅子が4つあり、空いている席に座らせてもらう。

 席に着いた俺は部屋を見渡してみると"木材"のみで作られた家は普段俺達が住んでいる"家"とは異なり、木材の明るい色味から部屋全体の空間に""と安らぎ"温かみ"ある優しい雰囲気が感じられる。


「さぁさぁ! 俺の作った自家製クッキーだッ! 遠慮せず食え!」

「おぉう!」

「わぁ……」


 テーブルの上に『どんッ!』と、大量のクッキーが入ったお皿が乗せられた。

出されたクッキーはどれも"お煎餅"並みの大きさであり、中には某栄養調整食品に似た"ショートブレッド"と呼ばれるモノや"猫の舌"と呼ばれる小さく薄い生地で作られたクッキー等多種類のクッキーがある。


「ホレィ! これは俺が育てたハーブで作った"ハーブティー"だ! コーヒーが良かったかッ?!」

「わぁ……ハーブティー頂きます……!」


 次は自家製のハーブティーと来た。 YAMAさんは嬉しそうにクッキーとハーブティーを交互に口にしながら味を楽しんでいる。


「遠慮すんなッ! そこら辺の獣でも捕まえて飯も作ってやるぞ! それかパフェでも作るかぁ?? ヌァハハッ!!」


 なんて男らしくも女子力の高い猟師さんだ……、俺も美味しいクッキーを頂きながら色々と話をする事にした。


「あの、暫く街へいらっしゃらなかったと聞いたんですが何かあったんですか? 秘薬館の…エリィ……さん? 心配してましたよ」

「うーんむぅ……」


 猟師さんは急に険しい表情になると、俺達の向かいの席に腰を掛ける。


「実はなぁ……ここ最近"バケモン"が森の中で暴れまわっていてなぁ……」

「バケモン……モンスターの事ですか?」

「いやぁ動物だ、デッカイ"猪"が森で大暴れしてんのさぁ」


 デッカイ猪……、具体的な大きさは聞かなかったがきっと相当な大きさなんだろう。

 猟師さんの話によると、ある日猟の最中、森の中で大きな猪が大暴れしている場面を目撃し、暴れている原因は判らないが猪が暴れた事で他の動物達が怖がって逃げ出してしまい、街にある各店舗へと送る予定の動物の"肉"や"皮"を届ける事が出来ずに困っていたらしい。

 それでここ最近は暴れる猪を仕留めようとずっと森の中で猪を追いかけていたという。


「猪ってのぁ非常に警戒心が強い上に神経質なんだぁ、そんなヤツを放っておけばいつかは人里へとやって来るかもしんねぇ!」

「なるほど……」


 という事はその暴れている猪がいる限り、動物の皮が手に入らないのか、そうなると地道に一匹ずつ捕獲して、少しずつ皮を集めるしかない……と俺は考えた。


「ところでオメェ! 背中に立派な"弓"背負っているがぁオメェも猟師か! なら"猪討伐"手伝えッ!」

「えっ」

「矢ならたくさんある! 俺一人よか人数が多い方が早く仕留められるってもんだッ! ヌゥアッハハハハハ!!」

「えっ……えっ?!」


 まさか、まさかの展開が発生した。


 俺はただ薪と動物の皮を貰いに来ただけなのに、どうして"討伐"をしなくては?! 申し訳ないが、俺としては安全かつ安心な"やり方"で手に入れたいのでお断りしようとしたが、ここにきて朗報が飛び込んだ。


「あの大きさの猪だぁ……! 捕獲すれば皮なんて20枚どころか50枚は手に入るかもしれんぞッ!」

「んッ! 50枚?!」

「あぁ! あの大きさならそれ位は手に入るだろッ! 一緒に協力して討伐してくれんのなら"動物の皮20枚"くれてやるッ!」


 猟師さんはそう言うと俺に手を差し出した。


「おい稲島ッ……画面上に"依頼を承諾しますか?"って表示されているけど……どうする?」


 "バケモン級の猪"……正直会いたくないし討伐したくないが……、一気に欲しいモノが得られるチャンスでもある。


(しかし……下手すれば"命"を落としかねない、それだけは絶対にヤダ! ……しかし、得られるモノが一気に……! ……でも命がッ……!)


 俺は心の中で激しい葛藤を繰り広げていた。


「どうすんだッ!?」

「どうする稲島ッ?!」

「稲島さん……」


 皆が俺に決断を迫っている。 ここでイジイジ悩んでいても仕方がない!

 俺は猟師さんと野中に聞こえるよう大きな声で言った。


「やろうッ!!」


 すると俺の右手が動き出し、猟師さんの手を強く握った。 どうやら野中が依頼承諾の選んだからだろう。


「よぉし! それでこそおとこだッ! さっそく俺達2人で討伐するゾォ!!」

「えっ?! 今ッ……? 2人ッ?!」

「女を危ない目に合わせられるかッ! ヌゥアハハッ!!」

「頑張って下さいね……野中さん」


 YAMAさんは小屋でお留守番し、俺は猟師さんと共に"バケモン"と呼ばれる猪を討伐しに出掛ける事になった。 

 全ては装備の為、今後の為……だけど……


(怖ぇえ……)


 しかし今回は心強い猟師さんも一緒なのでどうにか……なるだろう!

 こうして俺は猟師さんと共に"バケモン猪"を討伐しに森の奥へと向かった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ