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操作キャラは、俺!  作者: けっぱる
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はじめての「サブクエスト」

 街から少し離れた森の中、今日は満月ということもあり夜の森には月の光が入り込み視界が良く見える。俺は今、街の薬屋「秘薬館」の女店主からサブクエスト『夜時花やじか5本の採取』の依頼を受けている途中であった。


 俺は女店主から貰った「採取ポーチ」を野中の操作で腰に装着してもらい、夜の森の中で「夜時花」を探していたのだが……。


「なぁ野中、『夜時花』ってどんな花なんだろう?」

「あっ、そういうえば特徴とか聞いてねぇな……、戻って聞いてくるか?」

「もう夜の10時だ、店も閉まっているだろう……」


 「夜時花」の特徴を知らぬまま、俺達は夜の森まで来てしまった。 俺だったら途方に暮れているところだが、ここで野中からまたもアドバイスを貰う。


「まぁ、『夜』にしか咲かない花っていうのだから、他の花とは異なる『表現』があると俺は思うんだ」

「表現?」

「例えばだ、『夜になると発光する』とか『夜になると香りが強くなる』とか、後者の花は現実にも存在するんだよ」

「それじゃあ他の花と見比べながら探してみよう、確か対象に近付くと『名称』が表示されるんだよな」


 草木に自生している花、水辺に自生している花、木の幹に生えている花など、ありとあらゆる場所を探索しながら気になる花を見つけては徹底的に調べたが、『夜時花』は見つからなかった。

 他のゲーム、映画やファンタジー小説など、あらゆる作品に登場する似たような『花』がどのような環境でどんな場所に咲いているかを野中と話し合いながら森の中を歩き回る。


「こういう『花』っていうのはさ、地面とかじゃなくて高い場所とか人が通れない過酷な場所に自生したりしているんだよなぁ」

「そもそも……『森』という環境にその花があるとも限らんよな、もしかしたら海とか洞窟の中とかさ、特定の場所だけにしか生息しているのかもしれないし……」

「ゲームでの時間は夜の0時12分だぞ、2時までに見つけないと手に入らないからな……」


 俺は野中と話し合い、今日の探索はここまでにして明日の朝に「秘薬館」の女店主にもう一度「夜時花」の特徴を聞いて、改めて探す事にした。

 RPGのゲームというのは、いや……現実の世界でもそうだが、夜というのは「野性動物」や「危ない人間」が活発に動く時間帯。 

 モンスターだってそうだ、朝や昼よりも「夜」の方が活発になるに違いない、装備が整っていない俺が闇の中から突然襲われれば一発で『ゲームオーバー』だろう。 そうなる前に街へ戻っておくべきだと判断した。


「魔法か魔法アイテムがあればなぁ、ファストトラベル(※瞬間移動)できるのに……」

「トラブル解決までまだ時間が掛かるようであれば、そういった『能力』も習得した方が良いかもね」


 野中が「マップ画面」を開き、街への帰路を確認する。


「おい、稲島! この近くに浜辺へ出られる道があるぞ!」

「浜辺? いや街だろ、戻るのは」

「浜辺から街へ入る門もあるし……もしかしたらお前の言う通り『夜時花』があるかもしれんぞ!」


 それも一理ある、それにこのゲームのリアルな世界観なら「夜の海」もさぞかし美しいだろう、一度は見てみたい。 俺は野中に操作を任せ浜辺へと向かった。

 暫くすると森の木々は徐々に少なくなり、歩いている地面の草木も減ってゆきサラサラとした砂地へと変わっていった。


◎シー・サン海岸◎


 思った通りだ。 夜の海は波の音だけが鳴り響き、昼間の爽やかな風とは違い少し潮風の香りがする。空は満月と綺麗な星空。

 ゲームの世界に閉じ込められた「不安」が少し和らぐ、仮想現実とはいえやはり「自然」というのは人の心に癒しを与えてくれるものだと改めて感じる。


「稲島、あそこの砂浜にある石に植物らしきつるがあるぞ」

「あぁ、あの石か」


 野中が発見した石は、直径50cm程の平べったくもので石の表面には植物の蔓がびっしり巻き付いている。 近づいて見てみようとすると石が『ピクッ』と動いたように見えた。


「野中! 今、石が動かなかったか?」

「えっ? そう?」


 野中には見えなかったらしいが、微かに、微かに「石」らしき物体が動いたように見えた。 しかし暫く見ていても石は動く気配を見せなかった。


「潮風で石の表面に付着している蔓が動いたからそういう風に見えたんじゃないのか? 大丈夫だろ」


 気のせいだったのか……、俺は再び石に近付いて表面に付着している蔓を調べようとした……


 その時だった!

 


 『バコォ!!』

 「うげぇ!!」


 突然、石が飛び上がり俺の顔面に直撃した。 俺は後ろへと倒れ込み、顔に残った激痛を掌で押さえながらゴロゴロと転がり込んでいた。


「稲島! こいつ『石』じゃねえぞ! モンスターだッ!!」

「ッッツ……!」


 手で顔を抑えながら指の隙間からモンスターの姿を確認する。よく見ると、表面の蔓みたいなモノは、ワカメなどの海藻類であり、『石』と思われた平べったい物体は真ん中からゆっくりと『くち』を開き始め、中から貝柱らしき物体真ん中に大きな目玉が一つ現れた。

 

「こいつ『貝』のモンスターか! でけぇシジミみてぇだな!」


 シジミみたいなモンスターはまたもや俺に向かって飛び跳ねてきた。しかも今度は貝殻が開いた状態で、まるで獲物に噛みつくかのように襲って来たのだ。


「あっぶねぇ!」


 野中の操作で俺は緊急回避アクションをする。 攻撃を回避した瞬間、貝は大きく開いた『クチ』を閉じると同時に『バチンッ!』 という大きな音がした。

 あれを喰らってしまったら一溜りもない……、現にシャコガイのように大きな「貝」は閉じる力が凄まじく強いとの事だ。


「跳躍力が凄い! 逃げるか稲島?!」

「いや……顔面ぶつけられたんだ、こっちも一発喰らわせねぇと気が済まねぇ! 一発喰らわしたら逃げるぞ野中ッ!」

「逃げるんだ……」


 俺は昼間倒した盗賊から奪ったナイフを装備して貰い、貝モンスターに攻撃を仕掛ける。 コイツは正面からの攻撃は危険だが、攻撃を回避し、後ろからすぐに攻撃をすればダメージを与える事が出来る。

 そう考えた俺は野中に指示をして実行に移る――――。


「来るぞ! 野中!」


 貝モンスターが大きなクチを開きながら俺に向かって飛び跳ねる。


「ほいさッ!」


 攻撃が当たる前に野中の操作によって、先程と同く回避に成功。 すぐさま貝のモンスターの背後に向かって走り、手に持ったナイフを思い切り振りかざす。 


『ガッキィイイィィン!!』


 ナイフは貝モンスターの貝殻に当たったが、貝殻のあまりの固さにナイフが貫通せずに攻撃が弾き返されてしまった。


「野中ッ! 今の攻撃でナイフの刃が壊れたぞ!」

「えぇっ?! あっ本当だ!」


 手に持っていたナイフの刃が砕けていた。

 

 ゲームの説明書によるとこのゲームでは『武器』や『防具』には『耐久値』があり、『耐久値』が低いと使用中に壊れてしまう事がある。 

 ……どうやら俺が盗賊から奪ったナイフは「粗悪品」だったらしい。


「だめだッ! 逃げるぞ稲島!」

「ひひぃッ!」


 俺は襲い掛かってくる貝モンスターから必死で逃げていた。 それでも貝モンスターは『逃がさん!』とばかりにピョンピョンと飛び跳ねながら追ってくる。

 砂浜を抜けて、俺は街の門へと続く石の階段を駆け上るがこれが結構長い階段で、走って逃げてきた俺はスタミナが切れていて、階段は歩いて上るしかなかった。


「稲島ッ!早く上れないのか!」

「ハァ…ハッ……ダメだ、早く動けそうにない……」


 後ろを見てみると貝モンスターが徐々に近づき、飛び跳ねながら階段を上ってきた。 

 襲われるのも時間の問題と思ったが、上ってくる貝モンスターを見て、俺は打開策を思いつく。


「野中ッ! 俺を階段の高い所まで移動させてくれ!」

「えっ? あっ! わかった!」


 野中は言われてた通りに俺を高い所まで上らせた、走り疲れてゆっくりながらも少しずつ階段を上へ上へと歩き、もう少しで門の入り口という所まで近づく。


「野中、ここであのモンスターがくるのを待て!」

「あと少しで街だぞ! あいつは倒せない!」

「一発喰らわせないと気が済まねぇ! あいつが攻撃をかわした瞬間に距離をとって正面から思い切り殴ってくれ! 思い切りだぞ!」

「わっわかった!」


 俺は後ろを振り返り、貝のモンスターが近づいてくるのを待つ。 少しずつ、着々と俺に向かって近づいてくる……。

 そして、遂に貝のモンスターは俺の元へ辿り着き、大きなクチを開いて襲い掛かる。


「バックステップ!」


 そう叫ぶと、俺の右足は階段を蹴り上げ後方へと下がる。 貝モンスターは俺が元いた位置に思い切りぶつかる。

 俺がバックステップしたのは攻撃回避をしただけでなく、後方には街へ入る門の入り口がある為これ以上階段はなく、思い切り前方に進みながら攻撃を仕掛けられるスペースと距離を確保する為でもあった。

 そして貝モンスターは階段という凹凸の起伏のせいで、上手く体勢が整えられずガタッガタッと蠢いていた。

 

「いくぞ! 渾身の一撃!」


 野中が叫ぶと同時に、盗賊の時と同様に右手の拳が固く握りしめられ、俺の身体は前方にいる貝モンスターへと向かって移動し、固く握りしめられていた右手拳を上から思い切り振り下ろす。


『ゴッ!』


「痛い!」


 攻撃は当てたものの生身の右手拳では固い貝殻を砕くことは出来なかった……


 ……出来なかったが、俺の目的は「別に」あった。


「あっ! 貝モンスターが落ちていく!」


 俺の攻撃が直接効かなかったものの、俺が攻撃を加えた反動で貝モンスターはスーパーボールのようにバウンドしながらそのまま下へと思い切り転げ落ちていった。


「高い所から落とせば止まる事が出来ずにそのまま落下していくかな……っと思ってさ」

「おぉ……まさしく『地の利』を活かしたな、稲島!」


 こうして貝モンスターの襲撃から何とか逃れる事が出来たものの、サブクエストの「夜時花」を見つける事が出来なかった……。


「ゲーム時間は深夜の1時……まぁどのみち明日探すつもりだったからな」

「あぁ……今日はもう帰ろう……」


 ゲームの初日から色々と大変な目に出会い、俺は心身ともに疲れていた。

 門をくぐって街へと再び戻り宿屋へと向かう途中で「秘薬館」の前を通ると、店の窓から明かりが見える。


「あれ? 閉店しているんじゃないのか?」

「……寄ってみる?」


 店のドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていなかったのでそのままお店の中へと入り込む。


「いらっしゃ……あんれぇ、夕方の人でねぇのよさ」

「あれ? お店……まだやってたんですか?」

「私が『夜型』の人間だからねぇ、お店もぉ夕方の17時から深夜の3時まで営業してんのよぉ~」


 そうだったのか……お店によって営業時間も異なるのか……

 

「んで? どしたの? 『夜時花』、手に入れたのかぁ?」

「いや、それが探しに出掛けたけど……『夜時花』の特徴がわからなくて……」

「あっ、あ~~! そうだった、そうだった! わりぃねぇ、どんな特徴だったのか伝えるのわーすれてたよぉ!」


 女店主はケラケラと笑いながらカウンターの奥にある戸棚から一枚の紙を手に取る。


「ハイこれぇ、『夜時花』の絵が描いている資料だぁ これを参考にまた明日にでも見つけてくれやぁ」


 渡されたのは『夜時花』の絵が描かれた一枚の資料、絵を見ると『夜時花』の花弁は闇夜の如く黒い色で、茎と葉も黒に近い紫色をしており、花自体も小さく「ハルジオン」に似ている。

 資料によると『夜時花』は綺麗な水辺に自生しており、深夜2時を過ぎると枯れてしまいそれと同時に薬用効果もなくなってしまうらしい。


「これを夜に見つけるのは難しいわぁ……それに摘んだら深夜の2時までに届けないとダメってことだろ?」

「そうなると明かりも必要だな……松明とか」

「それならぁ、朝に街の広場にある露店の中に『マッテイのリサイクルショップ』ってのがあるでよ、そこなら色んな物が安く手に入るよぉ」


 こうして俺達は女店主から『夜時花』の情報を手に入れ、「秘薬館」を後にした。 宿屋へ着いた俺達は部屋に戻り、俺は野中の操作でベットで横になることが出来た。


「稲島、『寝る』のコマンドが表示されてるけど……寝てみるか?」

「ちょっと怖いなぁ……でも寝ないと体力回復しないし……」


 俺は昼間の盗賊と先の貝モンスターの戦闘で心身ともに疲れていた。 しかしRPGゲームというのは宿屋で寝ると体力が全回復し、時間も進んで朝になる。

 疲れを残した状態で起き続けるのも辛いので、何が起こるかわからないが俺は寝ることにしてみた……。


「じゃあ稲島……、おやすみ……」

「おっおやすみ……」


 この睡眠が「体力回復」へと繋がるのか、はたまたゲームの不具合が生じてそのまま「永眠」してしまうのか……。

 疲れで判断能力が鈍っており、俺はそのまま深い眠りへと堕ちていった……。


そして……
















~翌朝~



「疲れが……めっちゃとれたぁ!!!!!!!」

「おはよう稲島……、大丈夫か?」

「ダイッ!! ジョウッ!! ブッッ!!」


 俺は心身ともにとてもスッキリしていた。 頭はすっきり、気分は爽快、こんな気持ちの良い感覚で目を覚ますのは生まれて初めてだった。 俺は寝起きだというのにテンションは最高潮に達している。


「なんか……急に意識がなくなって目が覚めたらさ! スッゴイ爽快な気分なのッ!!」

「おっおぅ……それは良かったな、ゲーム時間で10間ほど寝ていたし……でもこれでゲーム内で眠っても大丈夫、と証明出来たな!」

「あぁ! 安全とわかったからもう一度寝よう!」

「いや……買い出しに行かないと……」


 ゲーム世界に閉じ込められていた「不安」はどこへやら、俺は睡眠をとっただけですごい気分が楽になっていた。

 

「野中ッ! 腹減ってないけど朝飯食べに連れてってくれッ!」

「もう昼飯だよ……」

 

 


 こうして俺は気分を新たにし、冒険の続きを再開した―――。



 

 

 


 


 


  


 




 


 


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